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一件落着

 早馬を走らせて数日。ビスゥーダ王国の国境沿いまで僕らは辿り着いていた。


 さすがに境界ラインだけあって、警備は厳重だ。普段よりも倍近い人数が配備されているのではないかと、エマは言う。


 これは中に入るだけで一苦労だなぁ……。


 そう考えていると、通信機にバイブ音がした。僕はすぐに手に取って、応答した。


『マスター。ご無事でしょうか?』


「ニーナこそ。首尾はどうだい?」


『はい。血判状が御座いました。すでに確保しております。しかし、予想よりも早くそのことに感づかれてしまい、辺りは騒然としております』


「なるほど。だからこの警備の数か……」


『申し訳ありません。私の不手際です』


「いや、確保している時点で十分だよ。なくなったことに気づかれるのは当然のことだしね」


『カモフラージュする時間がありませんでしたもので。今から、そちらに合流致します』


「わかった。待っているよ」


 僕らは国境から少し離れた森の中でニーナを待っていた。


 すると、程なくしてニーナがやって来た。


「あ、ニーナ!」


 カミラが喜びの声を上げる。ジェシーは軽く笑みを浮かべる。


「お待たせ致しました。こちらがダズラム大臣の書き記した血判状です」


 僕らはその内容を見る。たしかに他国から養子を迎え入れて、資金援助をするということが書かれていた。紛れも無い証拠だ。


「おのれ、ダズラム大臣……よくもこのようなことを!」


 エマは激昂する。無理もない。ナノカーシャ……ナノカは、それを悲しそうな表情で見つめていた。


「お父様がご存命ならば、このようなことは……」


「過ぎたことを申しても始まりません。ナノカーシャ様」


「そうですね。今はこの事態を収拾させることこそが、私にかせられた使命と心得ます」


 出来た子だ。この歳で、一国を任されることのプレッシャーは計り知れないものだろう。気丈に振る舞ってはいるが、家族を亡くしているのだ。


 心の余裕などあるはずもない。その上で立ち上がらなくてはいけないのだ。本来ならばそれを家臣が一丸となって支えなければいけない。


 それを己の野心の為に王女を亡き者にせんと画策したダズラム大臣。許せるはずもない。


 他人事ではあるが、気持ちはわかる。出来ることなら力になってあげたいと考えるのは、人として当然のことではないだろうか。


 それをすることが出来るだけの力を僕は持っているのだから。


 無力なら仕方ないさ。見て見ぬふりをすることだって。けど、僕には力がある。だからといって、誰にでも振舞っていたら僕自身がどうかしてしまう。


 だから、当然。僕には僕の都合で動く。嫌なら助けないさ。嫌でなくても状況次第では助けないことだってあるだろう。


 けど、今回は。僕は僕自身の考えの下で行動をする。戦争を回避する為、隣国との緊張感を緩和する為……それに、彼女の笑顔の為に。


 打算的かもしれないが、人はそういうものだ。正義の味方なんてそうそう存在するものじゃないからね。


 命をかけてまで人助けが出来る人はそうはいないさ。


 だからそれに等しい物……金とかの為に動く人ってのは、結構いるわけだけど。後は、信念とか……執念かな。


 僕が何やら考えていることをニーナはわざわざ待っていてくれたのだろうか。僕がニーナの視線に気づくと、ニーナは口を開いた。


「それで、いかがなされますか? マスター」


 うーん。出来過ぎるロボットも考えものだなぁ……。てか、見た目が完全に普通の女の子にしか見えないから、ロボットという意識もあまり出来ないというか。滅茶苦茶綺麗だし。


