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17/23

ニカロへ

 僕らはスカイドラゴンを気絶させて眠らせた後、ギルド本部へと運びだした。しばらくはギルドに安置しておくしかない為だ。


 その間に特別な船を製造する必要がある。しかし、船を作るだけで相当な時間と金がかかるぞ……その金はニカロ共和国が負担するのか?


 ……いや、ギルド負担なんだろうな、きっと。ニカロはそれほど経済的に余裕のある国じゃない。元々は小国の集まりで、そこが纏まって一つになった国だ。


 しかし、まとまったかに見えた国も実際はそうではなかった。多種族が集まっているということは、それだけ考え方の違いが起こるということだ。


 それに宗教間の問題もある。マーテ教とロスロン教の勢力が互いの主張を曲げずに対立している。ロスロン教は、スカイドラゴンを崇める宗教なのだが、マーテ教はそうではなく、人が襲われているのにスカイドラゴンを放置している現状が許せないというわけだ。


 対してロスロン教はスカイドラゴンが何をしてもそれは龍神の行いであって、全てを受け入れなければならないとかいう話。


 正直、別の国の争いなんかに興味はない。しかし、スカイドラゴンを元の場所へと移送するに当たって何か一悶着起きそうではあった。


 実際、現在でも内紛が続いている国だ。国外勢力と手を結んで内紛をくり返している。危険地帯だ。そんな問題の多い国……正直、この案件って、相当難易度高いよね……ギルドでも最高ランクの依頼だろうな。


 ギルドクエスト……最高ランクはS。A~Fまでのランクに分かれている。上位ランクほど報酬も多い。が、難易度も跳ね上がる。


 まあ、今回のはクエストとは別物なんだけど。例えるならって話。


 なんていっても、国家間の問題が絡んでいるからなぁ。今回はさすがにナーシャさんも同行するらしい。入国手続きや、書状の受け渡しなどでギルド総括長が直々に出向く必要性が出たということだ。


 そしてその護衛に僕らが雇われることとなった。物の序でって奴だろう。ドラゴンの持ち運びは現地人が行うらしく、ニカロまでの護送というわけだが……この時期のギルドは忙しく、それほど人員がいない。とはいえ、ギルドを総括する人物が何の兵力も持ちあわせていないはずもない。


 ギルド総括長のお抱えの近衛師団……近衛歩兵第1連隊が出向く予定だったのが、急遽中止。ニカロ側が拒否したのだ。


 ニカロ側としては、スカイドラゴンの保護を理由に別勢力が自国に介入してくるケースを恐れたのだろう。実際、国外勢力を使っている組織も多いらしいからな。


 よって、たかが十数人程度での護送となった。本来ならば400人体制での護送だったのだが。まあ、ニーナやナーシャさんがいれば十分だろうけどね。


 その中のメンバーで、僕、ニーナ、ジェシー、カレンは同行することに。例によってカミラはお留守番。後は、ナーシャさんにアリス。僕がよく知る顔ぶれはこんなところだろうか。


「なんでウチらが自分達の金使ってまでドラゴンなんかを保護せなあかんねん」


 もっともな話だった。とはいえ、緊張状態のニカロにこれ以上刺激を与えるのはマズイとリルムウェールも判断したのだろう。なのに、全てギルドに押し付けて責任も取れなんていうのはなぁ。僕でも正直、どうかと思うよ。


 しかし、そうしなければニカロとリルムウェールの間で争いが勃発してしまう。嫌な仕事だ。こんなことを毎回やってのけるナーシャさんはタフだなぁ。僕には出来そうもない。


「慣れですよ、慣れ。人間やってやれないことはありませんから。何でも慣れてしまうものです。殺しでさえも、ね」


「……」


「そんなことより、そろそろ時間じゃないの?」


「そうですね。ドラゴンの収容を再確認した後に出発します」


 僕らはすでに船の甲板にいた。緑の濁った川に不釣合いなぐらいの大きさの船。その船がゆっくりと動き出す。


「おー、動いたわー。すごいやん」


 そりゃ動くだろう……まあ、たしかに驚くのもわかるけどさ。なんていうのか、よくわからない感動みたいなものがあるよね。こういう時って。


 とはいえ、観光しに来ているわけじゃない。気を引き締めないと。まあ、ニーナのおかげで敵がやって来たとしても感知出来るんだけどね。


 でも、それに頼らずに僕の方でも探知は行っておかないと。ニーナだって、突然故障するケースがないとは言い切れないんだし。


 ナーシャさんはにこやかな笑みを浮かべていた。しかし、微塵の隙も感じられない。常に全方位に気を配っている。ニーナは森の中だけでなく、川の内部もレーダーを張り巡らせている。


