デートの約束
スカイドラゴンの騒動も収まって数日。僕は完全に油断していた。
「なんだか、最近。ボクばっかりのけ者にされている気がする……」
「はぁ……そうですか」
「そうですか。じゃなぁ~~~~いっ!」
「えぇっ!?」
すっかりご機嫌斜めのカミラさん。そういったって仕方ないじゃないか。カミラは戦力的に役に立たないのだし……いや、一般人としては強い方なんだけどね。
「いいですよぉ~。ボクは毎日ここで留守番ですよーだ」
「そんな拗ねなくても……」
「これも全部ユークのせいだぁ!」
「なんでっ!?」
これは何を言っても無駄だろうなぁと、カミラの機嫌が治るまで話を聞いてあげるしかないかなーと思っていた時だった。
急にカミラが思いついたように、手のひらを叩いたのは。
「あ、そうだ」
「ん?」
にへらぁ~と笑みを浮かべるカミラさん。どうしたわけ?
「いや、ほらユーク。なんか忘れてない?」
「え? 何を?」
「……思い出せー!」
「そんなこと言われても……なんかあったっけ?」
うーん。思い出せと言われてもなぁ……。漠然としすぎてわからない。何のことだろうか。
「わかりません。なんでしょうか、カミラさん」
「……ほんと、ユークってひどい奴だよね」
「えぇ……?」
カミラはふくれっ面のまま、僕を睨みつけた。ちょっとかわいい。
「だ・か・らっ! デートだよ、デート!! ボクと一緒に行くっていう約束したでしょ!」
「デート……ああっ!」
思い出した。デート……デートね。そういえば、そんな約束したっけ。すっかり、忘れていた。カミラが怒るのも無理はないだろう。
「ごめんごめん、忘れていたよ。デートかぁ……どうする?」
「どうするって……まさか、行かないつもり!?」
「いやいや、行くよ。行かせてください。そうじゃなくて、どこか行きたいところとかあるの? 僕ってデートとかしたことないから、よくわからなくてさ」
「え、ユークってデートしたことないの?」
「そうだけど」
「へー。そうなんだ……したことないんだぁ」
またもにやにやし出すカミラ。そんなに楽しみだったのだろうか。なんだか、悪いことをしたな。
「うーん、そうだなぁ……あっ、祭りはどう? そろそろ開催されるよね」
「祭りかー。いいんじゃない?」
僕たちの住む町、『ラスキア』では今度の日曜日にお祭りが開催される。元々は小規模な収穫祭だったのだけど、今じゃ一大イベントの一つとなっている。
ワイン祭として開かれるが、色んな出店が開かれ、花火やダンス、コンサートなどの催し物がある。
収穫祭自体はこの他にも、栗やトマトなど様々な収穫に合わせて開かれているが、このワイン祭が一番盛り上がる祭りだろう。
ワインのかけ合いなども行われるので、小さい子供などは少し場所を離れて見ていないといけないが。とはいえ、この国は16歳から飲酒や購入を許されているけど。公共の場所ではね。アルコール量の多いものは18歳からとなっているものもある。
僕は19歳なので、購入も飲酒も出来るというわけ。……小野寺和人的には16なんだけどね。それでもギリギリセーフだからいいか。
カミラも16歳だから、問題ないね。なら、ワイン祭に出向けばいいかな。僕はアルコール飲料は基本的にまったく飲まないので、興味がなかったのだけど、カミラが行きたいのならいいかな。カミラも行きたいというよりは、祭りの空気を楽しみたいというのと、デートスポットとしては祭り事は定番中の定番っていうものあるからだろうな。
「じゃあ、決定ね。……わかっていると思うけど、祭りにみんなを呼んで来ないでよね!」
「わかっているって」
カミラさん。それなんてフラグですか。祭りなんだから、必然的に人が集まるわけだしなぁ……行く人はいると思うけど。うっかり、鉢合わせなんてことも。この町ってそんな滅茶苦茶広いってわけでもないんだしさ。
特にお祭り好きそうなアリスなんて絶対に行くだろうなぁ。まあ、アイツの場合は声がでかそうだから、聞いたことのあるような声がしたら、そこから遠ざかればいいのかもしれないけど。
ジェシーとかはどうなんだろう。興味なさそうだけど。ワインに興味がなくても、出店には興味があるか。食い意地張っているし。そんなこというと、斬られそうだが。
ニーナは……付いて来るのかなぁ。表立ってついてこないで影からひっそり見られていそうなのがどうにも……ストレスに来ますよ、さすがに。胃に来るというか。監視社会って怖いね。って、意味違う。
半分重度のストーカーに近いからなぁ。僕の生命活動を最優先にしているからって。まあ、さすがにそんな野暮なことはしないだろう。そう言っておく。聞いてくれないかもしれないけど。
カレンは……うーん。バレたらヤバイな。うるさいぞー、かなり。「兄さんとカミラさんがででデートぉ!? 許しませんからね! 絶対に!」っていうのがもはや勝手に脳内再生されるレベル。恐ろしや、妹。
「ねえ、カミラ。僕らが本当に二人っきりでデート出来る気がするかい?」
「……正直、ボクも期待薄だよぉ」
しょんぼりするカミラ。この、かわいいやつめっ。
思わず僕はカミラの髪を両手でわしゃわしゃする。
「わっ……な、なにっ! ちょっと、やめっ……やめてよぉ!」
「わははは」
「なんなの、急に! もうっ。ユークっていつも急になんかするよねぇ!」
「いやー、カミラがかわいくてつい」
「えっ……」
「あっ……」
ぽろっと。本音が出てしまった。沈黙。気まずい雰囲気の僕ら。
「そ、そうなの……?」
「ま、まあね……」
「へ、へぇ……」
そしてまた黙りこむ。ハズカシー! 超はずかしー!
いや、かわいいのは事実だけどさ。さっきの髪の触り心地もさらさらでいい香りがしてさ。金髪最高。パツキンサイコー! とか思わず叫びたくなったのをぐっとこらえていたわけですよ。おかげで、別の言葉がぽろっと出ちゃったわけだけど。
「そ、それじゃあ僕はこれで行くから。当日はよろしくね!」
「う、うんっ」
僕は慌てたようにカミラのアトリエから出て行ったのだった。