 ニーナって僕の言うことならなんでも聞くんだよね……それって、エロイことし放題って意味じゃ……って、何を考えているんだ僕は。


 また小野寺和人の思考が絡まってきたのか。前世の僕ってどれだけ欲求不満だったのだろう……いや、それは記憶を辿ってもわかるか。


 あの頃の僕は毎日に退屈していた……面白いことなんて、何一つなかった。ネットで他人をバカにすることしかしていなかった自分。


 なんて、滑稽なのだろう。


 今は違う。あの頃の僕ではない。今の僕は十分に幸せだろう。けど、なんだ? この感覚は。物足りなさを感じるというか……。


「マスター?」


「いや、なんでもない。そうだね。ここまで来たらやることは一つだけど……」


 ちらっとナノカの顔を見る。小顔で青紫色の長い髪が綺麗だ。すでに覚悟を決めているのだろうか。


「大臣宅へ行こう。証拠を見せて大臣が大人しく捕まればよし。そうでなければ……」


「始末するってことね」


 さらっと。そう、ジェシーは告げた。さすがに似たようなことを冒険中にしてきただけあって、冷静だった。


 カミラの方は困惑しているようだった。そこまでする必要があるのかどうかって顔。一般人の感覚ならそうだよね。普通。


 エマは特に何も言わなかった。それは、覚悟をした目だった。


 ナノカは戸惑っていた。自分の決断で全てが変わってしまう。そのことが恐ろしいのだろう。しかし、これからはそれを何度も迫られる。


「どうしますか、ナノカ様」


 僕はナノカに問う。最終判断をするのは彼女だ。


「私は……」


 迷っているのだろう。本当ならばそんなことはしたくない。けど、そうしなければ自身が危ういのもまた事実。


 可能ならば、大臣とその臣下全てを皆殺しにするぐらいでなければならない。お家断絶……この時代なら普通のことだ。それも、主君に楯突いた売国奴ならば、尚更。


「ナノカーシャ様のお父上の死因もダズラム大臣が関与している模様です」


「!?」


 ニーナ……このタイミングで。


 なんてタイミングで告げるのだろう。ニーナはわかっているのだ。どれが最善の決断かを。そしてそれを選ばせようとしている。


 最終的には王女が判断することだ。しかし、その決断をさせるように誘導させたのだ。


 エマがそれに対して口を挟まないのも、同じ思惑があるから。


 なんて……この世は。いつの時代も。異世界であっても。


 残酷なのだろう。


 やがて、決心したかのように、ナノカは口を開く。


「仕方がありません。我が国を裏切った罪は大きいものとします。よって、大臣の処罰を」


「それで……よろしいのですね?」


「はい」


 ナノカの決心は堅いようだ。ならばもう何も言うことはない。


 そしてそれが最善。少女の心を犠牲にして。たった一つの国の平和を得る。安いものじゃないか。


 僕はそうは思いたくないけど。そうやって人は、成長していくものだから。


「行こうか。手はずとしては、業者を装って首都へ侵入する」


「でも、そんな簡単に行くものなの?」


 と、カミラ。当然の疑問だろう。


「まあ、普通なら無理だろうね。けど、僕らはニーナがいるからね。彼女の力を使う。君たち全員を荷物と誤認させるんだ」


「そんなこと出来るの!?」


「はい。可能です」


 先ほど話に出ていたカモフラージュだ。彼女達を荷台に積んで、カモフラージュをかけて荷物だと錯覚させる。


 僕らが冒険者として各地を転々としていた時も使っていた検問突破法というわけさ。ほんと、ずるいというか。チートだね。


「後は大臣宅まで空から行くしかないかな」


「そうですね。地上は警備が厳重すぎます。どの道見つかるならば、攻撃手段が限られる空中の方が有利かと」


「というわけだから、行こうか」


