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春芽の頃~can't back green days~  作者: 達花雅人
9/12

三章(3):お前らには感謝しているが、とりあえずこいつ(盗聴器)は潰させてもらう

 午後。

 一通り遊び回って、休憩していた。

 中央広場。簡単に食べれる食い物の店が、多く出ていた。

 椅子に一人、座っていた。園村には、アイスを買いに行ってもらっている。

 俺が、行くつもりだった。南雲君は休んでて、と言われた。仕方なく、俺のおごりと言うことで、園村に行ってもらうことにした。

 楽しかった。想像してた以上に、楽しかった。

 やりすぎている、とも思った。

 何か、色々とやりすぎている。

 友達の、距離感。

 あまり、気にしなくなっている。

 それを壊すようなことにも、ほとんど抵抗がない。

 むしろ、自分から壊そうとしていることが、何度かあった。

 ふと気づくと、そうしているのだ。

 園村の手を、俺から握った。園村はびっくりした顔もしないで、笑ってくれた。

 そんなことの一つ一つが、限りなく、嬉しかった。

 だが、冷静に考えると、やっぱり、まずいのだ。

 俺と園村が恋人同士になったら、仁達と遊ぶことも少なくなるだろう。

 それで二人と疎遠になったりするのは、やっぱり嫌だった。

 でも。

「…あいつら、何考えてるんだ?」

 仁と、鳥谷。

 いた。

 クマックと、マックマ。

 あれだけしつこく付きまとわれたら、さすがにわかった。

 気づいたのは、コースターで、鳥谷が飛んでいった辺り。

 入る前から、来るような予感は、なんとなくしていた。元々、仁からもらったチケットなのだ。そこに鳥谷が絡めば、それぐらいのことはするだろうという予想は出来た。

 それでも、遠くから俺達を見て、面白がるぐらいだろうと思っていた。

 だが、何故か二人は、俺と園村をくっつけようとしてくる。

 余計なお世話だとも思ったが、嬉しいという思いも、同時にあった。

 二人は多分、俺達のことを認めて、応援してくれてもいる。

 それでも、あっさりと、それに乗る気にはなれなかった。

 なんかそれだと、二人の思う壺で、悔しいからな。

 ほら、好きなものでも、わざわざ食べろとか言われたら、反抗してみたくなるだろ?

 多分、今の俺の気持ちは、そんな感じだ。

 少し、肌寒くなっていた。アイスは、寒いかもしれない。

 空。少しずつ、茜色に染まっている。

 もう少しすると、夜のパレードが始まるのだろう。通行コースに、人が集まり始めている。

「南雲君、買って来たよ」

「お、サンキュ」

 園村から、アイスを受け取る。スプーンがついていた。すくって、食べてみる。

「ん、美味いな」

 ショコラ。少し、苦味の方が強い。

「園村のは、何だ?」

 何やら、色とりどりの色のアイスだった。

「うんと。トロピカルリゾートって言うの」

 アイスを食べながら、園村が言う。

「? えーと……?」

 や、わからん。

 とりあえず、南国風なのは伝わったが。

「少し、食べてみてもいいか?」

「え? うん、いいよ」

 アイス。スプーンが刺さったままのを、受け取った。

「どれどれ……」

 スプーンで少しすくって、口に運ぶ。

「あっ…!?」

 口の中で、アイスが溶け、味が広がる。

「んー?」

 何か、マンゴーやらレモンやらオレンジやら、その他、色々な果物の味。

 それが喧嘩せずに、一つの味として、うまくまとまっている。

「これはこれで、おいしいな」

「う、うん…」

「?」

 園村にアイスを返す。

 顔が、赤くなっていた。

「どうした、園村?」

「え、ええと。その…」

 口ごもる。

 何だろう?

