026 7月11日
「えっ……休み…………ですか?」
「ああ。今日と明日。店長から休み取っていいって」
「何か予定はあるんですか?」
「特にねーよ。こういうとき困るよな。友人とかいりゃ時間でも余裕で時間を潰せたりするんだろうけどな。さてどうしたもんかな」
「じゃあ買い物にでも行きませんか?」
「買い物?」
「はい。お米も減ってきましたし、ちょうどいいと思うんです」
「あー、まあそうだな。でも米とかチルドでもいいとか思うんだけど」
「ダメですよ。それじゃあお金が倍近くかかってしまいます」
「しゃあねーな」
土曜日。
急に休みを言い渡された俺は特にやることもなかったので、侑子の買い物に付き合うため二人で駅前まで繰り出していた。
こんな人が多いところにくるのは久しぶりだった。買い物と言えば酒と弁当しかあのコンビニで買っていなかったので、本当に久しぶりだ。
「しかし結構買ったな。米に、野菜、肉、魚。ここら辺は別に日ごとに買えばいいんじゃないか?」
「野菜は漬物にして、肉は調味して冷凍。魚は日干し。そうすると結構長く持って、買いに行く手間が省けるんですよ。それに安かったですし」
「はぁ……そんなもんなのか。俺なんて毎日コンビニ弁当だったからそんな知識はないよなぁ」
「ほんと……成人病に片足突っ込んでますよね」
「うるせー…………っと。ここじゃないのか」
もうすでに目当ての物を買い終わった俺たちであったが、そのまま帰らなかったのには理由がある。どうやらこの週末で駅前の商店街で何かイベントをやっているらしく、会計の時に福引券を数枚ほどもらった。
捨てるのももったいないと思い、俺と侑子の二人は福引所を目指し、商店街の中をぐるりと巡り無事到着。
「おっ、結構人いるな。町おこしか?」
「さぁ。あ、見てください。福引の景品結構いいみたいですよ」
「えーっと……特賞が熱海の温泉か。はー……温泉とかもう何年も行ってねーな」
「はは……でも当たらないですよねこういうの」
「操作されてるとか邪推しちまうよな」
生まれてこの方、こういうのに当たったことがない俺はこういうのは福引券とポケットティッシュを交換するものとか思っている。
「えっと……五枚で一回だから……チャンスは一度きりか。うーん……任せた」
「えっ」
「俺はこういうの当たらん。もうそういう星の元に生まれたものとしか思えないほどにな。お前なら当たるんじゃないか。見せてくれ鬼運」
「でもいいんですか。この福引券を手に入れるために払ったお金は全部慶介さんのものなのに」
「いいんだ。言ったろ。俺はこういうのは当たらん。だったらポーカーが鬼強いお前に任せたほうが少しはマシってなもんだ。ま、あれがいかさまじゃなければの話だけどな」
「分かりました。じゃあ……熱海、当てます!」
「流石に一回でそれはねーだろうけど。まぁ……ラップフィルムくらいは当てろー。目指すべき目標は四等だ」
「志低いです……」
「現実的と言えー」
侑子は荷物を一旦俺に預けると気合を入れるようにぐっと、目の前で拳を作る。
……どんだけ気合入ってんだか。
一念を終えると、係りの人に五枚の福引券を渡す。
「えいっ」
祈りを込めながら侑子は福引機を回す。
当たらなくても別に構わないと心の底から思っていてもやはりこういう場面は緊張が走る。
がらがらと回転を繰り返す福引機。
ほどなくして、ころんと受け皿に落ちる赤色の珠。
あー……やっぱり外れたかーなんて思っていると、
「おおおおおおめでとうございます~! 一等の『遊園地のペアチケット』大当たりです~!!」
ガランガランと鳴り響く鉦の音。
「……………………………………えっ」
まず初めに福引機を回した侑子が。
「……………………………………えっ」
その次に俺が。
キョトンと喧騒の中、響き渡る大きな声に戸惑って、ぽかんと口を開けた。
かくして。
予期せぬ明日の予定がここに決まる。