 唖然とするカミラとエマ。ナノカもか。僕らは何のこともなく、検問をあっさり突破。やすやすと首都へと侵入することへ成功する。


 そして、風魔法を使って全員を持ち上げる。僕とニーナで役割分担をしているけど。二人ずつ。


 敵は至る所に魔法感知を張り巡らせていたけど、僕らはうまくそれらを掻い潜って移動。


 大体、あんな大量に張っていたら、お互いが干渉して逆にわからなくなるようなものだけど。相当焦っている証拠か。何せ、問題の血判状が盗まれてしまったのだから。


 そういうわけで、僕らはあっさりと大臣宅へと侵入することに成功したのだった。


 さすがに入った瞬間に気づかれたけどね。


「な、何者だ!」


 兵士達が驚きの声を上げる。


「ダズラム大臣、出て来なさい!」


「く、曲者だ!」


「黙りなさい!!」


「!?」


「私はこの国の王女。ナノカーシャ・ユル・ミランダです! ダズラム大臣に用があって参りました。大臣を出しなさい!」


 その叫びに応じたのか、中から大臣が現れる。


「これはこれは……ナノカーシャ様。お探ししておりましたぞ。よくぞ戻って来られました。ささ、中へ……」


「大臣。貴方の所業。すでに明白。貴方がこの私を亡き者にし、他国から養子を取ってこの国を支配せんと画策していることはお見通しです!!」


「なっ……! 何を証拠に!!」


 まるで時代劇だな、と。そう思った。こういうことってやっぱり現実に行われていたんだろうなぁ……。まあ、あんな大立ち回りはしないだろうけど。


 でも、昔の剣豪ってあれぐらいの大立ち回り出来る人って普通にいたらしいからね。


「これが、その証拠です。他国との取引をした血判状が動かぬ証拠です」


 と、ニーナが血判状を大臣に見せる。


「き、貴様! ええい、何をしている! 出会え! 出会えい!」


 たちまちに兵士たちが集まり出す。ここで本来なら剣を抜いて、チャキっとするんだろうけど……魔術師なんでね。


「限定術式、解除」


 そういって、僕らは戦闘態勢に入った。すぐさま、兵士たちが襲いかかってくる。


 それを魔導服に施してある紋章符にセットした魔法で吹き飛ばす。


「ナノカ様とエマさんはニーナの後ろに」


「「はい!」」


「ジェシーはカミラを頼むよ」


「わかったわ!」


「ぼ、ボクだってやれるんだからねッ!」


 なんで、ツンデレ?


「でぁあああああああああああッ!」


 兵士の一撃。僕はそれを避けることもせず、障壁で弾き返す!


「な、なんとっ!」


 瞬間、魔力を込めた杖を相手にお見舞いする。


「ルーン・ソード……腕力強化」


 瞬時にルーンソードが展開され、次々に斬りかかってくる兵士達をうまく立ち回っていなす。


 ま、時代劇だと殺すのは本命だけってわけなんだけど……現実としては、そういうわけにも行かないんでね。


 相手の首元を切り飛ばす。そうはいっても、首の皮一枚残るとかそういうことがほとんどだけど。


 相手は一言も発することが出来ずに絶命する。


 それを見た兵士たちに動揺が走る。それを叱咤激励する大臣。


 後ろで吠えるだけか。前に出て来いよ、卑怯者。


 僕はゆっくりと部屋の中を歩いて行く。次々に兵士は襲いかかってくる。


「うぉおおおおおおおおおおおっ!」


 敵の剣をルーンソードでたたっ斬る!


 そのまま胴体を剣で一突きする。


「!」


 瞬間、強力な魔力を感知した。トラップだ。僕は即座にバックステップ。


 トラップを回避した瞬間、高出力の魔法が僕にめがけて飛んできた。


 それを僕はルーンソードでたたっ斬る。しかし、さらに魔法は飛んでくる。


 先ほどよりも強力だ。複数人で重ねがけをしているな……!


 僕はルーンソードを放り捨てて、詠唱を開始。


「我、命ずるは燃え盛る炎! フレイムバーン!」


 飛んで来た魔法をフレイムバーンで打ち消す!