「か、間接…」

「!?」

 あ。

 気づく。

 俺、園村の使ったスプーンでアイスを::。

「す、すまんっ」

「い、いいよ。き、気にしてないから」

 う。

 なんか、それはそれで、少し凹むな。

 少しだけ、園村をいじめてみたくなった。

「気に、してないのか?」

 悲しそうな声で、言ってみる。

「え、え? ち、違うよ。む、むしろ、嬉しいというか、その…」

 何やら、わたふたと焦っている。

「ぷっ。ははは」

 そんな様子の園村に、思わず吹き出した。

「あ…」

 園村が、何かに気づいたような顔をする。

 真っ赤な顔のまま、戸惑った顔が、少し怒った顔になった。

「も、もうっ! 南雲君、からかったでしょ!」

「あ、バレた?」

 アイスを一息で食べ、駆け出す。

「あ、逃げたっ!!」

 園村も、アイスを持ったまま、追いかけてくる。

「ははは、捕まえてみな!」

 頭をキーンとさせながら、そんなことを言ってみる。

「待てー!」

 園村も、乗ってくれた。

 ベタなやりとりだな、おい。

 自分に、突っ込む。

 それでも、そんなやり取りに、楽しんでいる俺がいた。

 園村も、楽しんでくれているようだった。

 暮れゆく空の下、二人して笑いながら、駆けていた。



 夜に、なった。

 星が、一つ二つ、見えた。

 休憩した後も、二人で、思いっきり遊んだ。

 たまに、仁や鳥谷とも、きぐるみのまま、一緒に遊んだ。

 それでも、友達四人と言うよりは、俺と園村と、仁と鳥谷といった感じだった。

 あまり、違和感は無かった。良い雰囲気な俺と園村を、仁達二人がからかって楽しむ。そんなやりとりも、楽しいと思った。

 どうしたら、いいのか。

 俺は、どうしたいのか。

 まだ、迷っていた。

 園村と、付き合いたい。

 いつの間にか、そちら側に、心が振れている。

 横。手を握ったままの、園村。パレードを、見ていた。カラフルな光が揺れていた。その光の中で、マスコット達が手を振っている。手を振るたびに、近くにいた観客が、歓声を挙げて、手を振り返していた。

「あ、南雲君。こっち、見たよ」

 園村が、手を振り返す。楽しそうだ。

 俺も、園村にならって、振り返した。

 マスコットのマックマとクマックが、俺達の方に顔を向け、めちゃくちゃに手を振ってきた。

 露骨過ぎるな、おい。

「おーい、仁―、鳥谷―!」

 名前で、呼んでみる。二匹の熊が、口に手を当て、しーっというポーズをした。

 絶対、ランド側には、非公認でやってるんだろうな。

 俺達のために、そこまでやってくれているとなると、何か、感慨深いものもある。

 まあ、だからと言って、簡単にお前らの思い通りにはいかないけどな。

 まだ園村と、話したいことは話せていない。

 これから、話すつもりだった。

 決めていた。

 二人きりで、話す場所。

 音が止み、パレードが終わった。マスコット達が、引き上げていく。それと同時に、人混みも散っていく。

「終っちゃったね」

「ああ」

 音と光が消え、空の闇が、強く感じられる。

 二人で、ただ、立っていた。どちらも、動こうとはしない。

 もうすぐ、閉演時間だ。客が、ぞろぞろと出口の方へ歩いていく。

 周りに人がいなくなり、静かになった。

「終っちゃうん、だね…」

 園村が、悲しい顔で、言った。

 そんな顔を、させたくなかった。

 今日一日。

 笑顔で、いて欲しかった。

 だから、その横顔に向けて、言った。

「終わらないさ」

「え?」

「まだ、終わりじゃない。最後、残ってる」

「え、え?」

 戸惑う園村の手を引いて、歩き出した。

 話すために。

 園村の心と、向き合うために。

 俺自身の心を、決めるために。



 誰も、いなかった。

 当たり前だった。閉園ぎりぎり。もう皆、帰るところだろう。

 係員すら、いない。

 係員もいないのか?

 勝手に乗るぞ?

