最後の今日
涙を歌うモノ
涙を喰らうモノ
それが 「愛」
「行かないで」
私と紅空くんを包み込むように夕焼けに染まった風が吹き抜ける。なんでだろう…一言喋っただけなのに涙が溢れて止まらない…。
「なんで泣く必要がある…。あぁ支配人から聞いたのか…」
紅空くんは沈みかけた夕日の日差しがこぼれ出している外の景色を見ながら…
「俺が…引っ越すこと…」
また…なんでだろう…また涙が出てきた…。
『善次郎様から樺夜様には言っておくようにと言われておりまして…』
『私に?』
『はい…実は善次郎様のお仕事の関係上至急ヨーロッパまで行かなくてはならないようになりまして…』
『ヨ、ヨーロッパ?』
『はい……しかし…』
『あの……いつなんですか…ヨーロッパまで行くのは…』
『明日です』
私はその時わからないと思った。紅空くんの仕事はネットワーク関係なんだし海外に行くのは当たり前なのかもしれない…。でもなにか…胸が痛くて…目の奥が熱かった…良く分からない感情に包まれていた…。
「ヨーロッパまで行くって…本当に?」
「あぁ…」
「紅空くんも行っちゃうの?」
「あぁ…」
なんでだろう…なんでなんだろう…
まるで…恋をしてるみたい…。
紅空くんに染まるのが怖かったから紅空くんを避けてたのに…遅かったの?
嫌だ…。
もっと一緒にいたい…。
ずっと一緒にいたい…。
もっとちゃんと紅空くんの…好きなことや嫌いなことを…知ってみたい…。
紅空くんのいいとこを知ってみたい…。
もっと…紅空くんと学校生活を過ごしていたい…。
ずっと…紅空くんのことを…好きでいたい…。
もっと…ずっと…好きでいたい…。
紅空くん…お願い…行かないで…。
お願い…
「行かないで…」
霞んだ目の私の前にあったのは…ハンカチと紅空くんの手だった…。
「俺は行くよ…」
わかっていた…紅空くんには私より大切なことがたくさんあるってことぐらい…わかっていた。
その上でこんなことを言ったのは、私が私を信じなくしないためにだ。
結局自分のためでしかなかった…。
「でも俺は樺夜を探すよ…」
その時私の胸はその一言でいっぱいになった…。
「樺夜が待っててくれるんだったら俺は嬉しいんだけどな…」
やめて…これ以上私に優しくしないで…。じゃないと…私の胸が…私の涙が…私の気持ちが…紅空くんに染まってしまいそう…。
「そんなの…待つに決まってるでしょ…」
翌日
「善次郎様、荷物全て積み終わりました」
「あぁ、ありがとう。紅空行くぞ」
「はい…」
「あかあきくーん!!」
「樺夜…」
「紅空くん…そのいつ帰ってくるかわからないけど…待ってるね?」
「……なに言ってるんだ?」
「え…?いや…だって探すって…」
「俺がヨーロッパに行くのは8ヶ月だぞ?」
…え?
「あ?聞いてなかったのか?」
「う、うん…」
「そうか…。まぁ今知ったんだしいいか…」
紅空くんは車に向かって歩き出す。
「じゃあな。また会おうな」
…うん。
…うん。
「待ってるから…」
「あ…そうだ…」
紅空くんは、くるっと私の方へ体の向きを変え私に近いて、私の顔の横に紅空くんのが近づく…。
「俺も…樺夜のことが好きだよ」
最後の今日が終わり最初の恋が動いた。