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春芽の頃~can't back green days~  作者: 達花雅人
7/12

三章(1):まくまくランド、開幕

 当日。

 朝。

 今日は、園村と、二人で会う日だ。

 思い返してみると、園村と二人で、どこかに遊びに行った記憶が無い。

 遊ぶ時は、いつも四人だった。

 たまに、仁と二人で、出かけたことはあったが。

 つまり今日は、園村と、初めて二人きりで出かけるわけで。

 あれ?

 これって、よくよく考えてみると。

 デート、だよな?

 いやいや。

 頭に浮かんだ考えを、思い切りかき消す。

 そんなつもりで、誘ったわけじゃない。

 園村とちゃんと話すために、遊びに誘ったのだ。

 それでも。

 ふと、自然に笑っている自分を見つけたりもする。

 いかんいかん。

 このままだと、園村に変に思われてしまう。

 鏡を見た。

 真面目な表情をしてみる。

 よし。

 これなら、大丈夫だ。

 家を出た。駅へと向かう。

 足取りが軽い。弾んでいた。心も身体も、弾んでいる。

 気を抜くと、無意味に走り出しそうだ。

 いやいや、それは駄目だろ。

 それだと、ただの変なヤツか、走れメ●スのどっちかだ。

 残念ながら俺には、全裸で走る趣味は無い。

 駅に、着いた。目的地行きの電車。乗った。

 園村と、目的地の場所で、待ち合わせることになっている。

 車内は、人で溢れていた。休日で、人は多い。

 電車に揺られながら、携帯の時計を見る。

「…待ち合わせには、間に合いそうだな」

 十分前。俺にしては、かなり早く着くことになる。

 それでも、園村の方が、ずっと早く着いているだろう。

 待ち合わせをすれば、四人の中で、一番先に来ているのは、いつも園村だった。

 几帳面で、やわらかな雰囲気を持った女の子。

 美咲のように、ぐいぐい前に出るタイプではない。

 かといって、大人しい子というわけでもない。

 普通に話しかければ話すし、話してて、楽しい。

 それは、相手のことをさりげなく気遣って、言葉とか、話題を選んでくれているからで。

 何度か話してみないと、気づかないほどだ。

 強烈な印象はないが、いないと、かなり気にもなったりもして。

 それだけ、普段、気を遣ってもらってるんだな、と思う。

 告白の後だって、そうだ。

 友達のままでいよう、なんて。

 普通の子なら、怒ったり、無視したりしただろう。

 それでも、園村は、友達として、普通に接してくれた。

 そんな園村を見ていると、やりきれない気持ちになる。

 なんだよ、俺。

 園村に、甘えっぱなしじゃないか。

 このままじゃ、いけない。

 支えてもらってばっかりだ。

 ちゃんと、話そう。

 今日は、そのために会うのだから。

「…園村」

 優しくて、それでいて、かなり頑張り屋で。

 でも、その頑張ってる姿を、あんまり人に見せたくなくて。

 それで、辛いのも我慢して。

 我慢して、人に心配かけたくなくて。

 気遣いの子で、半歩、後ろを歩くような女の子。

 それが、園村という女の子だった。

 そんなところが、全部、可愛かった。

「いや、駄目だ駄目だ」

 友達なのだ。

 そういう眼で、見てはいけない。

 何度目かの、戒めをする。

 電車が、目的地の駅に着いた。降りて、駅を出る。

 駅を出るとすぐ、そこが目的地だった。

 ゲートに、大きな文字で、何か書いてあった。

 まくまくランド。

 マスコットキャラは、熊。

 べ、別に、黄色くて、はちみつ主食の某キャラじゃないぞ?

