016 7月8日
普段なら気にも留めないのだろう。
コンビニの中の雑誌コーナーに三人の学生が溜まっていた。
立ち読みすることに問題は無い。コンビニの窓は基本的にガラス窓になっていて外から中の様子を窺うことが出来る。それは逆に言えば外から中の客入りを見ることが出来るということだ。店側はそれを逆手にとって雑誌の立ち読みを黙認することにより、このコンビニは客入りがいいと外側の客にアピールする。いわゆる一つの商売戦術というヤツだ。
だから気に留めた理由は他にある。
まず最初にその三人の服装が同じだったこと。無地のブラウスに紺と灰色のチェック柄のプリーツスカート。完全に見たことがある制服。
どうやら同じ学校の学生らしい。
その内の一人はけだるそうな顔で女性向けファッション誌に目を落としていた。色の抜けたショートカットの茶髪から見え隠れする耳元にはピアスがあり、どうにも優等生の感じではない印象。
「今日も来なかったねアイツ」
ピアスの少女は視線を落としたまま言う。
傍らに立っていた二人の少女。おでこ丸出しのベリーショートの快活そうな一人がまず最初に、
「ん? 何の話?」
そう言って、
「『ヤマヤマ』はたまに変なことを言いますなー」
そばかすが印象的なセミショートの茶髪少女はスマホをいじりながらそう答えた。
「そ?」
ヤマヤマと呼ばれたピアスの少女はそばかす少女の言葉を気にも留めた様子も見せずに指でファッション誌のページを捲る。
「……ってか、本当に分かんない?」
「うーん……なんのことやら」
「侑子よ、侑子」
「ユーコって……あぁ、あの子ね。あーはいはい」
侑子という言葉に俺はレジ打ちをしながら思わず耳を傾けた。幸いなことに客が少なかったため、耳を傾ける余裕ぐらいはあった。
「やっぱマズったかなー、スマホをトイレに流したの」
「ヤマヤマ結構、ノリノリだったのによく言いますなー」
「…………あれぐらいのことしたら少しは効くかなーって思ってやってみたけど、やっぱりノーリアクションだったからそうでもないよ? あー、でも失敗。これじゃ連絡が取れない」
そう言ってピアスの少女はファッション誌を棚に戻す。
「ん~? もう行く? 私的にはもう少し涼んでいきたいんだけど」
「勝手にすれば? 私、もう行くから」
ピアスの少女が先にコンビニを出るとその後を二人の少女が追うようにしてコンビニを後にした。
「あー、待って待って」
「おりょ? 何かご機嫌ナナメ?」
「知んない。追うよ」
三人の女子高生は嵐のように去っていった。去った後、俺は天井を仰ぎ見る。
面倒なことを聞いてしまったと思った。
侑子という名前と、スマホをトイレに流したという話がどうも噛み合ってしまう。
侑子はスマホなんていうハイカラな物は持っていないと言うし、もしあの子達の言う侑子が東山侑子であれば辻褄はばっちり合う。合ってしまう。
彼女らしからぬ売春。
それも彼女たちが関係しているのだろうか。
色々考えても結局答えは分からない。
「……………………はぁ」
小さくため息を吐いた後、俺は愛想笑いを浮かべてコンビニの業務に戻る。