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スカイドラゴン

 さて、それからしばらくして。僕らは飛竜討伐……もとい。保護? まぁ、元の住処に返すには、どうすればいいかを検討していた。


「やっぱり、気絶させるしかないかな? 追い返すのは……無理だと思うのだけど」


「そうですね。スカイドラゴンは気性が荒い性格をしていますので。一度、住処にした巣から出て行くことはしないでしょう。自身が攻撃されたとしても」


「気絶させたとして、どうやって運ぶ? 飛竜って全長10メートルぐらいあるよね?」


「はい。スカイドラゴンの体長は10.2メートル。体重はおよそ8トンでしょうか。性別によって差は多少ありますが」


 8トン……どうやってそんなの運ぶんだよ。この世界ってそんな運ぶのに便利な機械とかないし。荷台に積んで……行けるわけ無いだろ。


 車なんてないんだから、人力とか馬車だぞ……。馬車は無理だ。せいぜい数百キロが限度だろうし。相当の人数が必要になるなぁ。


「風魔法を使ってはいかがでしょうか」


「うーん。8トンもの生物を持ち上げたことはないからなぁ……そこまでの出力を長時間安定させられるのかどうかっていう問題があるね」


「となると、途中までは川路を使う必要がありますね。専用の船を作る必要性も出てきますが」


「川を渡る船なんて、しれているからねぇ。専用の船か……ギルド費用から落ちるんだろうねぇ? その辺の金は」


「まあ、さすがにその辺は大丈夫でしょう。彼女ならそれぐらい想定しているはずでしょうから」


 彼女とはナーシャ・ベリントスのことを指す。そうでないと困る。


「僕とニーナの二人がかりでなんとか運べるだろうか?」


「おそらくは。ですが、数もそれなりにおりますので、やはり川路を使うべきでしょうね。北東の国……ニカロ付近まで運んだ後は現地の人と協力してラクタラ山まで運び出すしかないでしょう」


 これは思った以上の大仕事だぞ……気絶させるのもそうだけど、それ以上に倒した後の処理が大変だ。後処理のが大変っていうのは、何でもそうだけどさ……。


 さて、倒した後どうするかは決まった。次はどうやって気絶させるかだけど。


「食料に睡眠薬とか混ぜて食べさせることは出来ないの?」


「出来ませんね。彼らは自分達が狩りをしたものしか食しません。その為、動けなくなった者はそのまま餓死するようです。これが、保護理由の一つでもあります。年々数が減って来ているようですから」


「なるほどねぇ……ずいぶんとプライドの高い竜だことで」


 となると、直接的な攻撃で気絶させるしかないか。その後はアルコールで酔わせるか、眠らせて運ぶだけだし。


「後は、翼を多少傷つけておけば、元の巣にはすぐに帰れませんし、ラクタラ山の方で落ち着いてくれる可能性もありますね」


「そのぐらいはしょうがないか。戦闘中の出来事ってことで」


「はい」


「誰が行くかだけど。僕とニーナは必須として……」


 カミラは無理だ。それに店の留守番もあるし。ジェシーも……今回は空中戦がメインになりそうだからなぁ。剣士のジェシーに出番があるかどうか。


 そうなると、僕とニーナだけかなぁ……?


