短篇、葉月蝉
この小説はすぐに忘れるような戯言です
彼女、桑原葉月を殺したのは俺だ。
別に桑原葉月の事を愛してはいなかった。
だからこそ、彼女が死んだ時。彼女が俺の名前を呼んだ時に後悔してしまった。その瞬間に、桑原葉月の存在を大きく感じたからだ。
俺がした事は、刑事罰には処されない。
俺がした事は、彼女の死を見届ける事だけだった。
軽トラックが俺達の運転する車に衝突し、俺達はその下敷きになった。
俺は助かり、彼女は死んだ。
人類単位で見れば、よくある事だろう。
それでも俺は後悔をし、それでも彼女は涙を流し、それでも俺は愛を与えず、それでも彼女は俺を愛し、それでも、それでも、でも、でもでもでもでもでもでもでも……。
数え切れない言い訳の中で、彼女が死んだ日から数日経った日に見つけた。
いつかの夏に鳴くのを止めた、蝉の姿を。
その姿が、今は聞こえない煩わしい声を思い出させる。
____ごめんね……私が悪かった
ミーンミンミンミン
____嫌いだよね、こんな私
ミーンミンミンミン
____殺したいなら、殺していいよ
ミーンミンミンミン
ミーンミンミンミン ミーンミンミンミン
ミーンミンミンミン ミーンミンミンミン ミーンミンミンミン
「……ご、めんなさい、私、死んじゃうみたい……。
最後、まで……ずっと……愛、して……たよ」
最後の言葉を思い出す頃に、俺は蝉の亡骸を地面に埋めていた。
葉月の蝉。
きっと俺より幸せで、あいつより愛された蝉を。
この小説はふと思いついてノートの端に書かれた物語です。