国内事件~人間編~
悲鳴の発生地点であろう場所に私と魔王様が駆けつけた時、そこは酷い有様だった。
現場は先ほどの八百屋さん、そこでは尻尾のある男性が腹部と足から血を流し、左腕は肘から先が消失している、生きているのが不思議に思える怪我だった。
また店番をしていた羽のある女性に関しては、その羽をもがれ顔はアザだらけで見る影もなく腫れている、また両手足はあらぬ方向に曲がっていた。
そして、この惨状を引き起こした犯人もそこにいた。
予想通りというかテンプレ通りというか、それはまごう事なき人間だった。
三人組のそれはそれぞれが筋肉質で服の上からもそれが見て取れる。
またそれぞれ巨大な剣を携えていることから犯人で間違いないだろう。
「おや?人間っぽい魔族もいるんじゃねぇか」
男のひとりが私たちを一瞥して下品な笑みを浮かべた。
それに応じるかのようにほかのふたりも私たちの体を、まるで品定めでもするかのように眺めていた。
「こいつは楽しめそうだ」
先ほどの男とは別の男が口を開き、私の肩を掴んだ。
その瞬間、男の体がブレた。
殴ろうか、股間を蹴りあげようか迷っていたので何が起こったのか一瞬わからなかったが魔王様が蹴ったということにすぐ気付いた。
「私の嫁に触れるな下郎」
魔王様がかすかに聞き取れる声でつぶやいた、それと同時にあたりの温度が下がったような気がした。
しかしそのことに気づかないのか残った男二人は魔王様に斬りかかった。
「私の家族をこんな目に合わせた償いはしてもらうぞ……その命でな」
そう言うやいなや魔王様が斬りかかってきた男の脇腹を蹴りぬく。
今度は先ほどの男のように吹き飛ぶことはなかった。
代わりに男の胴体は上下で分断された。つまりただの蹴りで大の、それも筋肉質な巨漢が切断されてしまった。
「このアマああああああああああああああ!!」
ここまで来て実力の差が見えないのか最後の男は上段から振り下ろす形で魔王様に斬りかかった。
だがその剣先が魔王様に届くことなく、この男も魔王様の蹴りで、今度は左右に分断されてしまった。
「大丈夫?」
ことが終わった魔王様は足についた血を拭いもせずけが人のもとに駆け寄り、ポケットから赤い液体の入った瓶を取り出し、二人の傷口にふりかけた。
「ぐっ」「がっ」と男女が呻くが二人の傷が徐々に良くなっていくのを見て何かの薬名乗ろうと理解し、近くに転がっていた男性の腕を魔王様に差し出した。
この時、自分が他人の切り落とされた腕を躊躇なく持てるとは……と自分の変化に驚き、こっちに来てから驚くことの連続だ……自分のことで、とのんきなことを考えていたのは誰にも言えない。絶対に。
「ありがとう」
魔王様はお礼を言いながらその腕の切り口、を傷口に押し当てていた。
女性の方を見ると近くにいた女性が同じように背中に羽を押し当てている。
それから数分、魔王様がそろそろかな?とつぶやいて手を離すと、男性の腕も、女性の羽も、まだ動かせないようではあるがしっかりくっついていた。