「私も行きます」


「えっ」


 そこにいたのは、カレンだった。話を聞かれていたのか。


「いや、でも。危険だぞ」


「わかっています。それに、兄さん。私は昔よりも『魔力』が高いのですよ?」


「……」


 昔。……いや、今は考えないようにしよう。


「……そうなのか?」


「はい。『覚醒』したんです。私。なので、今の私は兄さんにも引けをとらないぐらいの魔力があります」


 それが本当なら、心強いのだけど。実際にカレンの力を見ていないからなんともいえないな。


「空中戦がメインになりそうだけど、大丈夫?」


「バカにしないでください。飛行魔法ぐらい使えます」


「そう。なら、いいけど。僕は止めないけど、危ないと思ったら下がること。いいね?」


「わかりました。兄さんに私の力を見せてあげますよ」


 そういうわけで、僕とニーナとカレンの三人で飛竜退治を行うこととなった。


 ◇ ◆ ◇


 飛竜……スカイドラゴンのいるキヌノー山へと入った僕ら。


「念の為に確認しておくけど、装備のチェックはいい?」


「はい、マスター」


「兄さんじゃあるまいし、ちゃんと出来ています」


 僕だって疎かにしたことはないんだけど……駆け出しの頃はあったか。


 とにかく、今は一度もない。装備のメンテナンスなんて基本だ。それを疎かにする者は三流以下の冒険者だろう。冒険者じゃなくても、そうだ。


「ニーナ、どう? 数は?」


「そうですね……全体を見て5ってところでしょうか。早朝ですから、眠っているのも多いようですね。狩りに出ている竜もいるかもしれませんが」


「5か……僕とニーナで大多数を相手にするから、カレンは無理しないようにね」


「子供扱いしないでください。私だってちゃんとやれます」


「だといいけど……」


 そもそもドラゴン相手にたった三人っていうのがとんでもない話なんだけどね。それも最低で5体以上いる竜の群れを相手に。


 スカイドラゴンは巨大な巣を作って、そこで生活をする。場所は深い森の中だったり、洞窟内だったり様々だ。


 今回も、洞窟や森の中といくつかあるようで、どこから手をつけるべきか。ニーナの言う5というのは、どうやら山全体でという意味だったらしい。となると、数は分かれているということか。


「洞窟がいいのではないでしょうか。狭い場所ならば竜も身動きが取りにくいはずですし」


「上が空洞だったら、待ちぶせもできる、か。それで行こう」


「了解しました。では、洞窟まで向かいましょう」


 キヌノー山は様々な動物が住んでいる。モンスターも当然いる。


 しかし、獰猛なモンスターはそれほど多くない。いるにはいるが。なので、スカイドラゴンなんてやって来た日には、一方的な蹂躙がモンスター達にもたらされるというわけだ。ここの生態系が狂うのが間違いない。


 ここは、果実やきのこ採集などにもよく来られる場所で、人の被害も起こりうる。結局、出る杭は打たれるというか。


 生物の宿命かね。邪魔者は排除されるというわけだ。より強い力によって。それは人間も同様……。古代人なんかがいい例じゃないか。過ぎた力は身を滅ぼすってことさ。


 なら、何故人は力を求めるのか。それが生物としての本能なのだろうか。相手を蹂躙したいという、欲求。その快楽。


 わからなくはない。しかし、人という生き物はその欲求を制御出来るようになったのではないのだろうか。理性で。


 いや、出来ないからルールが作られたのだろう。そうしなければ、自分が追いやられる。そういう枷をつけないと、自制が効かない生き物ってことだ。


 なんて、醜いのだろうか。人間ってやつは。いや、生物全体が、か。


 どうでもいいことだ。そんなどうでもいいことをクソ真面目に考えてしまうことがある。僕の悪い癖だ。これも小野寺和人時代のことだが。


 ……それだけじゃないか。僕の過去にも影響していることだ。これは。


 結局、僕と僕……ユークと小野寺和人は根本的に似たもの同士ということだ。それを認めたくないのかもしれない。変わったはずの自分が、そうではないかもしれないなんて。


 完璧な人間なんていないんだ。そんなこと、わかっていたはずなのに。


 人には誰だって思い出したくない過去の一つや二つあって、苦悩を抱えながら生きているってことに。僕はようやく気付かされた。『転生』という形を経て。


 自分の意志で変わらない限り、人は変われないんだ。


 気持ちを切り替えろ。さすがに、油断していい相手じゃない。行こう。


「僕が内部に潜入して、誘い出すから。出てきたところをニーナとカレンで頼むよ」


「はい」


「わかりました、兄さん」


 僕はゆっくりと飛行魔法を使って洞窟を進む。足音を立てないようにした方が気づかれにくいと判断した為だ。


 しばらく奥に進むと、大きないびきのようなものが聞こえて来た。大きな穴が見える。僕はゆっくりと、降り立った。


 そこには大きな部屋が存在していた。巨大な巣だ。僕は穴からそれを覗きこむ。1……2……3体か。ニーナの情報通りだな。スカイドラゴンは群れで活動する習性はなかったはずだけど、近年は変わって来ているのかもしれない。それも、数が減った影響だろうか。


 残りの2体は別の場所か。森の方に巣があるかもしれないな。


 しかし、10メートルもあるような巨体が三体もいるとなると……圧巻というか。物凄い存在感だと思う。そそり立つドラゴンに圧倒されていた。


 けど、今なら奇襲で一体ぐらいはノックアウト出来るかもしれないな。眠っていることだし。残りは誘いだしてニーナにやって貰うか。


「限定術式……解除」


 僕は戦闘服に着替える。再び、ハイウイングの魔法を唱えて、飛び立つ。

 そして、近くにいるドラゴンに向かって詠唱を開始。


「我、命ずるは天の怒り! ライトニングボルト!!」


 すると、ドラゴンの目が見開かれて、僕の方を向いた。瞬間的に反応したのか!? 恐らく、僕の魔力に反応したのだろう。そして、すぐさま僕に向けてブレス攻撃をしてくる辺り、思った以上に、早い判断力!


