現在のリアル
さて、突然前世のことを思い出してしまった僕であったが、段々と落ち着きを取り戻していた。
そりゃ、あんな死に方をしてしまったのでは死んでも死にきれないのは仕方がないのかもしれない。
今の僕は小野寺和人としての感覚が強くあるようだ。とはいえ、僕は僕だ。特にこれからもそれは変わらないはず。
「マスター、どうかされましたか? 先ほど、心拍数に乱れがあったようですが……」
心配そうに見つめてくるのは、ニーナ。僕とジェシーが古代遺跡で偶然発見した戦闘兵器だ。
所謂、人型ロボットと言う奴だろうか。現在は僕が彼女のマスターということになっているらしい。
古代人が大昔に造った人型ロボットで、性能は折り紙つき。
ちなみに、ニーナという名前はT‐270という型番から取ってつけたものだ。
あの頃は人型ロボットなんて信じられなくて驚いたものだが、今だと異世界の定番だなと思ってしまう。
人型ロボットが定番かどうかは別として……古代遺跡とかさ。
毒されてるなぁ……僕ってやつは。オーパーツというか、ロストテクノロジーだよねぇ……これ。
ジェシーやニーナとの出会いを懐かしむように思い出す。小野寺和人としては突然入って来た情報なのだ。頭の処理をする為にも、必要だろう。こういった思い出を思い返すのは。
「いや、なんでもない。それより、トラップは?」
「周辺にはありません。ですが、奥にはいくつか仕掛けられているようです」
「やれやれ……またか」
ここは、初心者もよく立ち寄るダンジョンだ。珍しい鉱石やキノコなどが採れる為、資金繰りに困った冒険者などが立ち寄ることが多い。その為、そういった冒険者を狙う初心者狩りが多発するのだ。
初心者に限ったことではないが、追い剥ぎを目的とした盗賊や冒険者などが後を絶たない。
だから、僕らがギルドの依頼を受けてこうしてそういった連中の始末に来ているというわけ。
……まぁ、資金面で困っているのは僕らも同じなので、そのついでに鉱石やキノコ採集も兼ねているけどね。
僕らは警戒しながら、先に進む。ダンジョンの手前で待ち伏せている奴は少ない。
すぐに逃げることが出来るし、複数のパーティが同時に鉢合わせすることもあるからだ。
となると、闇討ちしやすいダンジョンの奥が最適ということになる。
「敵の数は五名ほどです。それなりのレベルですね……場慣れしているようです」
たしかに、僕の探知スキルでも見つけるのに少し苦労した連中だ。うまく、探知魔法をすり抜けてカモフラージュする技術に長けているのだろう。そういったスキル持ちでなければ、そもそもこのような闇討ちに適していないのだけど。
けど、それもニーナにとっちゃ何の意味も持たない。レーダーで人数や位置はバレバレなのだ。
敵もまさかそんなチートみたいな存在がいるとは思ってもいないだろう。てか、チートって。
小野寺和人の記憶が蘇ったせいで、懐かしい単語を連想してしまった。
「準備はいいかい?」
「勿論よ。いつでも来なさい!」
「はい。全て完了しております」
僕は合図を送る。敵もこちらには気づいているだろう。しかし、僕らは敵の潜む場所へと何の躊躇いもなく、突き進む!
瞬間、相手は驚きを隠せなかった。当然だろう。仕掛けておいたトラップが発動しなかったのだから。
「なっ……何故、トラップが!」
相手の仕掛けたトラップは魔法式。紋章符に予め限定発動術式をセットしておき、発動条件を満たせば自動的に術が発動するというもの。となれば、その仕組みがわかってしまえば解除は可能となってしまう。
当然、通常は解除なんてすぐに出来るものではない。けど、それは僕の場合だと簡単に出来てしまう。
僕の職業は魔術師だ。それも、とびっきりの。自分ではあまりそんなことを言いたくないのだけど、周りがいい加減自覚しろとかそういうことを言うので、自分に力があることは認めることにした。
ま、ニーナでも解除は出来るだろうけど。
驚いている連中の隙をついて、懐に入り込む。敵はワンテンポ遅れてナイフを振りかざすが、遅かった。
僕は、杖で相手の土手っ腹に一撃を与える。相手は「ぐほっ」と軽く吐血をしながら、倒れこんだ。
まずは一人。僕が相手を一人倒した瞬間に、二人組が僕に向かって襲いかかってきていたようだが、それをジェシーとニーナが叩く。
残り、二人。闇に紛れて敵は襲いかかって来た。僕は、即座に障壁を展開する。
すると、ガキン! という音と共に、相手がふらついた。
「な、なんて硬さだ!」
相手は予想もしていなかっただろう。物理攻撃を防ぐ障壁なんて。
通常、障壁というものは魔法を防ぐ為に存在する。もちろん、物理用の障壁も存在はするが、その防御力はそれほど高くはない。せいぜい、ダメージをある程度緩和してくれる程度のものだ。
特に魔術師が使う場合は高レベルの術士であってもそれが限度だろう。防御専門でもない限り。
つまりノーダメージなんていうのは、ありえない。しかも、相手はかなりの手だれで、攻撃用のスキルを展開していた。ナイフには特殊能力を付与していたに違いない。
