魔法練習
それからは、当然ではあるがデートどころではなくなってしまった。
まず怪我をした二人を治療所……地球で言う病院に運んで、その犯人である男二人の死体を街のはずれに埋めて、生きてはいるが背骨が折れて痛みからまともに会話もできない男を尋問、その結果南に二十キロ程の位置にある中国家の一つによる嫌がらせと判明した、ついでに犯人の三人組は犯罪で投獄されていた者たちで魔王様の元で騒ぎを起こし無地生還できたら釈放という話があったそうな。
「それで?」
私の言葉に魔王様が首をかしげる。
「それでとは?」
「報復とかそういうことはやらなくていいので?」
その言葉に魔王様は眉間にしわを寄せ腕を組み唸りながら答えてくれた。
「やってもいいんだけどあの国ご飯が美味しくてさ……潰しちゃうのはもったいないんだよね。
でも身内に被害が出てるから動かないわけにも……いい手段があった」
そう言うと魔王さまは私の方をがっちりと掴んだ。嫌な予感しかしないというか絶対なにか荒らされるなこれ。
「ちょっと魔法の練習をしようか」
とてもいい笑顔の魔王さまが恐ろしい、そう思ったのはあとにも先にも……あとには何回かあった。
そんなこんなで城下街から南に一キロほど進んで草原に来た。
後ろには魔王様の国の城下町、南の方は草原のみ、にしも東もひたすら草原。
「このくらいなら……まぁ意味ないか」
なにか不穏な言葉が聞こえたのは気のせいでしょう、きっと、たぶん、めいびー。
「じゃあまず魔法の使い方から」
中略します、一時間ほど魔法理論を教わりました。
ぶっちゃけて言うと、魔法とはガソリンである。
このガソリンは火を灯すこと、土を動かすこと、風をそよがせること、水を流すことの四種類いずれかを起こすのに必要なエネルギーである。
このエネルギーの運用はそれぞれがまったく違う感覚なので、よほどの修行を積まないと複数扱うことはできない。
でも頑張れば、もしくは才能があれば複数使うこともできる。
呪文は初心者が感覚をつかむためのものなのであまり必要ないが、【呪文がなければ使えない】という感覚が魔法を覚える段階で身についてしまうため無詠唱は困難。
魔力量云々は個人差があるが、量が多いからいっぱい魔法が使えるわけではない。
例えば魔王様の場合は量こそ私より少ないが、魔力から魔法への変換効率が良いらしく低燃費だとか。
私はまだ使っていないのでその辺の燃費は不明だけど。
最後に魔力が暴走した場合を注意として聞かされた。
魔力が暴走した場合、死にます。
十中八九死にます。
運が良く生き残っても二度と立って歩くことも、話すことも見ることも聞くことも嗅ぐこともできない体になるとのことです。
ついでにそうなった場合、暴走した魔力で近隣が吹き飛んでいるため……つまり周囲の人も巻き込んで、みんな死んでいるため誰も助けてくれないので結果死にます。
「よーし分かったらやってみよう」
「そんなんで出来たら人間苦労しません」
「いけるいける、体の中のもあもあした物をバーって出して、それに火を点ける感じだから」
全くわかりません、優秀な選手が優秀なコーチになれるわけではない、まさにそとおりですね魔王様。
でもやってみる、まず体の中にある力を……力を……力ってどれ?
自分の中の力とか言われましても……ん?なんか心臓のあたりにモヤモヤとした感覚があるような無いような……ちょっと動かしてみることに、動いた、右手に集めてみた、手を草原の方に向けて放出、できましたようん。
それでこれに火をとも……す?
「魔力の込めすぎだね」
目の前に現れたのは直径二十メートルはあるだろう火の玉、厚さは感じないけど草原が焦土に……ついでに火の玉が触れた地面は溶けて消えました。
「まだ火を灯すってだけでよかった。このまま飛んでけなんて考えたら……」
考えません、おそらく魔王様は練習にかこつけて私の魔法を問題の国にぶっぱなす事が目的だったのでしょう。
魔法の飛距離と威力は込められた魔力に比例するそうなんで、感覚だけで言うとこの火の玉には私の魔力の七割くらいが込められてます、初めてのことでどれくらい出るのか分からずやったらモヤモヤがそのくらい減った感じがします。
ひとまずこのサイズはまずいので……とはいえ戻し方も知らないので圧縮をイメージ。
見事野球ボールくらいになってくれました。
そして、ふとこれの形を変えられないか……と思った瞬間、そのボールはぐにゃぐにゃと形を変えました。
どうやら好きな形に出来るみたいで……てな訳で想像したのは矢。
そうするとあっという間に一本の真っ白な矢ができました。
その矢をそのまま南に向けて放つ、さてどこまで届くことやら。
「……もうここまで魔法が使えるってのはすごいね」
魔王様が半ば呆れながら私に視線を向けました。そんなに褒められると照れちゃうわうふふ。
「こんなこともできますよ」
そう言って残った三割のうち二割を使って7つの魔法の玉を私の周りに浮かべる。
ただの魔力の球、熱を持たない光の玉、雷の玉、火の玉、水の玉、土の玉、風を圧縮した玉の七つ。
なんとなく出来そうだったのでやってみたら出来ちゃったという……神様くれた力が強すぎます。
「新しい魔法まで使いながら七種同時とか……規格外も化物も通り越して神様的ね」
魔王様の視線にはどんどん呆れが含まれていきます、くやしいでもかんじちゃうびくんびくん。
そんな冗談は置いといて、それらの玉七つを全て南に投げる。
どこまで届くかな。
「なんで南に?」
魔王様にそう聞かれる、この人絶対そうさせる気だっただろうに。
「あんなガラの悪い男三匹に巡り合わせてくれたしかえ……お礼です」
「お礼……ね。まぁそこまで魔法が使いこなせるなら暴走もないでしょうけどむやみにつかっちゃダメよ」
魔王様がなんかお母さんっぽい。
そう思いながら二人並んで帰路につきました。
なお数日後「サキ……この前あなたが撃ったであろう魔法が北から帰ってきてまた南にす飛んでいったけど……」という魔王さまからの報告を聞いて神様をぶちのめすことを心に誓いました。