 目の上。大きな円が、ゆっくりと回っている。

 観覧車。

 園村の手を引き、乗った。

 中はちょうど、二人分のスペース。向き合って、座った。

「だ、大丈夫かな、南雲君? 係りの人もいないみたいだけど…?」

「ん。ま、大丈夫だろ。ええと、それより…」

 一度、言葉を切る。

 園村も何となく、わかっているようだった。顔が少し、緊張していた。

 だから、なるべく緊張させないように、少し笑って、言った。

「今日は、ありがとな。楽しかった」

「うん、私も南雲君といっしょで、楽しかったよ」

「良かった。今日はなんか、色々あったからな」

「そ、そうだね」

 園村は笑ったような、恥ずかしがっているような、そんな顔をしていた。

 何を思い出しているのか、少し、気になった。

「しっかし、仁達もよくやるよな」

「ふふ、そうだよね。気づいた時は、驚いちゃった」

「どの辺で、気づいてた?」

「リスの辺り、かな。ぎゃあーって」

「ははは。俺はあの時、もう仁達に気づいてた。だから、腹いせに仕返ししてやったんだ」

「何の、腹いせだったの?」

「え? それは…」

 顔を背ける。

「何だったの?」

 園村がいたづらっぽい瞳で、聞いてくる。

「いいだろ、何でも。とりあえず、鳥谷に仕返ししたかったから、仕返ししたんだ」

「そうなんだ」

 園村が、クスクスと笑った。

 む。

 なんか、悔しいな。

 ニヤリとした顔で、園村が言った。

「アイスのお返し、だよ」

「む…」

 何も、言い返せない。

「でも、楽しかったよ。私もあの時は、美咲に仕返し、したかったから」

「え?」

 それって。

「はは、そっか」

「うん」

 そこで、言葉が途切れる。

 外を、見た。空が、近い。俺達を乗せた観覧車は、もう、頂上を過ぎようとしている。

「綺麗だね…」

「ああ…」

 下。アトラクションの光。いくつもの光が、明滅したり、動いたりしている。

 ガコンと、音がした。フッと、車内の照明が消え、同時に、車内に衝撃が走る。

「!?」

「きゃ!」

 衝撃で、園村が座席から、前に飛び出た。

「!? やばっ!?」

 飛び出す。このままだと、床にどこか、ぶつけかねない。

 向かってきた園村を、受け止める。

「ほっ…」

 床。ぶつかる前。何とか、園村を受け止めた。

「わ、わ…」

「あ…」

 なんだか、抱きしめる格好になっている。

「す、すまん。す、すぐ、離れるからっ」

 慌てて、離れようとする。

 園村の手。俺の服の裾を、きゅっと掴んでいた。

「え、ええとっ。そ、そのまま、で…」

 最後の方。消え入りそうな声だった。

「お、おう…」

 そんなこと言われたら、離せない。

 いや、正直言うと、離したくはないんだが。

「あ…」

「ええと…」

 無言になる。

 なんか、無言だと、変な気分になりそうだ。

「ど、どうしたんだろうな?」

 どもりながら、とりあえず、そんなことを言ってみる。

「な、何が?」

「ほら、なんか、衝撃あっただろ?」

「そ、そうだね」

 窓を見る。外の景色。動いていない。

「止まってる、みたいだな」

 停電だろうか。照明が、消えていた。車内は月明かりで、ようやくお互いが視認出来る程の明るさだ。

「うう…」

 前から、声が聞こえてくる。間違いなく、園村の声だ。

 園村の鼓動、息、熱。そういうものを、間近で感じる。

 いかんいかん。

 とりあえず、煩悩は置いておいて。

「真っ暗だな」

 怖くないか、と聞こうとした。

 多分、こういう時、園村なら、確実に否定するだろう。

 だから敢えて、違う質問をした。

「うん。停電、みたいだね。南雲君は、怪我とかしてない?」

「怪我は、大丈夫だ。ただ、暗くて、少し怖いな」

「え? なんか、意外だね」

「どうして?」

「南雲君は、こういうの、慣れてると思ったから」

「どんなイメージなんだ、俺は?」

「ふふ。私から見たら、良いイメージだよ」

「そうか?」

「うん。そう」

「はは。そいつは、良かった」

 何となく、笑い合う。少し、空気が柔らかくなったような気がした。

 話すなら、今かもしれない。

「あのさ、園村」

「うん。何?」

 半分抱きしめた格好のまま、切り出す。