通常のナイフよりも遥かに切れ味の増した全力の一撃を完全に防ぐなどということを相手が想定出来るはずもない。
僕は、相手と同じように杖に魔力を付与して攻撃力を高めながら、腕力強化の魔法も同時に付与する。
そして、先ほどと同じように相手の土手っ腹に一撃をぶつける。
相手は言うまでもなく、倒れた。
残りの敵は怯えて一目散にその場を立ち去った。白状な奴だ。仲間を捨てて逃げるなんて。
無理もないか。圧倒的な実力差を見せつけられたのだから。
「ふぅ。こんなもんかな?」
「楽勝ね。さっさと、片付けて採掘始めましょ」
「そうだね。ニーナ、悪いけど残りのトラップの解除と見回りを頼めるかな?」
「了解しました、マスター」
僕らは必要な分の鉱石とキノコを集め終わると、自分たちの店へと帰ることにした。
「あー、やっと帰って来た!」
「ただいま。店の調子はどう?」
「んー、ぼちぼちかなー。後、庭の草むしりをしてくれっていう依頼が来てたけど断ったから」
「別に断らなくてもいいと思うけど……」
「何いってんの! どうして、ボクらが庭の草むしりなんかしないといけないんだよ!」
「ほんとよね。ギルドをなんだと思っているのかしら」
僕らはこの町のギルドに所属する一員で、主に国や町、個人の依頼などを引き受けて生活している。
ついでに店を構えて商売もしているんだけどね。ほとんど『何でも屋』に近い状態であることはたしかだ。
ギルドに所属するユニオンの名前は『グロワール』。ユニオンというのは、組合のようなものだ。
元々は、ただの冒険者で各地を転々としていたのだけど、最終的にこの形に落ち着くことになった。
冒険者だけでやっていくのは大変というか、追い掛け回されたこともあったし。
結局、どこかで拠点を構えて生活する方が確実ってことなんだろうな。モンスターハンターや傭兵として生きていくつもりもないしね。
「でもさ、カミラ。困っている人がいたら助けてあげるのが僕らの役目じゃないのかい?」
まさか、僕の口からこんなセリフが出ようとは。夢にも思わなかったな。考えられない。
「あー、はいはい。そんなこと言っていたら日が暮れちゃうからねー。お金にもなんないしー。だめ、ダメー」
「マスター。何でしたら、私が」
「いや、いいよ。もう断っちゃったことだし」
「そうですか」
このボーイッシュな金髪ツインテールの女の子はカミラ・アッカーマン。見た目はともかく、言動や性格などがどこか男っぽい。見ての通り、金にならないことはやらない主義で、割りとケチでがさつな部分もある。
「そんなことより、食事にしよ! 食事に!」
「準備出来てるの?」
「遅かったから作っちゃったよ。もー、おなかペコペコ」
「はいはい……だらしないわね。いいから、お腹出してないで服を着なさい」
「へーい」
カミラの作る食事は一般的なものだ。特別凄いわけでもなく、食べられないわけでもない。
ようするに、普通。普通最高。恋人にするなら、やっぱり普通の子だね!
って、僕は別にカミラに対して特別な感情があるわけじゃ……そう。どちらかというとこれは、小野寺和人の人格が関係しているといえる。
つまり、カミラが小野寺和人にとってどストライクだったということだ。
何、あのボクっ娘。僕のいた世界じゃ考えられないからなー。二次元以外。しかも、金髪! ツインテール! ……胸はないけど。とにかく、萌えるわー。
萌える、なんて久しぶりに使った気がする。いや、まあ……かわいいってことで。
今まで何の感情もなかったというのに、気になってしょうがない。
大体、どうしてユークはこんな美少女三人組(といっても、一人はロボットだけど)に囲まれて誰とも付き合っていないのだろうか。理性なんて吹っ飛んでしまいそうなものだが。
それは駄目だとしても……ねえ? どっかのラノベの主人公かよと。
そんな僕の視線に気づいたのか、カミラは。
「ん~? 何? さっきから、人のことじろじろ見てさ。何かついてる?」
「い、いや。別に……」
あからさまに狼狽えている様子の僕を見たカミラはにたぁ……と笑みを浮かべて、
「もしかして~……ボクに惚れちゃった? なぁんて♪」
半分図星のようなものだ。惚れた……まではいかないけど。意識はしている。
「えっと……マジでどうかしちゃったわけ? 何か今日のユークおかしくない?」
そういって、ジェシーの方を見るカミラ。ジェシーも眉をひそめる。
「そうなのよねー。ダンジョンに行く前に急に立ち止まっちゃったりして、その後はいつも通りだったとは思うけど……」
まずいな。僕がこんな風になってしまったことを言うわけにもいかないし。
「そ、そうかな? いつも通りだと思うけど……」
「怪しいなぁ……何かあったんでしょ! ボクたちに言えない何かって……もしかしてぇ~!」
どうにかして、話を逸らさないとまずい。僕が必死にそんなことを考えていると──
「助けてください!」
急に、ドアから一人の女の子が駆け込んで来た。