 いや、なんで俺が、言い訳みたいなこと言ってるんだ。

 まったく。

 パンフレットを、取り出す。仁から、事前に渡されていた。

 なにやら、奇抜な色の熊のマスコットが、でかでかと、表紙を飾っている。

 うん。

 このセンス。

 真似しないでおこう、と思った。

 まくまくランドの中は、動物園やら遊園地やら水族館やら、まあ、その他もろもろ、色々とそれっぽいもの(?)が、所狭しとあるらしい。

 広さは、東京ドーム百個分ほど。

 いまいち、ピンとこない。

 敷地は広大で、移動は、ランド内の電車を使う。

 とても、一日で全て回りきれるものではないらしい。仁の感想だ。

 てかアイツ、ここに来たことあるんだな。

 一人で? いやいや、まさか。

 それは、さすがに何でも、悲しすぎる。

 二人とか? 多分、女の子とだろう。

 それ、噂ですら聞いたことないな。

 意外すぎて、ちょっと想像出来ない。

 やっぱり、アイツは謎だ。

 まあ、仁のことはいい。

 ゲート。入場を待つ人が、列を作って並んでいた。

 人が、多かった。園村の姿を探す。

「あ、南雲君、こっちだよ!」

 園村の声。手を大きく振っている。

 俺も、手を振り返した。列に並んでいるようだ。

 人ごみを、かきわけていく。

「おっす。おはよ、良い天気だな」

「うん。雨とかじゃなくて、良かったよね」

「お、おう」

「? どうかした?」

「あ、いや、大丈夫。何でもないぞ」

 園村の服装。

 上着。春らしく、袖の長い、薄めの生地の、白い服。細部に、細かなデザインが施されていて、品の良さのようなものが窺える。

 ゆったりした感じで、園村のイメージに、よく合っていた。

 この手の服は、ややもすると、だぼっとした印象を与えがちだ。

 それが、全く見られない。

 スタイル、いいんだな、とか。

 不覚にも、そんなことを考えてしまう。

 下。

 淡いピンクの、ロングスカート。

 所々に花があしらわれており、アクセントになっている。

 そこだけ、花が咲いているようだ。

「……」

 思わず、見とれてしまう。

 まあ、そんな感じで。

 なんというか。

 めちゃめちゃ、可愛かった。

 当社比、十倍ぐらい。

 何の当社比かは、よくわからんが。

 言うべきだろうか。

 いや、言うのは変だろう。

 だって俺、彼氏でも何でもないんだぞ。

 でも、言いたい。

 ほら、誰かだって、言ってたじゃないか。

 考えるな、感じろ、って。

 誰が言ってたかは、よく思い出せないが。

 で、結局。

「園村。あ、あのさ…」

「? なに、南雲君?」

「服、その…」

「うん?」

「か、可愛い、な」

 言ってしまっていた。

「え、ええっ!?」

 一気に、園村の顔が赤くなる。何か、わたふたと動いている。

「あ、あのその、そ、そんなに、可愛くないよ。き、今日は、そ、その、ま、迷いすぎて、三時間ぐらい、ふ、服、選んじゃったし…」

「ぶっ! え、そ、そんなに!?」

「や、ち、違うのっ。な、なんとなく、早く起きちゃって。そ、それで、することもなくて、そ、その、つ、つい…」

「そっか。だから、そんなに可愛いんだな」

「ひえっ!?」

 更に赤くなった園村が、ふらふらと、その場にへたりこむ。

「お、おいっ!? 園村!? だ、大丈夫か?」

「え、ええと…。だ、駄目、かも…」

 うあ。

 失敗した。

 こんなことになるなら、言うんじゃなかった。

「ご、ごめんな、園村。変なこと、言っちまって」

「え? い、いや、そ、そんなこと、全然ぜんぜん」

 園村が、小刻みに首を横に振る。まだ、混乱してるみたいだ。

 な、なんか、マズイ。

 二人きり。しかも、学校とかじゃなくて。

 それと、普段とは、印象も、何だか違っていて。

 そういうのを、見たり、感じたりして。

 色々と、こう、何だか、歯止めが効かなそうになる。

「…はぁ」

 こんなことで、ちゃんと俺、園村と話せるんだろうか…。

 そんな思いを抱えたまま、俺達は、ゲートを潜っていった。



 ゲートを潜ると、大きな噴水が見えた。

 中央広場。

 色彩豊かなベンチが多く設置されており、多くの人が楽しそうに話している。

 このランドに入って、すぐにある広場で、マスコットキャラと写真を撮ることが出来るようだ。

 噴き上げる水が、ライトに照らされ、色鮮やかに輝いていた。

「ん?」

 視線。

 横からだ。

 眼だけ、視線に向けた。

「…?」

 園村。

 目線を下に向けて、何か見ていた。

 その先を追ってみる。

「…手?」

 なんか、俺の手、見てるな。

 面白いものであるのか?

「ハーイ、ソコノオフタリサン!」

「うおっ!」

 なんか出た。

 前方。

 奇抜な色の熊が二匹、俺達の前に立ちふさがった。

 一匹が、ピンクを基調として、絵の具をぶちまけたような色。

 もう一匹は、青を基調として、これまたバケツをひっくりかえしたような色をしている。

 確か、まくまくランドのマスコットキャラの、マックマと、クマック。

 …それにしても、名前、そのまんま過ぎだな。

「なんか、用か?」

 俺の問いかけに、ピンクを基調とした(以下略)マックマが早口でまくしたてる。

「ヨウモヨウ、オオヨウデース! アナタタチ、ミルトコロ、カップルトミマシタ!! ドウデスカ、シャシンデモ、イチマイ!」

 なんで、そんなカタコトなんだ。

 っていうか、マスコットキャラがしゃべったら駄目だろ。

「か、カップルって…!?」

 園村が反応する。

 ま、俺も、その言葉には反応したんだが。

 その前に、突っ込みどころが多すぎてスルーしていた。

 出来れば、そのままスルーしたかったが。

 マックマが続ける。

「ソウデース! ダカラ、ワタシタチト、シャシンデモ、トリマショウ」

「…なんで、そういう流れになる?」

「ウダウダイウオトコハ、キラワレマース」

「別に、熊に好かれたくはないけどな。…どうする? 園村?」

 横で混乱気味な園村に話しかける。

「え? あ、いいんじゃないかな? 面白そうだし」

 あ、あれ?