「今日、園村を誘ったのは、実は、話したいことがあったからなんだ」

「何、かな?」

 緊張した気配を感じ取ったのかもしれない。神妙な声で、園村は聞いてくれた。

「話したいことって言うのは、今の、俺と園村の関係のこと、なんだ」

「うん」

 間近で、園村が頷くのがわかった。

「俺、園村の告白、断っただろ? あの時、俺は、俺と園村と仁と鳥谷。その四人の関係が壊れるのが嫌で、それで、友達でいようって言ったんだ」

「うん。南雲君がそう考えてたの、わかってたよ。私も、その気持ちは、わかるから」

 頷く。間近な分、自然と、お互い、小声で話していた。

「ありがとな。…でもさ、駄目だったんだよ、俺。友達でいようとか、えらそうに言ってても、やっぱり俺、園村のこと、その、女の子としてしか、見れないようになっててさ」

「う、うん…」

「それで、クラスマッチの練習の時とかも、中途半端なことして、園村を傷つけて…」

「あれは、南雲君のせいじゃないよ。私が、悪かったの。その、自分でもどうしてか、止められなくて」

「でも、傷つけたのは事実だから。それに、あの時、いいかなって、思っちまったんだよ。キスしても、いいかなって。最低だろ?」

「ううん、そんなことない。私も、何でキスしてくれなかったのかって、少し、恨むような気持ちになったから。南雲君は、何も悪くないのに。だから、最低なのは、私の方」

 このままだと、謝り合いになりそうだった。

「とりあえず、俺が悪かったってことで、話、続けるな。それで、話を戻すと、今の俺達の状態、どう思ってるのかって、園村に聞きたいんだ」

「私達の、今の関係、だよね…」

「ああ。正直、俺、歯止めが効いてなくてさ。時々、その、園村に対して、友達として、行き過ぎなこととか、してると思うんだ」

「それは、私だって、同じだよ」

「だからさ、はっきり、決めようかなって思うんだ」

「何を?」

「今の、中途半端な、関係。友達でもないような、恋人でもないような、そんな関係。それを、どっちかに、ちゃんと」

「うん…」

 園村の声。少し、震えていた。

「…たとえ、南雲君がどっちを選んでも、私、受け入れるから」

「…ん、ありがとな」

 自惚れかもしれない。

 でも多分、園村は、友達の方を言われるのを恐れている。

 それでも、そう決めたら、俺は、言わなくてはならない。

 自分を、追い込んでいた。

 こうでもしないと、俺はずっと、言わないままでいると思ったからだ。

 それは、卑怯だ。園村と、俺自身に対する、卑怯。

 それだけは絶対、したくなかった。

 まだ、はっきりとした答えは出ていない。

 この期に及んで、まだ、迷っている自分がいた。

「……」

「……」

 長い、沈黙。

 いくら考えても、感情に合う言葉は見つからない。

 いや、まだ、感情が定まっていないのだろう。

 緊張に耐え切れず、ふと、窓から、外を見た。

「え…!?」

 光。

 光が、見えた。

 電灯。

 無数の、電灯。

 中央広場。

 人もいなくなって、がらんとした、広場の中。

 電灯で埋め尽くされ、輝いていた。

 文字。

 電灯で、いくつかの文字が、描かれている。

 ガ。

 ン。

 バ。

 レ。

 光の傍に、マックマとクマックがいた。

「ふっ。はははは…」

「え? どうしたの、南雲君?」

「アレ」

 光の方を、示す。

「あ…!?」

 園村も気づき、驚いた表情を浮かべ…。

「ふ、ふふふ」

 笑った。

「ははは、な?」

「うん、ふふふ」

 二匹の熊。こちらに向けて、手を振っている。

 多分、係員がいなかったのも、停電したのも、アイツらの仕業だろう。

「どんだけお節介なんだ、あの二人は」

「そうだね。でも、なんか、良いよね」

「ああ、最高だ」

 文字。もう一列あった。

 ハ。

 ル。

 キ。

 ○。

 カ。

 ナ。

 二人の名前の間に、何かの記号が入っていた。

 遠くて見えないのか、失敗したのか、丸にしか見えない。

「あの丸、何だろうな?」

「うーん…。ここからだと、ちょっと、わかんないね」

「ああ…」

 言いながら、何故か、わかってしまっていた。

「…馬鹿だろ、アイツら」