 敵の警戒もあるが、それよりは障害物などがないかのチェックだ。それによって、船が座礁してしまっては困るからだ。


「兄さん、紅茶いかがですか?」


「ん? あぁ、貰うよ」


「はい、どうぞ」


「ありがと」


「いえいえ」


 気を使ってくれたのだろうか。緊張しすぎるのもよくないしな。少しはリラックスしないといけない。


 カレンは僕だけでなく、他のメンバーにも紅茶やお菓子を配って回っていた。意外と気配り上手だったんだな……。


 ジェシーはそういう柄じゃないし。ないとは言わないけど。ニーナは、僕の近くから離れないし。僕の生命が最優先って設定だから仕方ないけど。


 僕の命令よりもそちらを最優先されるらしい。僕のことはいいからは通用しないのがニーナさんだ。まあ、女の子に守って貰うのも……どうかと思うけど、それはそれでなんかいいものだよ。うん。


 飲み物がメンバーに行き渡り、ほっとした時だった。


「マスター。反応が」


「来たか!」


 敵だった。ニーナが真っ先に反応。後からナーシャさんや僕らが気づく。気配に。魔力に。


「数は……50人ほどでしょうか。周囲を囲まれています」


 森の中から次々と現れる敵。おそらくは……マーテ教の連中だろう。スカイドラゴンの存在をよく思っていない連中だ。高確率で襲ってくることは予想出来ていた。


 そうでなくても、この一帯は危険地帯。どちらにせよ、戦闘は避けられないのだ。


 船を守る必要がある。向こうはこちらより数が多い上に、最悪船を破壊できればそれで勝ち。分が悪いにも程がある。


 敵の弓や銃弾が一斉に飛んでくる。僕はそれを障壁でガード。それだけではなく、エアスラストを使って、極力船に当たらないように吹き飛ばした。


 統率の取れた動きだ。こういう時に宗教団体というのは厄介だ。指示通りに動くし、死をもいとわない。目的遂行の為には手段を選ばない。


 そんな連中に慈悲はない。僕はグラビトンで小隊を組んでいる連中をまとめてグチャグチャにした。


 連中は悲鳴も上げなかった。気味の悪い連中だ。死ぬ時は静かにってか? ハッ……!


 フレイムバーンは使えない。森全体が火の海になってしまう。エアスラストも摩擦が少々心配される。となると、グラビトンだが……あまり遠くの距離まで撃つことは出来ないのがこの魔法の特徴だ。


 範囲もそれほど大きくない。この場面では使いづらいのはたしか。


 ライトニングボルトはどうだろうか。これも火がつくのが怖いところなので、やるとすれば相手に接近して撃つしかないわけだが。


 船の守りもある。何かしらの罠をセットしている可能性もあるし、うかつに飛び出すわけにもいかない。困った話だ。


 意外と僕みたいな魔術師って活躍する場がないよね。大出力すぎて。妹やニーナとあれから魔力のコントロールをするようにはなったけどさ。


 そうだ、土魔法。ここは岩場もあるし……いけるな。


「我、命ずるは大地の咆哮……ストーンブラスト!」


 敵のいる地面から岩が隆起する。敵の体は岩によって、貫かれ、絶命した。一瞬のことだ。声も出なかっただろう。


 瞬間、大きな魔力を感知した。まずい。上級魔法を使う気か!?


