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ロロとトト  作者: 麻婆
4/10

西瓜カタルシス1


 じり、と焼ける音が聞こえた。

 日光が肌を焼く音だ。ゆっくりと、じりじりと、肌が焼けていく音に耳を傾けているロロ。


「聞こえるわけないじゃない、そんな音」


 スイカを食べながら、ロロの奇行を退屈そうに見ていたトト。ついに耐えきれなくなった彼女は、ロロの頭を小突いた。


「いてっ。まあ、そうなんだけど……そうじゃないんだよ」

「なに言ってるのかわからん」

「ぼくもだよ」


 ロロは考えることを止め、小さく微笑みながら、スイカへ手を伸ばした。


「スイカはイダイだよね」


 と、トトは口から種を飛ばして呟いた。ころん、と金属性のボウルが鳴る。


「食べておいしい、遊んでたのしい」

「なにを言ってるのかわからないよ。スイカで遊ぶってどういうことなのさ。食べ物で遊ぶなって、父さんに怒られるよ」


 不思議そうなロロと、お構いなしのトト。相変わらずじりじりと音を立てる肌と、セミの鳴き声。時折吹く熱風と、高く揺れる緑葉。

 夏である。


「種で遊ぶのよ」

「あぁ、どれだけ飛ばせるか勝負するやつか。テレビで見たよ」



 ◇



「うおっ……」


 越後屋紅(えちごや べに)は、追試の下校途中で異様なものに出会った。思わず低い悲鳴を上げてしまった自分に、少し照れくさくなる。


「なに? なに見てるのよ」

「なっ……! いや、すまん」


 金属性のボウルいっぱいに溜め込んだスイカの種。その中に手を突っ込んで笑っている少女。その光景はあまりに奇怪で、言い返そうとした越後屋の気勢を削ぐのに十分だった。


「じゃ、じゃあな」


 越後屋は好奇心を振り切り、係わるまいと足早に立ち去る。防衛本能、と言っていい。


「あれ? ちょっと待って!」


 しかし、好奇心は少女のほうにもあったらしく、どぎつい視線で越後屋を呼び止めた。


「な、なんだ」


 スイカの種がびっしりと付着した指をさされ、越後屋は怯む。彼女の膝小僧に、二粒付着したからだ。


「えちごやべに、とは貴女ね」

「なんだ……、なんで知ってる?」


 肩にかけた鞄。それに自分の名前が書いてあることを越後屋は知っていたので、存在の認知に対する疑問だった。


「たまに、博士が貴女のことを楽しそうに話すから」

「うわ、なんだそれ。博士って誰だよ、こえーな」

「みかんをもったいない食べ方する人」

「あぁ……、あいつか」


 越後屋はくすくすと笑いをこぼす。博士という呼び名に、笑いを堪えることが難しかったのだ。あまりにもしっくりときたので、次から自分もそう呼ぼうと決めた。


「じゃあ、お前がトトか?」


 越後屋の問いに、トトはびしっと親指を立てて頷く。ぺろっと舌も出している。


「ニックネームだけどね」

「そうか。でさ、楽しそうでなによりだけど、種こっちに飛ばすなよ」


 じゃっじゃっ、とトトはボウルに手刀を突き入れる。かと思えば、種だらけの両手をぶんぶん振り回してもみる。越後屋の非難などお構いなしだ。


「うわっ、やめろって」

「やる?」

「やらねえよ!」

「なによ、変なみかんの食べ方はやったくせに」

「う、うるせーよ! くそ、あの眼鏡」


 博士と同級生である越後屋は、ロロとトトの話を、彼からよく聞いていた。面白い姉弟に懐かれてしまったと、楽しげに話すのだ。


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