エネス⑪
カルディルの死体が転がるがこの場にいるものは誰もそれに注意を払う者はいない。紅神にとってカルディルは敵と認識することもないほどの雑魚であったし、エネスとザーゲルにしてみればこの状況で紅神から目を離すことは死を意味することと同義であることは明らかであったからだ。
「一応言っておくが命乞いは無駄だ。俺はお前たちを生かしておくつもりは一切ない。だが、お前たちがあがくのを止めるつもりは一切ないから好きなだけ足掻け」
紅神は冷たい声でエネスとザーゲルに言い放った。紅神の苛烈な意思を受けてエネスとザーゲルはごくりとのどを鳴らした。
「無礼な!! エネス様に対してなんという言い草だ!!」
ザーゲルが紅神の言葉に激高する。言葉は勇ましいが額にうっすらと汗をかき始めていることからザーゲルが紅神に対して恐怖を感じているのは明らかである。
ザーゲルが紅神への激高の言葉を言い終えた瞬間にザーゲルの顔面に紅神の刀が突き刺さった。紅神が間合いを詰めるとそのまま刀を突き刺したのだ。
「呑気な男だな」
紅神の呆れたような言葉に対してザーゲルは体を痙攣させている。紅神は顔面に突き刺した刀をそのまま下に払うとザーゲルの体はまるで紙を裂くように切り裂かれるとそのまま床に倒れこんだ。ザーゲルの体から血と臓物がこぼれだし床を汚した。
「ザーゲル……」
エネスは茫然とした声を上げる。理解が追い付いていないというような表情である。それも仕方がないだろう。ザーゲルもカルディルも長く自分に仕え自分の敵を数多く屠ってきた剛の者たちだ。それがまったく抵抗もできずに紅神に殺されてしまったのだ。
一瞬の自失の隙をついて紅神がエネスとの間合いを詰めるとザーゲルを屠ったように紅神がエネスの顔面に突きを放った。紅神の刀はエネスの防御陣をまるで紙のように貫きエネスに迫ったのだ。
「く……!!」
エネスが紅神の突きを交わすことが出来たのは奇跡と称されるべきことだったかもしれない。エネスは紅神の突きを躱すと咄嗟に転移魔術を展開しこの場から転移した。
「ほう……あの俺の突きを躱し、そのまま転移魔術で離脱か、見誤っていたな」
紅神が意外そうな表情を浮かべる。エネスの容貌から体術に長けているという印象はなかったため虚を衝かれたという印象であったのだ。しかし、紅神の態度にはまったく余裕というものが失われていない。
「さて……追うか」
紅神はそういうと転移魔術を起動した。
* * *
「はぁはぁ……」
エネスは転移に成功し逃れたことを察すると一気に大量の冷たい汗を流した。突如現れた絶対神エネスに対して周囲にいた天使、神たちは驚き転移してきたのがエネスと気づくとそのまま駆け寄ってきた。
「エネス様!!」
「エネス様いかがなされました!?」
「いったい何が起こったのです?」
天使、神たちがエネスに声をかける。エネスが転移してきた場所は紅神により破壊された宮殿より遠く離れた宮殿である。エネスはこの世界の至るところに宮殿を持っており紅神が破壊したのはその中の一つに過ぎなかったのだ。
そして数ある宮殿のうちエネスがこの宮殿に転移したのにももちろん理由があった。
「敵が攻めてきたのです。すでにカルディル、ザーゲルはその敵によって殺されました」
「な……」
「天使長だけでなく闘神ザーゲル様が」
「一体何者なのですか?」
エネスの言葉に周囲の天使、神たちはいっせいに顔を青くする。天使長カルディル、闘神ザーゲルの強さを知らないものなどここにはいない。
「狼狽えるな!! 私が何のためにここに転移したと思っているのです!!」
エネスの凛とした言葉に天使、神たちは落ち着きを急激に取り戻した。
「そ、それでは……七千年ぶりに?」
一体の神が希望に目を輝かせてエネスに尋ねる。その言葉にエネスは力強くうなづいた。
「ええ、その通りです。神剣『レヴァルディス』、神鎧『ハーヴェール』、神盾『ジールギール』の封印を解きます」
エネスの言葉に天使、神たちの中から〝おおっ!!”という言葉が発せられる。
「しかし、皆も知っての通り封印の解除には多少の時間がかかります。あなたたちは私が封印を解く間に敵が来たときに時間を稼ぎなさい。
「「「「ははぁ!!」」」」
エネスの言葉に天使、神たちは一斉に答える。
「では頼みましたよ」
エネスはそういうと転移魔術を起動すると姿を消した。
「みな聞いた通りだ。エネス様が封印を解くまで我らがお守りするのだ!!」
「おお!!」
一体の神の言葉に全員が賛同の言葉を発した。みなそれぞれ愛用の武器を取り出していく。その場で鎧を召喚し次の瞬間には完全武装を整えた一群が誕生していた。
「ん?」
「あいつか?」
武装を整えた一群の前に紅神が姿を現した。