 それを察知したナーシャさんが、弓に強力な魔力を込めて放った。ディレイ魔法……予め、セットしていたのか。


 敵が放った上級魔法を貫通し、敵の息の根を止めた。凄い。相手の一撃は船を破壊出来るほどの魔法だっただろう。それを弓矢で貫通させるなんて。弓自体が魔法特化の特別製だったとしてもだ。かなりの魔力を一点だけに集中させたということになる。それも、ディレイで。


 ディレイ魔法はセットとは違い、予め詠唱をかけておき、自身の体内にその情報をセットしておくというものだ。


 セット魔法は紋章符などに魔力を込めて術式をインプットしておくのが主流。


 セットとは違い、ディレイには技術が必要だ。体内で瞬間的に再詠唱させるのだから。それをいとも簡単にやってのける。さすがはナーシャさんといったところだろうか。


 僕はセット魔法の方をよく使う。ディレイはあまり行ったことがない。


 さすが、『鬼姫』といったところか。ニーナもいるし、船に死角はないね。


 アリスやカレンも魔法で応戦していた。前回の戦いを見ていれば、気にかける必要もないことがわかる。アリスの実力は前から知っているし、カレンは前回の戦いで十分な腕を持っていることがわかっているからだ。


 ジェシーは船ということで、敵の魔法や銃弾、弓を剣で弾く役目のようだ。船まで接近出来る人物がまったくもっていないので、それ以外にやることもない模様。


 他にも、屈強な男たちがそれなりの活躍をしていた。数分もしないうちに、敵は全滅。圧倒的だった。誰一人、大したダメージを受けていない。


 さすが精鋭中の精鋭だけが集まっただけのことはある。搭乗員は全員がマスタークラス。相手の力量がどれほどかはわからなかったが、このメンツでは大したことない相手だろう。


 50人程度では、せいぜいが足止めぐらい。そもそも、今でも国内でドンパチやっているような勢力だ。それほど兵をこちらに割く余裕はないだろう。その結果、50人たらずでの襲撃となったわけか。


 こちらとしても、それについては助かったところだ。


 しかし、まだ油断は出来ない。此処から先も気を抜かないようにしないとね。


 ◇ ◆ ◇


 僕らはニカロ共和国までやって来た。あれから、襲撃はなく。現地人の協力を得て、ラクタラ山までドラゴンを運ぶことに成功したのだが……。


 ラクタラ山には原住民以外入ることを許されていないらしい。特別に許可を得て入ることを許されたが三名のみに限定された。


 つまり、僕とニーナとナーシャさんの三名。案内役を務めるのは、原住民のチャムという名前の女の子だった。


 原住民……つまり、ラクタラ山に昔から住んでいる民族のことらしい。


 ドラゴンを運ぶのも彼らが行うようだ。僕らは一応、その護衛と最後まで見届ける必要がある為……かな。


 じゃ、後よろしくーと行かないのが国同士のメンツというか。そんなところ。


「コッチ、クル!」


「はい」


 チャムが山を案内する。カタコトのウィール語だ。ウィール語というのは、世界で多く使われている共通言語なのだが、こんなところは原住民という感じがするなぁ。話せるだけマシか。


「オマエタチ、ツヨイノカ?」


「それなりには……かな?」


「ヨクワカラナイ。ハッキリスル!」


 そうだね。僕はどうも、曖昧に答えてしまう癖がある。これまた小野寺和人というよりは……日本人の典型だろうか。


 いや、ユークとしてもそうだったかもしれない。答えを避けて来たというか。


「チャムハ、ツヨイ!」


「そうなんですか」


「ソウダ!」


 なんだか微笑ましいというべきか。ずいぶんと楽しそうに話す子だ。不快感はない。


「チャムは、ショウライ、ゾクチョウ、マカサレル!」


 将来は族長候補か。なるほど。どうやら、強い者が上に立つところのようだ。大体そうだよね、こういうところって。


 しばらく先に進むと、村が見えてきた。踊りを踊っている人もいる。僕らは足を止めることなく、先へと進む。目指すは山の頂上付近。


 ちなみに五体のドラゴンを運び出すのは無理があるので、二体ずつということになった。三体を村に置いて、残りの二体から運び出すということだ。


 僕らが手伝えば、後一体はいけるのだが、それは禁止されているので出来ない。面倒な仕組みだよ。


 途中、凶暴なモンスターが出くわしたので、退治した。どうやら、竜以外は退治しても問題ないらしい。食料にするとか言っていた。誰の? 自分達のなのか、竜のなのか……あ、スカイドラゴンは自分が狩りをしたものしか食さないんだったな。じゃあ、この人達のか。


 頂上付近まで運び終わると、一息つく。さすがの原住民の皆さんも、バテバテの模様。そりゃ、引っ張って来たんだもんなぁ……ここまで。


 まさかの人力ですからね。荷台なんてあるわけないし。押すか引っ張るかして前に前にっていう……。数百人体制で。


 すでに夕暮れ。こりゃここで一晩泊まる必要が出てくるか……?


