ジェシー・カリエール
祝・日間202位。
勢いで出てきてしまったけど、これからどうしよう。
大体、ユークはカミラに甘すぎるのよ。私だってユークのこと……。
好き、なのに。
私がユークと一番付き合いが長いっていうのに、なんなの。……ダメね、私。こんな自分がたまに嫌になる。
公園で少し頭を冷やして来よう。その後、どうやってお金を稼ぐか考えないと。カミラに言われっぱなしというのも悔しいし。
あれだけの啖呵を切って何の収穫もなしに帰れるはずもない。
近所の公園へと足を運んだ私は、噴水をぼーっと眺めていた。
「ふぅ……」
澄んだ空気を吸い込むと心が穏やかになる。気分も落ち着いてきた。
ばさっと……鳥が飛び立った。
「綺麗ですね」
「えっ……」
そこに、長身の男の人が立っていた。年配の人の模様。
「あ、そうですね。ここの噴水は……」
「いえ、そうじゃなくて。貴方が」
「はい?」
少し照れくさそうにしている男性。なんなのかしら? ナンパ?
「あの……」
「あぁ、すみません。何かお悩みのようでしたので……いらぬおせっかいを」
「はぁ……そうですか」
「私の名前はエドワード。また会えるといいですね、綺麗なお嬢さん」
そういって、男……エドワードは立ち去った。なんだったのかしら、あの男。
そんなことより、どうしようかしら? 手っ取り早くお金を稼ぐ方法……。それは。
◇ ◆ ◇
「さあ、張った張った! 半か! 丁か!」
「半!」
「半!」
「丁ないか! 丁ないか!」
紙幣を握りしめる私。大きく声を上げて。
「丁!」
「丁入りましたー!」
私が来ていたのは賭博場だった。普段、お金にうるさい私がこんなギャンブルをするハメになるなんて。これも全部、カミラのせいよ!
「さあ、丁半出揃いました!」
男が周りを見渡して、ゆっくりとツボを持ち上げる……。結果は。
「四三の半!」
「えっ……!」
「いやー、お嬢ちゃん残念だったねー。でも、次! 次があるよ! さあ、どんどん行こう!」
負けたお金を取り戻そうとして、また賭けて。また負けて。また賭けて。それの繰り返し。気づいた時にはお金がなくなっていた。
「おかしい……おかしいわよ、いくらなんでも!」
「なんだい、嬢ちゃん。イチャモンつける気かい?」
ガラの悪い男たちが集まりだした。睨みをきかしてくる。
「いくらなんでもありえないわ。毎回、私が賭ける方が負けているじゃない。イカサマなんじゃないの?」
「おうおう、嬢ちゃん。何の証拠があってそんなことを言ってんだぁ? あぁん?」
「ふん。そもそも、こんな賭博自体が違法行為なのよ!」
やっておいて、言うのもなんだけど。
「なんだと! このやろう! やっちまえ!」
「へへ、よく見りゃ結構いい女じゃねぇか。ひんむいて、遊んだ後に売り払っちまえ!」
一斉に飛びかかってくる男たち。汚らわしい。ユークとは大違い。
私は跳びかかって来た男たちを拳で一突き。すぐさま、外においてあった剣を取りに行き、応戦。
「てめぇ!」
「はぁっ!」
「ぎゃぁああああああああっ!」
襲い掛かってくる男たちは次々に倒れていく。大したことないわね。こんな連中。
さすがの連中も手も足も出ない現状をみて、怯え出した。
そこに現れたのは、黒服の男。
「やめときな。そこの嬢ちゃんは只者じゃねぇ。マスタークラスとみた」
「……」
「賭けた分の代金はお返ししやす。それで、勘弁してくれませんかねえ?」
「……いいわ」
私はゆっくりと、剣を収めた。
「ウチで用心棒する気はないですかい?」
「ないわね」
「そうですか。そいつは残念ですねぇ。おい、お帰りだ」
私は金を受け取って、賭博場を後にした。
うーん……賭け金が戻ってきたのはいいけど、それ以上に請求すればよかったかしら? でも、そんなことカミラに説明したらまたつけあがるわね……。
ギルドにも足を運んでみたものの、今日は大したクエストも置いていなかった。
とても大金なんて……そうそう稼げるわけないわよねぇ。
大体、そんなことが簡単に出来たら今頃苦労していないもの。
今更ながら、どうしてあんなこと言って飛び出してきちゃったんだろうと後悔していた。
仕方がないから、今回は下手に出て帰ろうかしら……?
でも、このまま帰るのも癪なのよねぇ。
「ん……?」
祭り会場の近くに足を運ぶと、何やら人だかりが。
「何しているのかしら?」
「あぁ、ジェシー。宝くじだよ。一等は100万ガル! あんたもどうだい?」
「宝くじ……ねぇ。これ、結果はいつ出るのかしら?」
「買ったその日に出るよ。そこに貼りだされているだろ?」
「へぇ。じゃあ、一枚貰おうかしら」
「あいよ。200ガルね」
「はい」
私はポーチから200ガルを取り出して店員に渡す。店員は引き出しからぺらぺらの紙切れを私にくれた。
「番号は……23065851」
「あれ……当たって、る?」
「ジェシー! 大当たりだよ!! おめでとう!」
「え? え? ホントに?」
どうやら、私が一等を当てたようで……売り場は大盛り上がりとなってしまった。
これだけあれば、カミラの鼻を明かしてやれるわね。問題があるとすれば……。
「どうやって稼いだことにしよう……」
やっぱり、正直に言うべきかしらね。100万ガルなんて大金、一日で稼げる金額じゃないし。
これからはジェシーが稼いできてくれるから問題ないね! とか言うに決まってるもの……うん、絶対そう。
それかこっそり独り占めするなんていうのは……ダメ。駄目にきまっているでしょ。生活費にあてないと。
「はぁ……」
なんだか、当たったのに嬉しくない。むしろ、虚しい。たまには羽目をはずすぐらいすればいいのに。
やっぱり、私にはギャンブルは向かないわね。
そう思ったジェシーだった。
でも、ちょっとだけ。今日はちょっとだけ高級なデザートでも買って帰ろう。そう心に決めた私。
これぐらいは許してくれるわよね?