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エネス⑨

 エネスに跪く怪物がガハンと聞いた時のジーク達に与えた衝撃は想定していたものより大きいものであった。

 ジーク達にとってエネスは常に自分達の味方であり、偉大な導き手であったのだ。そのエネスがガハンと繋がっていたのはジーク達にとって心のどこかにピシリとひび割れるのを感じた。

 浮かび上がった映像の中でエネスはジーク達が見たことのないような邪悪な表情を浮かべており、ジーク達の心のヒビは加速度的に広がっていく。


『しかし、エネス様……勇者達で本当に創世神を討ち取ることが可能なのでしょうか?』


 ガハンが遠慮がちにエネスに尋ねる。


『成功するわけないでしょう。創世神を人間如き下等生物が討ち取るなんて不可能に決まってるじゃない。あの者達はただの捨て駒よ。創世神を殺す何らかの情報が手に入ればそれで良いわ。まぁ何の情報を持って帰らなくても、新たな勇者と魔王を選出し、殺し合わさせて、また送り込めば良いのよ』


 ガハンの質問に対しエネスの声色はあまりにも毒々しいものである。直に聞いた場合にはその毒に耳が壊死してしまうと思われるほどである。


「あの時のエルフェルクの……言葉は本当の事だったのか」


 ジークは呆然とした表情を浮かべ小さく呟いた。その声はとてもか細く勇者と言うよりも今にも泣き出しそうな幼子のように見える。


「エルフェルクは何と言ったんだ?」


 アーノスがジークに尋ねる。


「俺達はエネスの駒だと……」


 ジークの言葉にアーノス達は沈黙する。その沈黙こそが彼らの絶望を表現しているのは間違いないだろう。


呪い(・・)か……さっきあんた、この四人にはこのエネスとやらの呪いがかけられてたとか言わなかったっけ?」


 そこに華耶が紅神に尋ねると紅神はあっさりと頷いた。


「そういう事だ。さっきも言ったが呪い自体は解いているから問題は無い」

「ふ~ん、あんた達も災難ね。質の悪い神に見込まれちゃったわけね」


 華耶は同情を含んだ声でジーク達に告げる。情けをかけられているという現実はジーク達の心を抉った。


「あの……俺達にかけられた呪いとは一体?」


 ジークの言葉に紅神は言う。


「君達はエネスから何かしら受け取っただろう?」

「は、はい。加護として装備をもらいました」

「ああ、それだな。俺と戦った時も突然強くなっただろう。あれは君達の力を爆発的に強化させるものだったようだが、同時に副作用もあった」

「副作用ですか?」


 紅神の言葉にジークは首を傾げながら答える。同時に心当たりもあったためにアーノス達と視線を交わし合うと互いに頷いた。


「確かに目が覚めてから……妙にスッキリとした感覚が」


 ジークは紅神にそう返答すると紅神もまた納得した様に頷く。


「だろうな。あの力はエネスの力により無理矢理、君達の中にあるストッパーを外すためのモノだ」

「ストッパーですか?」

「ああ、生物には全力が出せないようにストッパーが付いている。そのストッパーがあるために全力を出せない」

「なんでそんな……」

「防衛本能という奴だ。本来生物の力を使えば子どもであっても岩を素手で砕くことも可能だが、当然そんなことをすれば体が耐えきれない。だからストッパーによりそんな事にならないように力をセーブすることになっているんだ」

「なるほど」

「ところがエネスがやったのはそのストッパーを無理矢理開ける事だ。その結果凄まじい力を発揮することができるが色々な副作用が現れる」


 紅神はここで話を切ってジーク達を見るとジーク達はそれぞれの表情で頷いた。


「代表的なモノで言えば闘争本能が異常に解放される。特にエネスとやらは君達を捨て駒にして創世神様を害そうとしたのだからより強く闘争本能が強化された術式を仕込まれたんじゃないかな」


 紅神の言葉にジーク達は絶句する。あの時エネスから授けられた宝珠がそのようなものであるとは思ってもみなかったのだ。


「じゃあ……エネス様の言っていた十分って……」


 シェリーはワナワナと震えながら疑問を呈する。紅神はその疑問に淡々と返答する。


「死んでたね」


 紅神の淡々とした声はジーク達にそれが真実であったと考えさせるには十分すぎる程の説得力を持っていた。


『あの捨て駒達はどんな情報を持って帰ってくるかしら……楽しみね』


 映像の中ではエネスとガハンが毒々しい会話を続けている。


「ああ、ちなみに君達の中にあった宝珠なんだが君達の記憶を回収するための術式が仕込んであったぞ」


 紅神の言葉にジーク達はもはや何度目かの驚くべき事実により呆然としていた。


「これを君達が死んだ時にエネスの元に転移するようになっていたみたいだな」

「そんな……」

「私達は……欺されていたの……」


 アルマとシェリーはうつむいて悔しそうな声を出した。


「まぁ、エネスは調子に乗りすぎたな」


 紅神はそう言うと立ち上がった。紅神が立ち上がった瞬間にジーク達は凄まじい威圧感を感じた。腰が砕けそうになったのだが何とか全員が踏みとどまることができたのは勇者とその中また血との矜持と言うべきものであっただろう。


「とりあえず、事情はそんなところだ」

「え?」

「君達も当事者というよりも被害者だからな伝えておこうと思ってな」

「は?」


 ジーク達は紅神が何を言おうとしているのか察する事が出来ずに呆けた表情を浮かべている。それを見て紅神は小さく嗤うとジーク達に告げた。


「俺がエネスを斬るという事情の説明だよ」


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