 そんなことを考えている時だった。地上の方で光が走ったのは。


「あれは……」


「ヒガ! ヒガアガッテイル!」


「火!? まさか……!」


「ニーナ!」


「はい。マーテ教の集団です。かなりの数ですね……300人はいるでしょうか」


「300人……」


 それだけの数がここまで侵入出来るなんて。ここは、ロスロン教の聖地でもある。警備は非常に厳重なはずだ。別のルートから侵入したのか?


 いずれにせよ、手引きした人間がいるのは違いないな……。


 久しぶりの大規模戦闘になりそうだ。少数対大多数はそれなりに経験がある。ここは山だし、広い。やりやすくはある……が、襲われているのは村だ。狙いは原住民ではなく、ドラゴンの方だろう。


 あの様子じゃすでに三体のドラゴンは始末されているかもしれないな。くそっ……。


 僕がそんな考えを巡らせている間に、ナーシャさんは飛び立っていた。それに続いて僕も飛び立つ。


 僕に合わせてニーナも飛ぶ。チャムはそれに驚いていた。そして、猛スピードで走りだしたかと思えば、同じように飛んだ。


 ただし、ジャンプの方だ。そして、なんと僕にしがみついてきたのだ。


「ちょ……えぇ?」


「チャムモイク!」


「あ、はい」


「オマエラ、スゴイナ! ソラ、トンデルゾ!」


 そうですね……。たしかに、当たり前のように飛んでいるけど、普通はそんな簡単に飛べませんからね。魔術師でもそれなりの技術がないと。


 一般人には驚きだろう。それも、原住民ならなおさら。


 僕らは一気に村まで戻ってきた。すでに辺りは火の海だった。焼け落ちる家に……ドラゴンの死体。やはり、間に合わなかったか。


 村には女子供しか残っていなかった。抵抗することも出来なかっただろう。上手く逃げ出していればいいのだけど。


 もし、抵抗した人間がいたのだとしたら……。よく見ると、ちらほらドラゴンの翼に隠れて人の姿があった。……死んでいる。


 それを見たチャムは、悲しそうに……そして怒っていた。


「チャム……ゼッタイ、ユルサナイ……! ゼッタイニッ!!」


 なんてことを。たしかに、ドラゴンにも責任はあるさ。人を襲う以上は。


 とはいえ、関係のない人間を巻き込むのはどうかと思うな。ドラゴンを倒す為には仕方のない犠牲? 世の中はなんて……酷いところなのだろう。


 敵は僕らに気づいたようだ。銃弾を発射してくる。それを障壁で防ぐ。


 どうやら、敵の大多数はすでに山の頂上へと向かったようだ。しまった、行き違いか! ここはそんなに残っていない。


「ユークさん! ここは私に任せて、本隊を!」


「わかりました!」


 ここはナーシャさんに任せて僕らは、再び引き返す。


「ユーク、イソグ! チャム、カタキトル!」


「わかっている!」


 登りの途中で敵の本隊を見つけることが出来た。僕は詠唱を開始する。


「我、命ずるは燃え盛る炎! フレイムバーン!」


 敵に巨大な炎の渦が迫る! それを敵は障壁でガードした。


「!」


 どうやら、複数で同時に障壁を展開し、僕のフレイムバーンを防いだようだ。ああやって複数で全体障壁をかけられちゃ、魔法でのダメージは難しくなる。大魔法ならどうにかなるだろうけど。


