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ロロとトト  作者: 麻婆
3/10

夕焼けの姉弟3

 それから数日が経ち、公園で遊んでいたロロとトトは、通りかかった博士を見つけた。


「あ、博士!」


 走り寄ってくる二人を見ると、博士は目を細めてふんにゃりと笑う。


「元気だね、二人とも」


 トトは砂で汚れた手をかざし、博士の制服に触ろうとして彼を追い回した。ぜぇぜぇと必死に逃げ回る博士は、とても体力がない。あるいは、トトがしつこすぎるのか。


「まったく……」


 諦めた博士はどすんと地面に座り、息もたえだえにトトへ非難の視線を送った。どうして、という問いは、彼らに対しては無効だと、博士は知っていた。子供にとっては、なによりも自分の興味が優先されるのだ。二人の遊びに付き合わせれてから、それを痛感した博士だが、どうやら言わずにはいられなかったようだ。


「どうしたっていうんだよ、急に……」


 そして、やはりと言うべきか、ただ笑い転げるトトを見てしまっては、博士は呆れた笑いを乾かすほかなかった。仰ぎ見た空は夕日に染まり、博士の眼鏡は何色を反射したのだろうか。


「京紫」


 ずっと走り回る二人を眺めていたロロが、いつのまにか博士の隣に座っていた。


「きょうむらさき? なにそれ?」

「赤紫の一部を、そうやって呼ぶこともあるんだって」


 へぇ、と博士もロロの父親同様、興味深そうに空を見つめた。大人しくなったトトも、やがてロロの隣で空を見上げている。人の気配は公園の外にあるだけ。風は上空に吹いているだけ。ゆっくりと移ろう雲が、山の稜線に隠れようとする太陽に照らされ、波打つ水面のように、見事な色を湛えていた。


「わたしには、やっぱりオレンジ色にみえる。夕焼けはオレンジだよ」

「今日の夕焼けも、ぼくには京紫にみえる」


 トトとロロは言い合い、一瞬組み合わせた視線を、二人同時に博士へと転じた。


「そうだなあ、詳しいことはよく分かんないけどさ。二人が見ている夕焼けは、たぶん実際に違うんだよ」


 博士は空を見つめたまま、少し泥の付いた眼鏡を押し上げて話し始めた。


「ここから見て、夕日に近い場所とか、雲の日が当たっている所は、オレンジ色とか赤色にみえる。逆に、夕日から遠い場所とか、雲の陰の部分なんかは、紫色に見える」


 たしかにそうね、とか。やっぱり博士だ、とか。小さな二人は感心している。


「見たままを言っているだけなんだけどね……」


 少し照れくさそうにしてから、博士は続けた。


「この景色をオレンジ色だと思うトト、赤紫色だと思うロロ、それは二人の感性の違いなんじゃないかな」


 言い終え、博士は制服の汚れを払って立ち上がった。そろそろ帰るよ、と、ふんにゃり笑う。


「かんせーってなに?」


 ロロは長いまつ毛を瞬かせ、大きな瞳を博士へと向けた。つられるようにして、トトも博士を見つめている。吸い込まれそうな目が、とてもよく似た姉弟である。


「そうだなあ、調べてみるといいよ」

「あー! メンドくさがった!」


 トトの糾弾が始まり、博士はカバンを引っ掴むと、脱兎の如く逃げ出した。


「博士、速く走れるんだね……」


 ロロは感心したように呟き、ポケットから取り出したメモ帳に、“かんせー”と書いた。遠くの方で、トトが大きく手を振っている。早く来いと言っているのだ。


「もう帰ろうよ、トト」


 小さな足が届く範囲は限られる。反して、興味はどこまでも飛んでいく。世界はまだまだ不思議でいっぱいだ。ロロとトトの未知への冒険は、たぶん、まだ少しだけ続く。


2017/10/06 段組を修正。誤字脱字の修正。

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