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ナーシャ・ベリントス

祝・日間57位。

 カレンの問答無用の押し込みで、結局グロワールの増築を行うことになった。カレンの部屋だけでなく、ゲスト部屋まで用意したせいで、100万ガルでは足りなくなってしまった。


 おかげで、ギルドから借り入れをすることになった。さて、この借金をどう返済するのかといえば。


「大丈夫です。私だって働きます。ですが、同じところで働いても稼ぎが増えるわけではありませんので、どこか別のところで働こうと思いますけど」


「それなら、カフェとかどうかしら?」


 と、ジェシー。


「カフェですか。いいですね」


「ボク、高時給のカフェ知ってるよ!」


「本当ですか?」


 高時給のカフェ……いかがわしい店じゃないだろうな。さすがにカミラがそんなところ紹介しないか。僕の考え過ぎ……というか、勝手にそっち方向に持って行こうとしただけかも。


「じゃあ、僕はギルドに行って、グロワールの人員追加登録をしてくるよ。ニーナも来てくれるかい?」


「はい、マスター」


「あ、兄さん。私も……」


「カレンはカミラにそのカフェの紹介をして貰いに行ってきたら?」


「……ぶう」


 そう言われると何も言い返せないようで、大人しくなるカレン。助かったー。


「……兄さん。もしかして、私と一緒にいたくないからそんなことを言っているんじゃありませんよね?」


「言わない言わない」


 半分正解だけど。嫌ってわけじゃなく、色々面倒だから。後、外でべたべたされると恥ずかしいし。それに、僕はニーナに用があったから。


 二人でギルドに行く方が都合がいいってことだ。


「わかりました。今回はそうさせて頂きます。仕事先はさっさと見つけた方がいいですからね」


「うん。じゃあ、僕らは出かけるよ」


「いってらっしゃい」


 グロワールを出た僕とニーナ。この二人の組み合わせは久しぶりだ。


 ちらっとニーナの横顔を見る。綺麗な整った顔をしている。ロボットにあるような繋ぎ目的なものや金属感は存在しなく、人間にしか見えない。


 当時の技術力の高さに驚かされる。ニーナのような戦闘兵器は別として、このようなアンドロイド的な存在が普通にありふれていたというのだから。


 羨ましい。ある意味、奴隷のようなものだしなぁ。それも100%命令に忠実な。性行為用のアンドロイドも多数存在していたとか。


 想像すると興奮してしまう。あぁ、男だなぁ……僕って奴は。


 小野寺和人の記憶のせいかもしれないが、素直に受け入れることにした。これが今の僕なのだし、こういう感覚も悪くはない。


 萌え型ロボットって男のロマンじゃないですか。ねえ?


 実際、今目の前にいるんですけどね。


「どうかしましたか、マスター? 腕でも組んだ方がよろしいですか?」


「それもいいかもね」


「え?」


 今度はニーナの方が驚いた。まさか、そんな返しが来るとは思っていなかったのだろう。普通なら、「いやいや、しなくていいから」みたいな返しが来ると予想をしていたのだろう。


 最近、そうやって僕をからかう女性陣が増えて来ているので、僕だってお返しさ。


「どうしたんだい、ニーナ? 組まないのかい?」


「え、えっと……その。はい。マスターがお望みでしたら……」


「おや、僕の? ニーナのじゃなくて?」


「う……」


 照れくさそうにしているニーナ。本当に普通の女の子のようだ。どんな機能なんだろうか。戦闘兵器だよね? 兵器にこんな機能つけた当時のお偉いさん? はどういうつもりだったんだろうか……。