 僕はルーンソードを展開し、敵の集団に突き進む。チャムも飛び降りたようだ。


 そこへニーナがホーミングレーザーによる援護。指先から放たれる。


 敵を片っ端から斬り伏せる。遠慮など無用だ。敵は次々に襲い掛かって来る。


「アァアアアアアアッ!」


 おたけびのような、咆哮。チャムは、叫びながら敵を薙ぎ払っていった。太い棍棒のようなもので。魔法は使えないみたいだけど……体術は相当だな、あの子。


「我々に仇なす者に鉄槌を! アデラーデ! アデラーデ!」


「我々に仇なす者に鉄槌を! アデラーデ! アデラーデ!」


「我々に仇なす者に鉄槌を! アデラーデ! アデラーデ!」


 同じ言葉を連呼……そうやって士気を高めているのか。催眠術みたいなものだなと僕は思った。すでに敵はばらけている。今なら。


「チャム! 僕に合わせて後ろに下がるんだ!」


「ナニ?」


 僕は詠唱を開始する。


「我、命ずるは光の象徴……」


「我、命ずるは闇の波動……」


「光と闇が交わりし時……時空を超える輝きとならん!」


「今だ、チャム!」


「ワカッタ!」


 チャムが後ろに大きく飛んだのと同時に僕は魔法を発動させた。


「タ・キ・オ・ン!」


 僕を中心に光の波動が辺りを包み込む……。数百人いた敵は跡形もなく消し飛んだ。何気にニーナがチャムを部分障壁でガードしている。タキオンの被害に万が一にでも巻き込まれない為だろう。


「オォ……スゴイ! ユーク、スゴイ!!」


 僕の魔法を見たチャムはずいぶんと騒いでいた。


 こうして、戦いは終わったのだった。


 ◇ ◆ ◇


 村までたどり着くと、チャムが僕に向かってとんでもないことを言い出した。


「ユーク、ムラノオンジン! イノチタスケテモラッタ! ツヨイ! チャム、オヨメナル! ユーク、イッショニクラス!」


「え、えぇ……?」


 どうやら、村を救った英雄みたいな扱いになっているらしい。先ほどの戦闘で村に残っていた族長は死亡。チャムが後を継ぐことに。


 そしてまさかの求婚である。いやぁ……さすがに無理だよ。それは。


 断ると、凄い残念そうな顔をするチャム。そんな顔しないでくれ。


「ソウカ……ザンネン。デモ、マタアソビニクル! チャム、マッテル!」


「うん。また遊びに来るよ。機会があったらね」


「キョウハ、ウタゲ! オドル! タベル! ノム!」


 夜もふけてしまったので、この村で一晩泊めて貰うこととなった。


 宴が始まって、食事や酒などが配られる。特に僕は宴の中心扱いで、やけに豪勢だった。女の子も何人か僕の近くで酌をしてくれる。


 サンバみたいな格好で頬にキスをしてくる。悪くない。ダンスも妙にえろい。


「チャムトオドル!」


「オッケー」


 僕とチャムは踊った。踊りは仕込まれていたので、普通に出来る。チャムはずいぶんと楽しそうだった。


 ナーシャさんはそんな僕らを見て、軽く笑みを浮かべる。


 ニーナは直立不動で僕のことをずっと見ていた。怖いよ、それ。


 せめてもうちょっと柔らかく……まあ、警備しているからしょうがないけど。いつもあんな感じだしなぁ。


「チャム、コノムラ、マモル、ギムアル! ケド、イツカゾクチョウヤメタラ、アイニイク!」


「その時を楽しみにしているよ」


「ウン!」


 大盛り上がりの宴は、そうして朝まで続いたのだった。


 ◇ ◆ ◇


 今回の案件は半分失敗といえるが、ニカロからは何のお咎めもなかった。まぁ、状況が状況だしね。自分達の警備の甘さを指摘されるのも困るだろうし、彼らからすれば、マーテ教の信者を一部始末出来ただけでも儲けものなのだろう。


 さて、僕はナーシャさんから報酬を受け取らないつもりだった。元々、借りを返しただけのことだし。


「じゃあ、ギルドに借り入れしているお金の返済ということでいいかしら?」


「いえ、それはカレンが自分で返済するといっておりますので」


「あら……そうなの?」


「はい」


 部屋増築によりギルドから借りた分は自分で返すときかないのだ。それならそれでいいけど。


「じゃあ……最近、何かと物入りでしょ? 受け取っておいてくれるかしら」


 渡された金額は結構な額だった。そりゃ、結構な依頼だったからなぁ……半分失敗とはいえ。あれから、ドラゴンがキヌノー山に戻ってきたという報告もないし。追い返すという目的だけなら成功だしね。


「どうもありがとうございます。ありがたく受け取っておきますね」


 ナーシャさんはにっこりと笑みを浮かべる。あ、なんか嫌な予感が……。



「一つ、貸しね」



「……」


 僕は一生、この人にこき使われるのではないかと、不安になり始めているのであった。

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