 いいのか?

 確かに、撮らない理由も無いが。

 園村が撮りたいなら、いいか。

「そ、そうだな。じゃ、撮るか」

「う、うん」

「ササ、コチラデース」

 そう言って、マックマに、噴水の前まで連れて行かれる。

 噴水を背景に撮るようだ。

 噴水の前。

 俺と園村。その間に、マックマが入った。

 クマックはいつの間にか、俺達の正面でカメラを構えている。

「オフタリサン、ハナレスギデス。コノママダト、シャシンニオサマリキレマセーン。ササ、モットチカヅイテ」

「こ、こうか?」

 少し、園村の方に近づく。

 今でも、十分近い。

 おいおい。

 さすがになんでも、近づけすぎだろ?

「マダマダデース。ササ、モット、チカヅイテ!」

 マックマが、俺と園村の肩を掴む。

 三人で、肩を組むような姿勢になった。

 その姿勢から、突然マックマが、俺と園村をくっつける。

「!?」

 肩と肩が、触れ合っていた。

 顔を、園村から背ける。

「ハイハイ。オフタリサン、シャシンノホウニ、カオヲムケテ。ハーイ、ニッコリ」

 こんな状態で、まともに見れるか。

「アレ、ドウシタノ、オフタリサン? シカタナイネ、ソレナラ、エイッ!」

 肩に置いた、手。

 そのふわふわした手が、俺の頭を掴む。

 そして、その手が突然、俺の頭を、くるっと無理やり回した。

「!?」

 顔。

 園村の顔。

 すぐ、傍にあった。

 何故か、見詰め合うような格好になっている。

 驚きで揺れる、瞳。

 整った、鼻。

 小さな、唇。

 真っ赤な、顔。

 思わず、じっと見入ってしまう。

 園村も、眼を逸らさない。

 カシャッと、音が聞こえた。

「ハーイ、オーケー。オツカレサマデース」

 頭の束縛が、解かれる。

 それでも、何故か、眼を逸らせない。

 不意に、肩を叩かれる。

「オフタリサン、ミツメアウノハケッコウデスケド、シャシンハ、トリオワリマシタ。イツマデ、ソウシテイルツモリデスカ?」

「え? うおっ!?」

 全速力で、顔を逸らす。

「ホラ、カノジョサンモ」

「え? あ、あ…」

 園村も何やら、ぼーっとしている。

「ナカガヨロシクテ、ケッコウデス」

 余計なお世話だ。

 クマックが、何か手に持って、俺達の方へ近づいてくる。

「オウ、モウ、シャシンガデキタヨウデース。ハイ、コレ、オフタリサンニイチマイズツ、サシアゲマース」

 写真。一枚、渡される。

「うわ…」

 真ん中。驚いた表情で、園村と、二人して、見詰め合っている。

 よし。

 この写真は、金庫にでも入れよう。

 仁達にでも見つかったら、ずっと笑いのネタにされるからな。

 考えただけでも、寒気がする。

「オウ、ワスレテイマシタ。ナカノヨイオフタリサンニ、コレモ、サシアゲマース」

 そう言うと、マックマは、お腹のポケットから、ごそごそと、何か取り出す。

 アレ、いいんだろうか?

 ま、まあ、あっちは一応、ネコだしな。

 深く突っ込まないことにしよう。

「これは?」

 何かの本。見たところ、かなり、手作り感溢れている。

「コノランドノ、イチオシアトラクションノカズカズヲ、ワタシタチガ、ガイドシタモノデース。ゼヒ、イッテミテクダサーイ」

 パラパラと見てみる。何やら、絵とかガイドが、色々と載っていた。

「ありがとな。回ってみるよ」

「ハイ、ドーゾドーゾ。…ふふ、作戦通りね」

「え?」

今、なんか、聞いたことのある声がしたような。

「イエイエ、ナンデモアリマセーン! デワデワー!」

そう言うと、マックマとクマックは、物凄いスピードで人影へと消えていった。

「何だったんだ…?」

 まあ、ともあれ。

 今日行く場所は、この中から決めればいいわけだよな。

 さっき、入り口でパンフレットとかもらったんだが、簡単な紹介しかなくて、全然、内容とかわからなかったんだよな。

 この本があれば、かなり助かるだろう。

「それじゃ、園村、歩きながら、これ見て、どこ行くか決めようぜ」

「う、うん。わかった」

 園村はまだ少し、呆然としているようだった。

 仕方ないよな。

 俺もまだ、かなりどきどきしている。

 少し冷静になろう、と思った。

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