「ずるいですね……マスターは。その通りです。私がしたいからに他ありません。これでよろしいですか?」


 うつむき加減で上目遣いにこちらを見るニーナ。その仕草にどきっとする。僕は軽く指で顔を搔いた。


「それでは、失礼致します……」


「あ、はい……」


 ニーナさんは僕の腕にしがみついた。えーと、ニーナさん? もっと軽くソフトな感じが普通だと思うのですが……そんな思いっきり体重預けられると、その、重いのですが。


 ニーナは人間じゃない。ロボットなので、体重は相当あります。しかし、肌の感触だけは完全に人間そのものだった。やわらかい。


 胸の感触も……ニーナの胸は巨乳なので、ほとんど寄りかかっている状態のニーナの胸は僕の腕にダイレクトヒット。


 たまらんね。最高! これで嬉しくない男子がいようか。いない。


「ニーナさん? あまり、しがみつかれると歩きにくいのですが」


「あっ、申し訳ありません……私としたことが」


 ロボットなのに、慌てる……マ○チみたいなものだろうか。たしかにドジっ子ロボットって結構需要ある……じゃなくて。そんな機能まであるニーナさん、すごいです。


 歩きにくいのは事実なのだけど、胸も当たるし、重いしってのを遠回しに言っただけなんだけどね。さすがに、女の子に『重い』は禁句だと思ったので。


 身体強化すれば、問題ないのだけど……それしたら、さすがにニーナは気づくだろうしなぁ……。


 これがもし毅然とした態度で淡々としがみつかれていたら、どうなのだろう。それはそれで萌え……こほん。とにかく、ギルドへ向かおう。


 ギルドまで、僕らは腕を組みながら歩いて行ったのだった。


 ◇ ◆ ◇


 ギルドについた僕らはさっそく、グロワールの人員追加の申請をすることに。


 そこに現れたのは、ナーシャさんだった。ナーシャ・ベリントス。ギルドを総括している偉い人で、ちまたでは『疾風のナーシャ』や『鬼姫』とか呼ばれて恐れられている。


「あら、ユークさん。こちらへいらしてたんですね」


「ええ。ナーシャさんは相変わらず、忙しそうですね」



「はい。誰かさんのせいで」



 にっこり。と、笑みを浮かべるナーシャさん。それって僕のことですよね……。笑顔が怖いです。


「あはは……すみません」


「いえいえ。たしかに、留守を任されましたが、それが何日までかを聞かなかった私が行けなかったのですから。ユークさんのせいではありませんよ。おかげで、スケジュールが押しててんてこ舞いなのも、全部自業自得なんですー」


「……お手伝いさせて下さい。お願いします」


「あら、手伝ってくれるのですか? うふふふ……じゃあ、ちょっと対処に困った案件がありますので、それをお願いしようかしら」


「困った案件……」


 ナーシャさんが『困った』などと言う時は本当に困ったことなので、非常に困ります。僕が。この人、基本的に完璧超人なので、ほとんどのことは自分一人で処理できちゃうんですよね。だから、その人が処理に困るっていうのは……必然的に、ね。


「手伝って、くれるんですよね?」


「はい。します。なんでもします」


「じゃあ、キスとかしてくれます?」


「ええ、しますよって……はい?」


「ふふ、冗談です」


「あの……ナーシャさん。そういう冗談は……」


「本気にしちゃいましたか?」


 眩しい笑顔。これが本当のジョークというか……最近、ウチのメンバーは冗談なのか本気なのかわからないからなぁ。ナーシャさんぐらい垢抜けてると、逆にわかりやすいというか。


「じゃあ、本気にして襲いかかっちゃいましょうか」


「ふふ、いいですね。わたし、結構肉食系の人、好きですよ?」


「う……」


 じーっと見つめられる。僕はその眼差しに耐え切れず、顔を背けてしまった。


 敵わないなぁ……ナーシャさんには。


「まだまだですねぇ、ユークさんは。でもそんなユークさんに一つだけ。何の好意も持っていない人がこんなことは言いませんよ?」


 そういって、人差し指を僕の方に指すナーシャさん。


 え、それって……。


「それで、肝心の内容なのですが」


 ずいっと。顔を近づけて来る。ドキドキするのでやめてください。いちいち、どきっとさせてくるようなことをしてくるのだ、この人は。


 話をズバっと切って、いきなり本題に入るのもいつもの手だった。


 やり方がうまいというかなんというか……相手をその気にさせるのが上手というか。これでコロっと騙されてしまうのだろうなぁ……男は。いや、女の人でも、話術と仕草で……。