 完全に虚を衝かれたのは僕の方だった。狙いすましたかのように、僕に向かって飛んでくるファイヤーブレス。同時に放ったライトニングボルトはブレスによって、消滅。僕は回避行動を取るが、そのままドラゴンは首を動かして僕にブレスを命中させた。


 僕はそれを障壁で防ぐ。が、ブレスの勢いは凄まじく、僕は吹き飛ばされてしまう。ぐっ……!


 なんて、衝撃だ……。いくら攻撃は障壁で防げるからといって、衝撃までは抑えきれないからなぁ。ある程度は緩和出来るとはいえ。


 身体能力を強化していなければ、危なかっただろう。衝撃だけでこれだ。


 騎士団が編成を組む必要があるだけのことはある。こんなのが三体。そりゃ、普通の人じゃどうにもならない。しかも、これを生け捕りにしないといけないんだから。


 僕は壁に激突する前にハイウイングを唱えなおして、方向転換をする。


 たしか、ドラゴンの弱点は眉間だ。とはいえ、弱点なのはそこが脳の部分に直結するからって話でそこに大きなダメージを与えることは出来ない。


 となれば、衝撃を与えて脳震盪を起こさせるかして気絶させなければいけない。ルーンソードは使えない。


 ショックを与えて気絶させるには、ライトニングボルトが一番だと思ったのだけど、相手の近くまで行かないと、ブレスでかき消されてしまうな。


 かといって、あまりに大出力にしてしまうとドラゴンが死んでしまう。


 加減が難しいのだ。そもそも僕はそういうのに、あまり慣れていない。いい機会かもしれないけど。手加減を覚えるのには。


 残りのドラゴンも起きだしたようだ。当然か。これだけ騒ぎになったら。


 まずいな。狭いところだから僕のが有利かと思ったら、あんな体格の癖に俊敏に動くし。飛ばなくても、十分強い。


 こっちは相手を殺せない上に極力傷つけないというハンデまである。結構、キツイよ。これ。


 前言撤回。一人ぐらいノックアウト出来ると思ったけど、もう無理だ。上の空洞から逃げよう。


 当然、ドラゴンたちも飛び出して来る。そりゃそうだ。上は大きな穴が開いており、ドラゴンたちがラクラク通れるようになっている。そうでなければ、そもそも巣に出来ないわけだが。もしくは、ドラゴン達が自分で穴を開けたかのどちらかだが。


 しかも、ブレス攻撃のおまけ付きだ。それを僕は回避しながら上空へ飛ぶ。僕は上空へフレイムバーンを放ってそれを空中で爆発させた。花火のようなものだ。


 これは、ニーナ達に僕が今から上空から出るという合図だ。予め決めておいた。


 僕が洞窟から飛び出すと、ニーナとカレンが待ち構えていた。


「来るよ!」


「プラズマボール展開……!」


「ライトニングボルトォ!」


 ニーナとカレンの同時攻撃。最初に飛び出したドラゴンに見事命中し、気絶して落下していく。残りの二体はそのまま飛び出して僕を追う。


 高速で飛び回る僕とスカイドラゴン二体。追われるのには慣れているけどさ。僕とドラゴンの攻防は続く。さすがに早い。スカイドラゴンって名前がつくだけのことはある。


 グラビトンは……まずいか。ヘタすると、大ダメージを与えかねないし。それに、ドラゴンの魔法抵抗力はかなりのものだ。効かない可能性もある。


 そうなると、この間のニーナとの組手みたいなことになりかねない。


 ニーナとカレンも僕に向かって飛び立つ。後ろの二人がどうにかしてくれることを祈るしかないか。ただ倒すだけなら、カンタンなんだけどなぁ。


 そう思った時だった。前方からドラゴンが現れたのは。回りこまれた!? いや、違う!