 それを狙って跳びかかって来た兵士。その顔を掴み、


「我、命ずるは天の怒り! ライトニングボルト!!」


「ぐ、ぐがががぁあああああああああああっ!」


 敵は痙攣し、そのまま絶命する。僕は背後に目線を送ると、ニーナ達が屋敷の外で戦っていた。


 さすがニーナ。ナノカとエマ、さらにカミラにも気を配って敵を蹴散らしている。手から放たれるレーザーは鎧をも簡単に貫いていた。


 絶対、僕より強いよね。ニーナって。ニーナは謙遜していたけどさ。


 僕が極めればあっさりと自分を抜いてしまいますよとか言ってたけど。


 主人を立てる気遣い……痛み入りますねぇ。


 正直、ニーナ一人で壊滅出来るだろうに。


 それは僕も同じか。どっちがやっても同じなら、僕がってことかな。


 ジェシーも敵を次々に倒している。ジェシーも達人級の実力者だからね。


 意外とカミラも頑張っているようだ。あの時はヒヤヒヤしたけど、これなら心配いらないかな。


 こっちも集中しないと。相手にだってマスタークラスはいるはずだ。


 そう、僕が意識をし直すと……空気が変わった。


 ……いる。間違いない。かなりの使い手が。


 ゆらり、と。


 動いた。


「──っ!」


 ガギン! と、大きな音を立てた。瞬間的にルーンソードを再展開し、防御に回ったのだ。


「ほう、防ぐか。かなりの手練れと見る」


「そちらこそ……!」


 僕は力任せに押し返そうとするが、相手は一歩引いた。切り替えが早い。


 動きも相当だ。あの一瞬でここまで接近されるなんて。早い。


「視力補正……脚力強化……」


 僕が一番苦手とするのが、接近タイプのフルアタッカーだ。


 魔術師なんだから、当然なんだけど。この手のマスタークラスが相手となるとさすがに体術では僕の方が劣る。


 だから、距離をとって魔法で押すのが得策だけど……ここは狭い。威力の高い魔法は屋敷自体が崩壊してしまう危険性もある。


 そうなれば、屋敷の外からもかなりの兵士が押し寄せて来てしまうだろう。


 存外、大出力の魔法なんてものは使えないものだと、痛感する。


 大魔法であっさり倒すなんて、よっぽど広いフィールドでもないと無理なんですよ。物壊したら、弁償しないといけませんし。


 戦争中でもない限り。それでも、大勢の中使えるかといったら、使えませんけどね。


 そういうわけで、一極集中した魔法か、初級・中級などの威力を抑えた魔法がメインとなるわけ。


 考えている暇もなく、敵の猛攻が続く。ルーンソードだけでガードし切れずに、障壁でガードしていく。障壁がなければ僕はとっくにあの世行きだろう。


「どうした、その程度か!」


「くっ……!」


 仕方ない。ある程度は力を使わないと勝てそうもない。やるしかないか。


「我、命ずるは光の象徴……」


「むっ……!」


 敵が僕の膨大な魔力に反応したのだろう。思わず後ずさるが、ここでひいては負ける。そう判断したのだろう。怒涛の猛襲が始まった。


「我、命ずるは闇の波動……」


 敵の攻撃は確実に僕の障壁にダメージを与えていた。かなりの腕だ。とはいえ、ニーナでさえ数分をかけないと壊せない僕の絶対障壁を破壊するには威力不足。相当の時間をかければ破壊出来るかもしれないが、そんな時間を与えるはずもない。


「光と闇が交わりし時……時空を超える輝きとならん!」


「!」


「タ・キ・オ・ン!」


 まばゆい光が辺りを包み込む。僕の半径十メートル以内にいた連中が丸ごと消え去った。


 僕はタキオンを発動する前にグラビオンを使い、周囲に重力場を発生させ、相手の動きを封じていたのだ。相手は動けないか、動きがかなり制限されていたに違いない。その上での大出力魔法。ひとたまりもないだろう。


 当然、屋敷はボロボロだ。一部は崩れ落ちてしまっている。


 大臣は……生きていた。腰を抜かしている。タキオンの範囲ギリギリをどうにか避けていたようだ。


「さて、大臣。最後に何か言うことはありますか?」


「ひ、ひぃいいいいいいいいいいいっ! た、助けてくれ! 金なら出す! 何でもやる! 金がいらないなら、女か? 奴隷か? いいぞ、なんでもくれてやる! だから……」


