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ロロとトト  作者: 麻婆
1/10

夕焼けの姉弟1


 遠く映える夕日が、春めく山の稜線に接触した。


「すごい。青っぽい」


 ロロはグローブジャングルの頂上で、色を変えた空と、ハイライトを帯びた雲の腹を見つめていた。


「青っぽい……? 今日は晴れてるし、ずっと青かったよ」


 トトはグローブジャングルをゆっくりと回す。ロロの瞳を通過した夕焼けの光彩は、その輝きを増して、見上げるトトの顔を染める。

 公園には二人しかいない。人の気配は、すべて公園より外にあった。

 ゆっくりと回転するロロの視界は、見れば見るほど青っぽかった。雲も、木々も、電柱も、ビルも、飛ぶ鳥さえ、みんな遠く青っぽかった。


「違うよ、トト。そうじゃなくて、夕日のせいだよ。青っぽい夕日なんて、僕は知らなかった」

「夕日ならオレンジ色だよ。ロロの顔もオレンジ色」


 興奮した面持ちで空と町を眺めていたロロ。トトに言われて、はたと自分の顔を撫でてみるが、そんなことで、自分の顔が見えるはずもなく、ロロは残念そうにうな垂れたてしまった。砂場に作った拙いお城も、同調するように風で少し崩れた。


「そろそろ帰ろう。お腹空いてきたし!」


 トトは足にますます力をこめる。グローブジャングルは、ますますロロの視界を引き伸ばした。新鮮な色で飾られた世界は、ぜんぶ、ぜんぶ、素麺みたいに細くて長い、なんだかわからないものに変わる。


「あぶない、あぶないよ。降りるから止めて」


 ようやく回転がゆるくなり、ロロは軽いめまいの中、グローブジャングルからおりた。もうトトは公園の出口へ向かっている。はやくはやく、と手を振っている彼女の腕にある飾りも、彼女の満面の笑顔も、やはりロロには青っぽく見えた。


「あ、博士だ! ばいばーい!」


 ロロが出口に向かっていると、公園の横を通学路としている高校生が、二人へ小さく手を振ってくれた。

 その高校生は博士と呼ばれている。とくべつ物知りという訳ではないのだが、冴えない寝癖頭と黒縁眼鏡、色白というよりは青白い肌、全体的に線が細く、“なんだか博士っぽい”という理由で、ロロがそう呼び始めたのだ。


「博士! 空、青っぽいよね?」


 ロロは空を指差し、家路を辿る博士に向かって、珍しく大きな声を出した。

 立ち止まり、ぼんやりと辺りを見回した博士は、ふんにゃりとした笑顔を浮かべ、そうだね、と頷く。


「たしかに青っぽい。でも、青っぽい以外の名前もあるよ。調べてみなよ、ロロ」


 そう言い残して、博士は猫背を携えて歩き去った。


「ね?」


 博士に同意を貰い、嬉しさのあまりこぼれたロロの笑顔は、やはりトトにはオレンジ色に染まって見えた。


「なによ、すごい得意げな顔して……」

「だって、博士も青っぽいって言った」


 トトは小さく溜息を吐き、

「ロロと博士は変なのよ」

 と、可笑しそうだった。


「ロロは、たぶん紫色って言いたいんでしょ? それなら、なんとなく分かる」

 トトの言う紫を、ロロは頭の中で咀嚼した。そして、首をふる。

 もちろんロロも紫色くらい知っている。でも、今日の夕日は、そんな単純なものじゃない。もっと新しい、今まで知らなかった色なんだと、ロロは確信していた。だから、紫とは言わずに、青っぽいと言ったのだった。


「きっと新しい紫があるんだよ、帰ったら父さんに聞いてみよう」

「それ、お父さんに答えられるかな」


 ロロは可笑しくなった。彼らの父親はもちろん大人だ。大人は子供よりも知識を持っている。それがロロの認識だ。それなのに、まだ小学生のトトが、大人である父親の知識に不安を覚えている。それが、なんだか彼にはとても面白いものに感じたのだ。


「ひどいよ、トト。父さんがかわいそうだ」

「だって、いつもテレビのクイズで間違うじゃない?」

「うん、間違うね」

 二人の笑い声が、家路に長い影をおとす。その笑顔は、二人それぞれの夕日で染まっていた。


2017/10/06 段組を修正。

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