 他のドラゴンが騒ぎを嗅ぎつけてやって来たんだ。マズイ。


「マスター!」


「兄さん!」


 二人が叫ぶ。僕はドラゴンたちに完全に挟まれる形となった。前方のドラゴンの体当たり。その物凄い速度と体重で突進されたら、とてつもない破壊力を生み出すのは間違いないだろう。実際、それは来た。


「ぐぁ……っ!」


 僕は思いっきり、吹き飛ばされた。そして、地面へと激突する。衝撃は先ほどのブレスの比ではなかった。


「がはっ……」


 一瞬、息が止まった。くそ、こんな奴ら……僕が本気を出せば。


 怒りがこみ上げて来た。──殺してしまうか? そんな考えがよぎった。


「マスター、いけません!」


 はっとした。ニーナのその一言で我に返る僕。そうだった。ナーシャさんに任された仕事だ。僕の個人的な感情で動くわけには行かない。


「何やっているのよ、兄さん!」


 妹が見ているっていうのに、情けない。こいつらの攻撃を直接防ぐのは無理だ。衝撃がでかすぎる。なら……やるしかない。


 僕は飛び出す。飛び回るドラゴンに向かって。ニーナ達もようやく追いついたようで、一人一体を相手にすることとなった。


「我、命ずるは燃え盛る炎! フレイムバーン!」


 ドラゴンは炎の耐性が非常に強い。ブレスを吐き出すことからもそれは伺える。なら、どうしてそんなドラゴン相手にフレイムバーンを放ったのか。理由はこうだ。


「弾けろ!」


 僕が先ほど、合図でも使ったようにフレイムバーンを途中で爆発させる。ドラゴンはそれに驚く。さらに、拡散した炎によるめくらまし。


「グォオオオオオオ!」


 ブレスで消し飛ばすつもりだ。しかし、その一瞬のタメを待っていた。ドラゴンはブレスを発射する瞬間、隙が出来る。


 僕は一気に背後に回りこむ。そして、竜の後頭部を掴み、詠唱を開始。


 「我、命ずるは天の怒り! ライトニングボルト!」


「グァアアアアアアアアアアアアッ!!」


 奇声を上げてドラゴンは崩れ落ちる。やった。


「はぁ……はっ」


 僕はすぐさま、他の状況を確認した。ニーナはすでにドラゴンを倒しており、カレンの援護に回っているようだった。


 カレンはスムーズな動きで敵を翻弄していた。僕と違って、普通の魔術師は物理障壁が高いわけじゃないからな……ああやって、動きまわって回避しないといけないわけだ。


 僕はなまじ傷つかないことがわかっているから、いけないのかもしれない。食らったら、アウト。それぐらいの気持ちでぶつからないと。


 回避しながら、魔法を放っていくカレン。その動きに合わせて、ニーナが背後に回っていた。先ほどと同じく、ブラズマボールを与えて、敵を気絶させた。


 なんとか僕らは、ドラゴン退治を成功することが出来たようだ。まだ残り一体潜んでいるようだけど、三人なら楽勝だろう。


「なんとかなりましたね」


「ちょっと、兄さん。ひやひやしましたよ。なんですか、あの戦い方は!」


「いや、面目ない。力の加減が難しくて」


「そんなのただの言い訳です! 私だって高い魔力をうまく制御しているんですから!」


 確かにその通りだ。実際、カレンの魔力の高さはかなりのものだった。それを上手くコントロールしているのは見てもわかった。僕より、技術力は高いかもしれない。


 情けないねえ、なんだか。今まで力押しでどうにかして来たツケが回って来たのかな?


「仕方ありません。マスターの魔力は桁外れに高いのです。傷つけないようにとなると、かなりの苦労を強いられます」


「ニーナ、ありがとう。そう言って貰えると少しは気が楽だよ」


「ニーナさんは兄さんを甘やかし過ぎです!」


「そ、そうでしょうか……」


「そうです!」


 カレンはずいっと身を乗り出して、叫ぶ。


「これからは私が兄さんを指導します。覚悟していて下さいね!」


「えぇ……?」


 とんでもない話になった。まさか、妹に教わるなんて……うーん。僕のプライドがどうにも邪魔をする。さすがに、女の子。それも、妹に教わるなんていうのはちっぽけなプライドが傷ついてしまう。


「それはちょっと……」


「ちょっとじゃありません。最低でも兄さんがその力をある程度コントロール出来るまでは、ニーナさんと一緒にやりますからね!」


「ひぃい……」


 妹はスパルタな気がする。絶対そうだ。嫌だー。助けてくれー。ニーナさーん。


「ははは……まぁ、私も傍におりますので」


「OKしちゃっているし!」


 そんなこんなで、残ったドラゴン退治よりも、カレンとの修行をどうするかを考えるハメになった僕だった。そっちのがよっぽど怖いよ。色んな意味で。

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