1話 プロローグのようなものです。
普通の家庭に普通に生まれた普通の人生。
学力も運動も中の上、容姿もどんなに見え張ったって精々中の下だろう。
今通っている高校は、自分の能力と比較すると多少背伸びをしたところなのだが、それだって家が近いからという何ともな理由で頑張ったのだ。
しょうがないだろ、朝どれだけ楽に登校できるかというのは俺にとって重要なことなのだ。
そんな人生を今まで送ってきたからわかる。どうせ大学も適当なところへ進み、適当な企業へ就職するのだ。
そんな人生が良くないことも、どうにかした方が良いのもわかっている。実際に何かを成し遂げるのは難しいのかもしれないが、何かを成し遂げようとするだけでもだいぶ変わるだろう。
「けど、それがめんどいんだよなぁ。」
「そんなこと言ってるからモテねーんだよ。」
そう言って大げさにため息をついてくる爽やか系イケメン。
こいつは如月。こんな俺と仲良くしてくれる唯一と言ってもいい友達だ。中学一年生の時に向こうから話しかけてきて、そのままなんとなくで仲良くなったのだが、今では家族と同じ位信頼ができる、親友って奴だ。
「お前みたいなイケメンに生まれれば、もうちょっとやる気が出たのかもな。」
「確かにそーだな!」
けらけら笑いながらこちらの肩を叩いてくる如月。
ちょっとは否定しろよ!などと内心で突っ込みを入れるが、決して口には出さない。口に出すと調子に乗るのが目に見えているからだ。
信頼はできるが、なかなかに性格の悪い奴だ。こういうのは反応しないのが一番だよな、やっぱり。
さて、なぜ態々野郎と二人きりで街を練り歩いているかというと、
「でも、お前もそう悪くはないと思うぞ。少なくとも、こうして少しまともな服を着ている時はそう思えるな。」
素でこういうことを言えるのがすごいと思う。やっぱりモテるためにはこのぐらい言えなきゃ駄目なのか?とちょっと思ったけれど、よく考えなくてもこいつを参考にする必要がなかったな。
それで今日は明日の特大イベントのため、そこそこ見ることが出来る服を買ってきたのだ。せっかくなのでそのまま買ってきた服を着たのだが、いまいち窮屈で慣れない。
「褒めてるように見せて普段の服を悪く言うのやめろよ。いいかジャージってのはな、いかなる気温の時も適応「あーわかったわかった。とりあえずお前ん家に早く行こうぜ。明日の作戦立てないといけないし。」
「それ、今初めて聞いたんだけど。」
「じゃあお前は一人で綾瀬さんをちゃんとリードできるのか?」
「いや、そこについて言ったわけじゃないけどな。」
上手くはぐらかされた気がするが、気にしないことにする。あいつの言っていること自体は納得できるしな。
それにしてもよくあの綾瀬さんをデートに誘えたな。我ながら驚きだ。
綾瀬さんは、所謂学校のマドンナというやつだ。そして俺が今熱をあげている相手でもある。入学の時に優しくされて一目ぼれなんて、ありがちな展開すぎるが、まあ好きになってしまったものは仕方ないだろう。
「まあまあ、気にすんなって。早くしないと日が暮れるぞ!」
そう言って走り出した如月。しょうがないと呆れながらも、俺も走り出そうとするが、その時如月の丁度死角になる右斜め後ろから、猛スピードのトラックが突っ込んでくる。まずい、このままじゃ如月が・・・
悪い想像を取り払うようにように俺は叫ぶ。
「如月ぃ!!!!」
すべてがスローモーションになる。トラックも、名を呼ばれ振り向く如月も、すべてがスローだ。
間に合わないと知りながらも俺は懸命に走る。
ブレーキが効かないのか、居眠り運転なのか。そんな現実逃避じみたことを考えている間にどんどん近づくトラック。
ほんの数瞬先に起こるであろう光景を想像してしまい、思わず目を逸らしてしまう。
そして体に起こる衝撃。もう目も見えず、耳も聞こえないが、僅かな浮遊感を感じる。既に痛みも感じなく、徐々に薄れゆく意識の中で最後に思う。
は?
こうして普通の家庭に普通に生まれ、最期だけは少し早めに死んだ男、神野 雪は、その人生を終えた。
いきなりですけど、今世って言葉、存在しないですか?
よく考えないでタイトルつけちゃいました(;・ω・)
でも現世ではニュアンスが変わってしまう···
悩ましい···