「飛竜って知っていますよね?」


「はい。そりゃ。……退治して来いってことですか? もしかして」


「うーん。そんなようなものなのだけど……ただの退治だったら何の問題もなかったのだけど」


「何か?」


 飛竜……まあ、空を飛ぶ竜全般を指す言葉だけど、この辺で有名な飛竜といえば、北東にあるラクタラ山に生息するスカイドラゴンのことだろう。


 性格は獰猛で、人を襲うことも多い。巣に近づくものは容赦しない。エサを求めて地上に降りてくることもある。


 そういえば、スカイドラゴンってたしか……。


「その飛竜なのだけど、北東の国では保護対象に指定されている固有種で、勝手に始末することが出来ないの」


 始末って単語を普通に言う辺り、やっぱりギルドの総括をしているだけあるよなぁ……。それがなかったら、さくっと始末しているって言っているようなものだし。


「飛竜って、騎士団の騎士達が編成を組まないと倒せないぐらい強いでしょ? それを、生け捕り……しかもなるべく傷つけないようにとなると、大変なのよ」


 たしかに、そうなってくるとその依頼をこなすことが出来る人物はだいぶ限られて来る。この間、僕らが戦闘したビスゥーダ王国の騎士達のような重装備で、それも小隊を組んでようやく退治出来るような存在だ。


 それを生け捕りともなると……。


「我が国の騎士団がわざわざ出向いてくれるわけもないし、ギルド側でなんとかしろっていういつものお話なのよね」


「けど、それをスマートにこなせる人達って限られてくるし、そういう人達は別件で動いているから人がいないのですよ」


 そこで僕に白羽の矢が立ったと。


「本当は私が直接出向いてもよかったのですが、誰かさんのおかげで仕事がいっぱいなの☆」


「あはははは……すみません」


「やってくれます、よね?」


 そういって、僕の手を両手で握りしめる。顔をずいっと近づけて懇願するナーシャさん。ずるいです。断れる雰囲気ゼロです。


 そもそも、実際僕のせいっていうのは少なからずあるし、借りのが多いぐらいなので、当然引き受けるつもりだったのだけど。


「わかりました。なんとかしてみます」


「ありがとう、ユークさん。助かります。貴方達に任せれば安心ですね。これで心配事が一つ減りました♪」


「それはよかったです」


 普段はこういった要件もナーシャさんがこなしているのだろうな。ナーシャさんが出向くような事態はそうそうないだろうけど、人がいなければ出向く必要があるのはたしかだし。


 ナーシャさんの腕は超一流だ。マスタークラスなのもそうだが……ただのマスタークラスではない。一般的にマスタークラスといえば、一つの職業を極めた達人級のことを指すのだけど、彼女の場合は全職業のマスタークラス……パーフェクトマスターなのだ。オールマスターともいう。


 とんでもない話である。これが若干27でギルドを任される理由でもある。数年前の内紛を彼女一人で収めたこともある。


 焼け野原に佇む女性。その妖艶な笑みから『鬼姫』と呼ばれるようにもなった。色んな意味で規格外の人物。


 その中でも彼女が得意とするのが、弓であり、ミリ単位で自分の狙った場所に正確に的を射抜く。相手がどんなに早く動いていようとも。


 しかも弓の先に大魔力を込めてくるので、障壁で防ぐのはほぼ不可能。


 僕は例外的に可能だが、あの正確さで連続して同じ点をつかれれば、たちまちに破壊されてしまうだろう。


 そう。僕が負ける可能性がある数少ない要素の一つとして、一極集中攻撃や一点を連続して狙われると障壁が破壊されてしまう恐れがあるということ。


 彼女はそれが可能な数少ない人物の一人である。戦いたくない相手の一人だ。


「そういえば、何の用でこちらにいらしていたのですか?」


 と、ナーシャさん。そうだった。妹の登録以外に用があったのを忘れていた。


「ナーシャさん、訓練室を貸してほしいのですが」


「あぁ、それですか。わかりました。どうぞ」


 そういって、鍵を渡してくれるナーシャさん。


「今は恐らく誰も使っていないと思いますので」


「そうですか。ありがとうございます。それでは、僕らはこれで」


「はい。そうそう、今すぐにとは言いませんが、近日中に問題を解決してくださいね」


「飛竜はここから少し北にいったキヌノー山を住処にしているようです。そこから追い出して、可能なら元の山に帰して上げて下さい」


「わかりました。それでは」


 そういって、僕らはナーシャさんに背を向けて立ち去った。


 しかし、飛竜ねぇ……これはまた、大変だなぁ。と、僕は頭を抱えることとなったのだった。

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