「え、南雲君、わかったの?」

「ああ、なんとなく、な」

 アイツらのやりたいことぐらい、だいたいわかってる。アイツらの立場で、俺がしたいことを考えたら、なんとなくわかってしまった。

 くそ。

 悔しい。

 悔しいが、乗ってやるよ。

 お前らの、思惑通りにな。

 俺だって、そうしたくなかったわけじゃないんだ。

 ただ、お前らのこととか考えて、俺は、今の関係を壊したくなかったんだ。

 けど、お前らがそういう気持ちなら、俺はもう、迷うことなんて、何も無い。

 見てろ。

 お前らに、うんざりした顔、浮かべさせてやるからな。

 決めた。

 もう、決めた。

 後悔なんて、何もない。

 息を、吸った。

「園村」

 園村の眼。真っ直ぐに、見つめた。

「は、はいっ」

 声。緊張しているようだった。

 また、息を吸う。怖がらせないように、優しく、言った。

「俺、お前のことが、好きだ」

「え?」

 驚いた、顔。すぐ傍にあった。

 構わず、続けた。

「だから、俺と、付き合ってくれ」

 言えた。

 ずっと、言えなかった、言葉。

 心の中に閉じ込めていた、言葉。

 ようやく、言えた。

「あの、その…」

 園村。戸惑っていた。

 振られるかもしれない。告白してくれたとは言え、一度、俺の方から振っているのだ。今更、都合の良いことを、と思うかもしれない。

 振られても、構わなかった。多分、後で思い切り、凹むだろう。

 それでも、今の俺は、言えたことに満足していた。

「えっと、わ、私も…」

 俯いた顔。その顔が、上がる。

 何かを、決意した眼。

 瞳の奥。強い、光だった。

「私も、南雲君が、好き。どうしようもなく、好き。だから、私と、付き合ってください」

 半分、抱きしめた身体。

 手を後ろに回して、優しく全部、抱き寄せた。

「ははは。…うん。ありがと、な」

「ううん。私の方こそ、…ありがとう」

 園村が、ゆっくりと身体を預けてくる。心地良い重さを、身体で感じていた。

 外。

 夜空に、光が灯った。一瞬遅れて、大きな音が木霊する。

「あ…」

「花火…」

 花。赤や青や黄色。

 無数の花が、夜空に咲いては、消えていく。

「綺麗だね…」

「ああ…。でもちょっと、タイミング、良過ぎないか?」

「う。それは、私も、思ってた…」

「まさかアイツら、近くに、盗聴器とか仕込んでないよな?」

「え、まさか…」

 探してみる。

「あ」

「わ」

 あった。

 ピンマイクみたいな機材。

 これで、間違いないだろう。

「うわ…」

「ひゃ…」

 聞かれてた。

 しかも、仁と鳥谷に。

 いっそのこと、この高さから飛び降りてやろうか?

 なんか、色々と忘れられそうな気がする。

 言っとくが、ギャグじゃないからな。

「この、行き過ぎ野郎共――!!!」

 ピンマイクに向かって、叫ぶ。

 遠くで、二匹の熊が、一度大きく、跳ねた。

 観覧車の窓。開けた。

「ふんっ!」

 花火の咲いた夜空へ、思い切り、放り投げた。

「ふう…」

これでよし、と。

 後でアイツらには、こっぴどい仕返しをしてやる。

 また、園村の傍に座りなおす。相変わらず、中は暗いままだ。

「停電、いつ直しに来るんだろうな」

「そうだね。でも、私はもう少しだけ、このままでいたいな…」

「…俺もだ」

 肩。ゆっくりと、抱き寄せた。

 園村の息、声、熱。そんものが、さっきより、間近で感じられる。

 鼓動。わからなかった。多分、早いだろう。

 園村の手。胸に当てられる。

「どきどき、してるね…」

「そうか…?」

 顔。すぐ傍に、園村の顔があった。

「ね? 南雲君…」

「ん?」

 園村の瞳。その大きな瞳が、閉じられる。

 園村の唇。少しだけ、動いた。

 言葉。

 聞こえなかったが、聞こえた。

 聞かなくても、わかっていた。

 肩に手を置いて、ゆっくりと、顔を近づけていく。

 明滅する鮮やかな光が、園村の顔を照らしていた。

 もう、迷いなんかない。

 眼を、閉じた。

 光の明滅の中、俺達はゆっくりと、互いの唇に、口付けあった。


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