「欲しかったら自分でなんとかするよ」


「ひっ……!」


 僕はあっさりと、大臣の胸をルーンソードで突き刺した。


「がっ……」


 大臣は絶命。こういうのは、王女が剣で大臣を殺して本懐を遂げるとかやった方がいいのかもしれないが、幼い少女に人殺しまでさせるわけにはいかないだろう。


 そこぐらいは僕が被ってあげないと。


 大臣が死んだことによって、兵士たちは戦意を喪失。次々に剣を捨てていった。後からやってきた警察(警察という名称ではないが、その方がわかりやすい為と、小野寺和人の記憶が蘇った関係もあってそういう単語を連想した)によって連中は逮捕。


 そのほとんどは十年単位の牢獄の後、国外追放か、処刑されることとなった。


 大臣の所業は全て明らかになり、ナノカーシャ王女は無事に女王に即位。


 これにて、一件落着というわけで。


 ◇ ◆ ◇


 僕らは後日、ビスゥーダ王国に呼ばれ、女王と謁見することとなった。


「うわぁ、本当に女王さまになってる……なんか、不思議かも」


「こらっ」


 慌ててカミラを叱りつけるジェシー。「あいたっ」とカミラ。


「ふふ、良いのですよ。皆様方。面を上げて下さい」


「この度は、貴公らの活躍により私どもは救われました。この御恩は決して忘れることはないでしょう。私どもに出来ることがあれば、なんなりと仰って下さい」


「そうですね。では、我が国との友好を一層深めて頂ければ幸いです。それと……」


 僕は一呼吸おいて。


「この国の特産物でも頂ければと」


「ふふ……わかりました。送らせて頂きます」


「それでは、僕らはこれで失礼致します」


「ユーク」


「はい?」


「この国に来ませんか? 騎士団に志願して私を守って貰いたいのです」


「……」


 ナノカの目は真剣だった。その言葉を聞いて、カミラとジェシーは固唾を呑んで見守っていた。


「残念ですが。僕は今の生活を送って行きたいのです」


「そうでしょうね。忘れて下さい。私のわがままです」


「いえ……ありがとうございます。嬉しく思いましたよ」


「ふふ……嘘が下手ですね、ユークは」


「はは……」


 ◇ ◆ ◇


 僕らは女王との謁見を終えて、ビスゥーダ王国を後にする。


「なんか、嘘みたいな話だよねー。このこと誰かに話しても誰も信じてくれなさそー」


「そうだね。夢物語としか思えないよ」


「私もあんなお姫様みたいな生活を一度でいいからしてみたいわね」


「ぷぷっ、ジェシーがお姫様だって!? 似合わないよぉ~!」


「な、なんですってぇ!」


 ジェシーは怒ってカミラを追いかけ回す。


「じょ、冗談だって。そんな怒んないでよぉ~!」


「こらー、待ちなさーい!」


 僕はそんな二人を見て笑っていた。こんな日がずっと続けばいい。そう願って。


 そこへニーナが僕の傍へやって来て、耳打ちをする。


「マスター。ダズラム大臣をそそのかした国ですが……」


「どこだい?」


「それが……エスニーク帝国です」


「エスニーク……大国だね。下手に手出しは出来ないね。帰ってオーラル公爵に伝えるしかないか」


「それが一番かと。失敗に終わりましたし、当分は動きを見せないとは思いますが……」


「当分、じゃなくてずっとにしてほしいね。まだ戦争したいのかねぇ、あの国は」


「領土拡大が狙いでしょうね。小国を相手にどんどん巻き上げて成長している国ですから」


「やれやれ……三大国はどう動くと思う?」


「傍観、でしょうね」


「同盟といえど、大国相手じゃそうなるか……せいぜいが経済制裁ってところかな」


「はい」


「ま、考えてもしょうがない。今はなるようにしかならないね」


「心中、お察しします」


 楽しそうな二人とは対称に、不穏な空気は今も続いていた。

 

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