夕焼けの姉弟2
「お父さん、今日、ロロがまた変なこと言い出したよ」
父と母、息子と娘。四人が囲んだ木製のテーブルは、綺麗に食べてもらえた皿たちが、さっきまで満足そうに並んでいた。今は、母親とロロが、一緒にそれをキッチンへと運んでいる最中だ。トトはというと、父親に青っぽい夕日について説明している。
「困ったな、紫は違うのか」
父親は後頭部に手をあて、苦笑いを浮かべた。精悍な顔つきの父親だが、その気性は穏やかで、苦笑いした目じりに優しさがにじむ。
「ほら、お父さん、困ったじゃない」
トトがロロへ少し可笑しそうに非難の言葉を投げると、父親は嬉しそうに、愛おしそうに微笑み、トトの頭を撫で付ける。
「父さんが困るような質問をするのは、トトだって得意じゃないか」
そんなに子供っぽくないよ、と言わんばかりに手を跳ね除けるトト。しかし、そのムスッと膨らんだ表情は、背伸びした子供そのもので、ますます父親の目じりは優しくなる。
「ご、ごめんよ、トト。……で、いつのまに母さんはそこに座ってたの?」
トトの横で、よく似た笑顔をにこにこと携えて、母親が自分の頭を差し出している。いよいよ面白がった子供たちも加わり、父親の前に三つの頭が並んだ。なでて、なでて、のシュプレヒコール。父親は降参の両手をあげたのだった。
「こ、困った人たちだな……」
はいはいはい、と父親は三人の頭を順番に撫でたあと、ネットに繋がっているタブレット端末を起動する。それで紫色を確認してみようというつもりだ。
「検索してみようか」
「紫よりも青っぽいなら、青紫なんじゃないの?」
そうそうに答えを見つけたわ、という得意げな表情で母親が言い、それだよ、とトトも同意する。青紫をネットで検索し、表示して見せたタブレットを、われそうなほど純粋な瞳で覗き込むロロ。しかし――、
「……あれ? なんか違う。もっともっと赤っぽい」
「えー、青っぽいんじゃないのか」
父親の苦笑につられ、トトも思わず同じ顔をする。
「どっちなのよ」
「紫より青っぽいんじゃなくて、オレンジより青っぽい。それで、紫より赤っぽい……ん?」
合ってるかな、とロロは自分で言ってみてちょっと混乱した様子だった。それが可笑しかったのかトトは大きく吹き出し、お腹を抱えて笑い出した。
「じゃあ、赤紫かもな」
父親も笑いを堪え切れない様子だったが、どうにかタブレットを操作している。
「ひどいよ。ぼくは、かなり真剣に知りたいんだよ」
ロロはふて腐れつつも、父親の膝上に座り、真剣に画面を見ている。一方のトトは、母親にたしなめられつつ、一緒にキッチンへ向かった。洗い物をするのだろう。
「赤紫といっても、色々あるんだな。そりゃそうだよなあ」
スクロールするたびに現れる沢山の赤紫に、父親は感嘆の言葉をもらした。ロロは眼差しを真っ直ぐ、どれひとつも見逃すまいと、画面に食い入っている。やがて――、
「これ!」
ロロは父親がビックリするほどの動きで、嬉しそうな声を上げて指を画面に当てた。ぴたりと停止した色とりどりの中で、ロロが指し示した赤紫は、“京紫”と呼ばれているものだった。
「これだよ、父さん!」
へぇ、と父親も興味深そうに、その色について調べ始める。そして、二人の興味は止まりどころを失い、呆れた母親と娘に怒られるに至り、ようやく落ち着いたのだった。
2017/10/06 段組を修正。誤字脱字の修正。