カラフル、ラン・ウェイ
鳴り響くBGMが、ピタリと止まった。
静寂。
次に、煌びやかなライトも消え、黒色のカーテンに包まれたかのような、無の世界。
観客達のざわめきが薄らと広がり、熱っぽい期待が含まれていた。
一瞬の間を置いて、ステージの一部にライトが当たる。
シルエットが浮かんだ。
細くしなやかな四肢が微かに揺れる。
湧く歓声も、空間に溶けるように消えた。
一歩、
足を踏み出した途端、
音、
色、
全てが放たれ、圧倒的な情報量がステージの上で爆発した。
切裂くように、アマネはラン・ウェイを歩む。
華、があった。
見る者全ての意識を引き寄せるような、凄まじい力。
細く長い脚はストライドを広くしながらも、全体のバランスは崩さない。
遥か彼方を見据える瞳には、強烈な光が灯っている。
足音を響かせない、歩み。
その動作の一つ一つは、全てアマネが今日までの積み上げた努力の結晶である。
諦めながらも、
何度も自らの身体に絶望し、再び一人で歩けるようになっても、遥か先に聳える夢に思い描いた自分との乖離に恐怖を覚えながらも、一歩一歩、踏みしめるようにして向かった。
才能はあったが、それはただの原石に過ぎず、大成するためには、血の滲むような壁を乗り越える必要がある。
アマネの歩んだ後には、余韻が煌びやかな光で溢れていた。
迸るライトの屈折に、まるでアマネの背に羽が浮かび上がるようで、見麗しい姿に誰もが心を奪われた。
指先はもちろん、髪の一本一本までにも神経が張り巡らされているかの如く揺れた。
眩いライトは幾重もの色を生み出し、アマネを無限の色で飾る。
歩く。
歩く。
歩く。
歩く。
歩く。
歩く。
歩く――
ラン・ウェイを虹色が彩る。
笑顔。
腰に手を当て、
リズムを刻みながらのターンは、空間をがらりと移しかえすような衝撃を放った。
身を包むコーデを隠さず、その魅力を大々的に発しながらも、それでいて自身の存在感を醸す。
澄んだ瞳は、自身の歩んできた道の先を捉えていた。
去り際、アマネは微かに俯いた。
頬を伝う、一つの雫。
一分にも満たない時間が終わる。
拍手は、無かった。
歓声も、ざわめきすら起きない。
声や想いを抜き取られたように、胸を裂かれた衝撃だけが、各々の身に残っていた。
ステージを後にして、控室に戻る最中、アマネは崩れるように倒れた。が、それを支える一つの影があった。
「最後まで、持たなかった」
「うん」
「本番は全然違った。なんか……凄い、あの空間だけが……違って、でも、その中をあたしが歩んでいると思うと……色々頭の中で巡って、堪えきれなかった……」
「うん」
「ありがとう……」
「アマネ、これで終わりではないですよ。アマネは一歩、踏み出したばかりです。ここからですよ、今、この瞬間から、アマネの伝説が、始まるんです」
「ふふ、そうだね……。作っちゃおうか、伝説……。だから、これからもよろしくね……リン」
//完