表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

愛塗れ

作者: 瀬川潮

 別れた彼女から郵便が届いた。開けてみると、「ゴメンネ、やり直したいの」。切手には、3日前の消印。

 お笑いぐさだ。もう、何もかもが終わっているんだ。

 手紙を破り捨てようとすると、封筒を持つ手に何かが這う気配があった。見ると、小さなカニが俺の左手の甲を這い上ろうとしていた。カニの真っ白な甲羅には、ピンクのハートマークがある。手紙に入っていたのか? そんなバカな!

 ともかく、慌てて振り払う。床に落ちたそいつを手近な椅子で押しつぶす。

 こいつはバレンタイン・キャンサーだ。東南アジアから元彼女が連れ帰った外来種。ハサミだけに気を取られていると、口から毒針を伸ばし刺してくる。刺されれば、ひとたまりもない。

 彼女はこれを、日本で養殖して売りさばこうと持ちかけて来た。ネーミングは、甲羅のマークから。変わったペットが好まれるブームに乗れば大儲けできるとの読みだ。ハートマークも、可愛い。俺もその気になった。

 しかし、カニはうまく育たなかった。いや、死にはしないがうまく増殖しなかったのだ。何をエサにしているのか判然としなかったからというのも原因に違いなかった。

 取り組みがうまく行かなくなるに連れ、俺たちは仲は悪くなった。

 やがてアイツは、俺を殺そうとした。

 カニをけしかけてくる節があったのだ。

――ぞわり。

 ここでふと、右手にイヤな感触。

 カニが、右手の甲にいた。どこにいたのか、別の一匹が椅子から伝って這い上がって来たのだ。振り払い、つぶす。

 はっ、と異様な気配に振り返る。

 背後の床には、ゾロゾロとカニが近寄って来ていた。甲羅には全て、ハート、ハート、ハート。

 まさかと思い二階の寝室に急ぐ。迫り来るカニどもをほうきで掃き散らしながら。

 奴らは、押し入れの隙き間から這い出て来ていた。すごい数だ。

 扉を開けると、やはり昨日殺した彼女からカニが出て来ていた。裏返った白目の下、半ば開けた口から次々とハートマークのカニがわいている。伸ばした長い舌を伝い、首からのびる縄に沿って動きながら。

 愛のしるしから逃れようときびすを返すと、壊れた扉が見えた。寝室の扉が床の方から泡まみれになり、ぐずぐずととけているのだ。

――ぐじゅぅっ!

 床が、突然抜けた。床もいつの間にか泡だらけだったのだ。溶解しかけていたのか、湿った音がして抜けた。

 下半身が床に飲み込まれ身動きが取れなくなったところへ、カニの大挙して迫ってくる。不思議と毒針は使わない。泡、泡、泡、泡。とにかく泡ばかりを吐く。毒針で刺そうともせずに!

 とろける意識の中、ヤツらのエサが分かったような気がした。



   おしまい

 ふらっと、瀨川です。


 他サイトに発表した旧作品です。

 当時は容赦なく「恋愛」カテゴリにぶち込んで、ラブラブスイートな期待をして読んだ人に「ホラーじゃん!」と突っ込んでもらうのだとか鬼畜な試みをしてました(反省。というかこのタイトルではいちゃいちゃな期待だろ

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