突然の来訪者
突然の来訪者に僕らは驚きを隠せなかった。ドアから入って来たのは、可憐な少女とその付き添いだろうか。侍女のような女の人がいた。
僕がそう判断したのは、彼女の身振りだった。明らかに少女に対しての気遣いを感じられる。主人と家来という立場なのは間違いないと思われる。
どこかの貴族の子だろうか……? しかし、こんな夜も更けた頃に突然……。
「何々? だ、誰っ!?」
「えっと……どちら様?」
ジェシーとカミラは驚いているせいで、満足な対応が出来ないでいた。
それを見た侍女らしき人物は、ゆっくりと頭を垂れて。
「夜分遅くに申し訳ありません。少しの間で構いませんので、ここに置いて貰えないでしょうか」
「……」
さて、どうしたものか。普段なら別に構わないのだろうけど、どう見ても『ワケあり』だ。少女の方は鬼気迫る勢いでこちらを見つめている。
ちらっと、ニーナの方に視線を向けるとニーナは軽く目を瞑った。
やめておいた方がいい、という合図だ。たしかに厄介事を持ち込まれて困るのは僕らだ。追い返すのが自然といえば、自然なんだろうけど……。
「私は別に構わないわよ」
と、ジェシー。
「え、えっと……なんだかよくわかんないけど、ボクもいいよ。別に」
多数決……かな? と、再度ニーナに視線を送るとニーナは苦笑い。
釣られて僕も苦笑いをすることに。厄介事には幸い……とはいえないけど、慣れていることだしね。しかし、やっと店を構えた途端にこれというか……いや、どちらかといえば、僕の前世の記憶が蘇ったせいとも言える。
何かが起きようとしている前触れなのだろうか……あまり、深く考えたくないな。どちらにせよ、考えても仕方のないことだし。
なるようになるだろう。そう思うことにした。
それに、相手はか弱そうな女の子だ。これが男だったら追い返していたかもしれない。おいおい。
「わかりました。取り敢えず、奥の方へ」
感じ的に追われていると見た僕は二人を奥へと連れて行くことにした。
「助かります。さあ、ナノカ様。こちらへ……」
「はい……」
彼女達が奥へと入っていったのとほとんど同時に、ドアを叩く音が聞こえて来た。ドンドンドン! と、強めに。
僕は二人の姿が見えなくなったことを確認してから、ドアを開けた。
ガチャ……。
僕がドアを開けると、一気に鎧姿の騎士達が押し寄せて来た。
「ちょ、ちょっと……!」
僕が慌てたようにしていると、彼らは周囲を見渡し、僕らを睨みつけた。
「ここへ、女二人がやって来なかったか?」
「さぁ……見ていませんけど」
「……本当だろうな?」
「えぇ」
男は少しの間考え、
「中を見せて貰おうか」
そういって、強引に中に入ろうとする。そこを引き止めたのは、ニーナだった。
通路を遮られて、眉をひそめた男。
「どいて貰おうか!」
「申し訳ありませんが、勝手に奥へ向かわれては困ります」
「やはり、中に誰かいるのだな! 怪しい奴らめ! 邪魔立てすると、容赦はしないぞ!!」
「ここはギルドの管轄するユニオンの一つです。ギルドの許可なしに勝手に入ることは許されておりません」
「そのようなもの! 後でどうにでもしてくれるわ!! どけぃ!」
「どきません」
「貴様……!」
男が剣を抜く。さすがにその動作を見て、瞬間的にジェシーとカミラも立ち上がって戦闘態勢に入った。
「なんだ貴様ら……やろうというのか?」
「貴方が引かないのでしたら、そうなりますね」
淡々と。ニーナはそう呟く。その物怖じしない立ち振舞に男は苛立ったのか、剣を振り下ろそうとした……その時だった。
「おい、女を見かけたっていう報告が……」
「何? ちっ……行くぞ!」
男は舌打ちをして、その場を立ち去った。残ったのは静寂と安堵感。
「ふー。びっくりしたぁー。何、あれ? いきなりやって来てさー」
「それより、あの二人は?」
ジェシーの一言で、奥に目線を向けると、二人が現れた。
「申し訳ありません。わたくしどものせいで……ご迷惑をお掛けしてしまって」
「それは構いませんが……事情を話して貰うことは、出来ませんか?」
「……」
侍女らしき人物は少しの間、考えて。
「申し訳ありませんが……お話することは出来ません」
まぁ、そうだよね。見ず知らずの僕らに話せるような内容だったら、苦労しないだろうし。
「そうですか。それより、今日はもう遅いですし。ここで泊まって行って下さい」
「よろしいのですか?」
「えぇ。構わないよね? 三人とも」
「えぇ、そりゃ」
「ボクも構わないよ」
「私はマスターに従うまでですので」
「ということです」
「皆様……ありがとうございます」
そう、答えたのは少女の方だった。深々と頭を下げて。
「この恩は決して忘れません。いつか、いつか必ずお返しします」
「気にしなくていいよ、別に。持ちつ持たれつっていうでしょ」
「普段はお金にうるさい癖にね~」
「い、いいじゃないか。別に!!」
カミラは照れくさそうに言う。こんなところがカミラのいいところであり、かわいい部分でもある。先ほどからカミラ押しをしているように見えるけど、別にそういうわけじゃない。
ちらっとジェシーに視線を移す。ジェシーは気が強くて、意地っ張りで……素直になれないところとかがかわいい女の子だ。ようするにツンデレだね。
ニーナは……ロボ子だから。うん、ロボ子いいねってさっきから僕はちょいちょい何を考えているのだろうか……小野寺和人の人格がコレほど厄介なんて。状況としてはどうなんだろうか。僕はユークなのか、小野寺和人なのか。よくわからない。
どっちかというと、そのどちらでもある。が、正解かもしれない。ただ、二重人格とは少し違うというか。フュー○ョンみたいなもんだろうか。
まぁいいや。そんなことを考えていても、どうせ答えは出ないだろう。
それとも、古代兵器のニーナにでも聞いたらもしかしたら、何かしらの答えが返って来るのだろうか?
古代って科学と魔法が発展していた時代なわけだし……似たような事例とか、あるかもしれないし。今度聞いてみるのも、アリかもしれない。
ニーナなら僕の話をバカにして聞いたりはしないだろう。ジェシーとカミラもたぶん……そうだろうけど。あの二人にはしばらくは黙っていようと思う。状況を見て、言うか言わないかはその時に決めよう。
「そんなことよりさー」
「なんだい?」
「食事の続きにしなーい? もう、マジで倒れそうなんだけどボクぅ~」
「はいはい……」
「よかったら、どうですか? お二人も」
「いえ……わたくし達は」
「遠慮しないでいいよ! 今日はシチューだしさ! まだまだあるし!」
「そうね。気にしないでください。お客さんだもの」
「では……お言葉に甘えさせて頂きます」
「感謝します。皆様方」
そうして、ようやく僕らは食事にありつけたのだった。
何か、不吉な予感を抱えながら。