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七夕一人企画

星に願いを・2008

作者: 檀敬

 『空想科学祭FINAL』に合わせて、【七夕一人企画】の過去作品を一挙に公開!

 こちらの作品は『星に願いを・2008』で、二〇〇八年七月七日に公開したものです。

 星の海をさすらう宇宙船の船外観測ブースで、美世子は、両手を胸の前で組み、目を閉じて、祈りを込めていた。

 美世子は、厨房班の栄養リーダーで、その容姿から「艦のアイドル」と呼ばれていた。

 定時観測で観測ブースにやってきた真二は、ブースの隔壁ドアが開いているに気付いた。

「誰かいるのか?」

 そう声を掛けた真二に、美世子は驚いた。

 真二は女好きで、艦内では有名だった。しかも強引な性格で、男の中でも好まれていなかった。

 美世子は、慌てて祈りの姿勢から居住まいを直した。

「すみません」

 その声を聞いた真二は、すぐに美世子と判った。

「なんだ、美世子か。何してるんだ?」

 美世子は、取り繕うように言った。

「今日は七夕だから、ベガとデネブにお祈り、してたの」

 真二は怪訝そうな顔をして言った。

「ふ~ん」

 赤くなって恥ずかしそうにしている美世子を無視して、真二は興味なさそうに、ブースの装置を操作し始めた。

「あ、邪魔そうだから、もう行くわ」

 真二は、美世子の腕を取って言った。

「行かなくていいよ。俺達もベガとデネブになろうぜ」

 そう言って、真二は美世子に迫ってきた。

 真二が美世子を抱きしめようとした時、美世子は大きな声で叫んだ。

「キャー!」

 その声にたじろいだ真二を、美世子は両手で突き飛ばした。

 美世子は、その勢いで隔壁ドアを思いきり押し開け、通路を走り抜けて行った。

 真二は、計器にしこたま頭を打ち付けて、その場で気絶してしまった。

 美世子が思いきり開けた反動で、隔壁ドアはカチリと閉まった。そして、隔壁ドアの横の『LOOK』のランプが点いた。隔壁ドアのロックピンが動作し、ガコーンという音と共にドアが真空蒸着された。

 隔壁ドアは、警報及び緊急時以外は自動でロック状態にすることは出来ない。それは、艦内安全セキュリティ上の仕組みである。

 しかし、人為的操作がない限り閉まらない隔壁ドアがロックされてしまった。


 その時だった。

 全艦にアラートが鳴り響いた。

「緊急警報! 緊急警報!」

 艦長が館内放送に出た。

「レーダー班より報告があった。一パーセク先に、高速移動しているデブリを発見。砂粒程度のものだが、相対速度が速い。数十秒で到達する模様だ。艦内乗組員は、直ちに非常時警戒せよ」

 これはスペーススーツ着用を意味した。乗組員は速やかにヘルメット着用し、所定の退避場所に身体を固定した。

 たった一人を除いて。


 ドドーン!


「災害発生! デブリ被弾発生!」

「左舷側観測ブースに被弾、壊滅状態だ」

「隔壁がなぜかロックされていて艦内被害は皆無の模様」

 艦長は一安心した。

「他に被害はないのかね?」

 人事班長が報告した。

「左舷観測の当直勤務である真二が行方不明です」

「生命反応、位置システム、共に反応ありません」

 船長はスタッフに聞き返した。

「どういうことなんだ? 警報を聞いていなかったのか?」

 艦長は責任の所在を探り始めた。

 セキュリティ班長が報告をした。

「警報以前に隔壁ドアが閉まったようです」

「警告以前だと、自動では閉鎖しないはずですが…」

「しかし、ログによると自動閉鎖を示しています」

 艦長は首を傾げた。

「隔壁ドアが事前に、それも自動で閉まるとは…」

 艦長は居直った。

「報告書の書き方が難しいぞ」

 艦長は頭を抱えた。


 美世子の願いは叶った。

 ストーカーの真二から逃れること、それが美世子の願いだった。

 今年のベガとデネブは雨で出会えなかったと、地球からの定時報告が告げていた。

 最後までお読みいただき、ありがとうございます。

 よろしければ、感想などをお寄せいただけたなら幸いです。


 初出:ライブドアブログ『憂鬱』「星に願いを」二〇〇八年七月七日

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