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エネス⑦

 ジーク達四人から凄まじいばかりの力の奔流が巻き起こるが紅神はまったく動じることなく四人を見ている。


(……はぁ、この力の奔流……神の力を宿されたというわけか。人間がこれほどの力を得たとしても体が持つはず無い。と言う事はこいつらは捨て駒と言うことか)


 紅神は冷静に四人を眺めてそう結論づける。四人に宿る力は間違いなく神の力であるが神の力を行使するには人間の体は脆弱すぎるのは明らかだ。

 確かに世界によって人間の体の強靱さは異なる。しかし、ジーク達の体の強靱さは宿る神の力に耐えきれない事を紅神は気付たのだ。


「一応言っておくがお前達はその力を使い続ければ間違いなく死ぬぞ。悪い事は言わんからすぐにその力を使うのは止めろ」


 紅神の言葉は親切心から来るものであったのだが四人の受けた印象は大分異なっている。ジーク達は紅神が自分達の力に恐れおののきエネスから授かった力を使わせないようするための脅しと受け取っていたのだ。


「……いくぞ」


 ジークが闇を裂く剣(エメルギルス)を構えると仲間達もそれにならってそれぞれ武器を構えた。それを見て紅神の口からため息が発せられる。


(結局のところ……こいつも信じたい事だけを信じるというわけか)


 紅神のため息は忠告が聞き入れられなかった事に対する落胆だけではない。人間にかぎらず、魔王、神、天使と様々な者達がここに侵入してきたが、忠告をまともに聞いた者など結局いないのだ。みな自分の力に自惚れ紅神よりも強いと思い込み攻撃してきたのだ。

 それらの者は紅神の斬撃に両断される瞬間まで自分の強さを疑わない。すなわち自分が紅神よりも強いという事だけを信じたいのだ。


 アルマが紅神に向かって巨大な黒い炎の塊を放つ。アルマが持つ数多くの魔術のうち最大級の火力を持つ火天凶獄(エルギス)である。この魔術は地獄の炎である黒炎を集め敵を焼き尽くすという魔術だ。

 しかもこの時のアルマの火天凶獄(エルギス)はエネスの力によりより強力になっている。


「はぁ……」


 紅神はため息を一つ付くと放たれた黒炎の火球をまるで蠅でも払うように手を振った。するとそのまま火球は紅神をそれてあらぬ方向へ飛んでいった。


「そ、そんな……」


 アルマの口から絶望の声が発せられた。今自分が放った火天凶獄(エルギス)がどれほどの威力であるか分かっていたのだ。だが、その渾身の魔術も紅神は通じなかった。いや、通じないどころか相手にすらされていないと感じたのだ。


「くそ!! いくぞアーノス!!」

「ああ!!」


 ジークとアーノスは互いに意思を確認し合うと紅神へ斬りかかった。凄まじい速度で斬りかかるジークとアーノスであるが紅神はまったく余裕の表情である。二人は一瞬で紅神との間合いを詰めるとそのまま斬撃を繰り出した。


「な……」

「そんな……」


 ジークとアーノスの口から驚愕の声が発せられた。ジークとアーノスの斬撃は確かに紅神を斬り裂いているように見えるのだが二人の手には何の手応えも発していないのだ。


「さっきよりは速くなったが……その程度では当たらんよ」


 紅神の声は残酷な現実をジークとアーノスに与えた。ジークとアーノスの動きは人間の限界を遥かに上回ったものであり、その動きを捕らえることのできる者などもはや人間どころか魔族達であっても不可能なはずである。

 しかし、紅神の動きはそれよりも遙か先を行っており、ジークとアーノスは紅神の残像を斬っているに過ぎないのだ。


(まぁ、これ以上使わせると死んでしまうな……)


 紅神はそう判断するとアーノスの渾身の斬撃を躱すと同時にアーノスの首筋に手刀を叩き込んだ。首筋に手刀を受けたアーノスは意識を失うとその場に倒れ込んでしまった。本気どころか加減を誤ればアーノスの首は落ちてしまうところだが紅神は細心の注意を払ってアーノスに一撃を加えたのだ。


「アーノス!!」


 ジークの口から動揺の声があがるが紅神はスルリとジークの間合いに飛び込むとジークの顎先をふっと一撃加えた。脳を激しく揺さぶられたジークはそのまま倒れ込んでしまった。


「そ、そんな……」

「うそ……」


 アルマとシェリーの表情には信じられないという心情がありありと浮かんでいた。もちろん今までの攻防で紅神の飛び抜けた実力は察していた。しかし、エネスからもらった力を使う前の事であり、自分の中から発せられるエネスの力を感じており紅神に勝てると思っていたのに実際は思い込みであった事に気付いてしまったのだ。


「どうやら、理解したようだな」


 紅神は淡々とアルマとシェリーに言う。二人はその時初めて紅神の強さというものを本質的に理解したのかも知れない。紅神の力が強すぎて二人は実力を測り損ねていた事に気付いたのだ。

 その事に気付いた時にアルマとシェリーの体から大量の汗が噴き出してくる。その汗は粘度が高く、そして何よりも冷たかった。


「さて……最後の警告だ。その力を使うのは止めろ。どうせ通じないし死期を早めるぞ」


 紅神の言葉は静かだがその静かさこそが何よりも二人に侵しがたい神聖なものを感じさせた。絶対的強者の余裕とも言うべき態度はアルマとシェリーに戦闘継続という選択肢を捨てさせるには十分であった。

 アルマとシェリーは手にしていた魔導書と錫杖を手放した。それを見た紅神は小さく頷く。


「お前達は創世神様を殺すと言わなかったから助けてやろう」


 紅神はそう言うとアルマとシェリーが気付いた時にはそれぞれの額に紅神の掌が置かれていた。そして次の瞬間に衝撃が走り、アルマとシェリーは意識を失った。


「これで良し……っと、エネスの呪いは解けたな」


 紅神は倒れ込む四人を見下ろしながら小さく言った。

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