エネス⑥
紅神の放った衝撃波により吹き飛ばされた四人は何とか体勢を立て直した時にはすでに天瑞宮からかなりの距離があった。
「な……なんて威力だ」
ジークの言葉に仲間達が顔を引き締める。そして、次の瞬間にジーク達は下方に向かって飛んでいく。もちろん自分の意思ではなく上方から凄まじい衝撃が襲ってきた故である。
「がぁ!!」
「くぅ!!」
「な……」
「ぐぅぅぅぅ!!」
ジーク達は苦痛の声を上げながら自分達が吹き飛ばされる原因を探ろうと視線を動かすとそこには紅神がいた。先程自分達を吹き飛ばした衝撃波を今度は上方から放ったのだ。
「これで諦めてくれれば良いのだがな……まぁ、いいか」
紅神はため息交じりにそう言うと転移魔術を展開すると再び天瑞宮の外縁のリングに戻った。
外縁の縁に立った紅神は落ちていくジーク達に視線を移す。
(やりすぎたかな……欺されたまま死ぬのはいくらなんでも可哀想だよな)
紅神は自分の意思でこの天瑞宮に乗り込んできたというのなら一刀のもとに斬り伏せるのだが、話からエネスに欺されて送り込まれた事を察しているので対応がやや甘くなっているのだ。
(お……ようやく体勢を立て直したか……それにしてもエネスとやらは何を考えてあいつらをここに送り込んだのだろうな?)
紅神は体勢をようやく立て直したジーク達を見て紅神は内心首を傾げていた。どう考えても自分に挑むには実力が足りなさすぎるのだ。
(エネスか……俺の実力を知らないという可能性も考えていた方が良いな。お……俺の気配を察知したようだな。こっちに向かってくる)
紅神はキョロキョロとしていたジーク達が自分を探しておりようやく察知したようでこっちに一直線に向かってきているのをその視界に捉えた。
それから三分ほどでジーク達は紅神の目の前に再び立った。しかし、その息は大いに乱れている。
「俺と君達の実力の差は歴然としているのは理解できただろう? そこを踏まえて答えて欲しい……まだやるかい?」
紅神の言葉にジーク達は急角度に眉を上げると激高した口調で紅神に言い放った。
「舐めるな!! 勝負はこれからだ!!」
ジークの言葉に紅神はため息をつく。たった今行われた攻防は紅神がジーク達を哀れと思っての事で行ったものであり、まったく殺気を放っていなかったのだ。
「そうか……そこまでいうのなら教えてやろう……」
紅神はそう言った瞬間に気配が変わった。放たれる威圧感はジーク達が今まで感じていたどの敵よりも強烈なものであった。エルフェルクでさえこの紅神の放つ威圧感に比べればそよ風以下にしか感じる事はないだろう。
「く……なんて威圧感だ」
アーノスの言葉は自らの不安が言語化したものに他ならない。それがジークにとって密かに衝撃を与えていた。アーノスが自分の不安を口にしたのを聞いたのは初めてだったからだ。
「どうした? 何をそんなに怯えている……」
紅神の言葉は一気に冷たくなる。その殺意にも似た威圧感を放ちながら一歩進むとジーク達は押されたかのように後ろに下がった。
「なぜ間合いを取ろうとする? 貴様らは俺を殺すのが目的なのだろう? そんな間合いで俺に攻撃を当てることが出来るとでも思っているのか?」
「く……」
紅神の言葉にジークは悔しそうな声を出す。ジークは自分が紅神を恐れているのを自覚していたが、自分の中のなにかが逃げることを許さないのを感じていた。
「お前達はどうしてここに来た? そしてなぜそこまで傍若無人に自らの権利を主張するのだ?」
「え?」
「そもそもお前達をここに送り込んだエネスとやらが正しいという根拠は何だ? 本当にエネスはお前達をレメンスとやらの所に送り込んだとどうして言えるのだ?」
「エネス様が間違えるはずはない!!」
ジークの言葉に紅神はもはや言葉も交わすのもアホらしいと言う表情を浮かべた。
「なんだ……結局何の根拠もないのだな。神などに縋る者など所詮はその程度だ。何も自分で考えていない」
紅神はそう言うと動いた。腰に差した刀を抜くことなく拳を振るう。ジークの動体視力を遥かに超えた一撃がジークの腹部に吸い込まれるとジークの口から血が溢れ出した。
「ぐ……く……そっ!!」
ジークは血を吐き出しながらも闇を裂く剣を紅神に振るうが紅神は避けようともしない。
ガキィィィィン!!
闇を裂く剣の斬撃は紅神の二十㎝程前に張られている防御陣にはね返された。その防御陣には傷一つ付いていない。
「な……」
ジークの顔が驚愕に染まったが紅神とすれば何に驚いているか理解できないレベルである。
「ジーク!!」
そこにアーノスが大剣を紅神に向かって振り下ろした。紅神はアーノスの大剣を素手で無造作に掴み上げた。
「そ、そんな……バカな……」
「この程度の斬撃を受け止めたぐらいで驚くなよ」
紅神は苦笑を浮かべるとアーノスの大剣ごとアーノスを持ち上げるとそのままアーノスの足首を掴み地面に叩きつけた。
どごぉぉぉぉ!!
「がはっ!!」
外縁のリングに叩きつけられたアーノスの口から苦痛の声が発せられた。
「アーノス!!」
アーノスが叩きつけられた事にシェリーが叫び、シェリーはすかさず治癒魔術である黄金の癒しを展開した。シェリーの背後に立ち上った天使がジークとアーノスに息を吹きかけた。息を吹き付けられたジークとアーノスの体に天使の息吹が吸い込まれていきジークとアーノスはすぐに立ち上がった。
「ほう……中々の治癒術だな」
紅神はジークとアーノスのケガを即座に癒したシェリーに向け素直な賞賛を送った。しかし、褒められた当の本人であるシェリーは馬鹿にされたと思ったのだろう。その表情に険しさが浮かんでいる。
「みんな、こいつは強い!! エネス様にもらったあの力を……使うしかない」
「でも、ここで使えばレメンスは……」
「だがこいつに勝てなければそんな事も言ってられない」
ジークの言葉に三人は意を決したように頷いた。
「いくぞ!!」
ジークがそう言った瞬間にジークの中から凄まじい力の奔流が起こり、続いてアルマ、シェリー、アーノスからも同様の力の奔流が巻き起こった。




