06 荒川上流――川の流れのままに
それは子供の頃の話です。
渓流釣りが好きな父に連れられ、荒川の上流に連れて行ってもらいました。
岩場をサラサラと清い水が流れる、典型的な渓流です。
川淵の岩場はバーベキューやらを楽しむ家族連れがたくさんいます。
夏--。
渓流の水は心地よい冷たさで、たくさんの子供が泳いでいました。
魚を求める釣人たちは、川が深い場所に集まって浮きを流していました。
そんな日です。そんな光景です。
僕も、川に入って水遊びをしました。
僕は、大きな岩の脇を流れ落ちる、急な水の流れを発見しました。
ちょっとした滝でした。
水の流れは急ですが、水深は子供の膝までくらいです。
好奇心のまま、僕はそのミニサイズの滝へザブザブ水をかきわけ、
近づきました。適度に藻や水草が生えた岩は、つるつると滑りました。
こ、これは----っ!!
急流に腰を落とすと、へそぐらいまで水に浸かりました。
岩に尻をのせ…えいやっと水の流れにまかせると…
やはり!
こいつは極上な滑り台だぜえええええええええええええっ!!
藻でつるるるるんと滑る岩は、なんの抵抗もなく、僕の体を流してくれます。
けっこうなスピード感でした。
水流がおちついたあたりで止まると、もう笑顔です!
お、おもしれええええええ!!
僕は今一度、天然すべり台、いや、ちょっとしたジェットコースター感覚を
楽しむため、さきほどのミニサイズの滝がある上流にザブザブ歩き出しました。
さあ、もう一度、楽しませてくれよ!
僕はミニサイズの滝の近くまで歩いてきました。
その時です!!
突然、足をなにかにひっぱられたかのように、尻餅をつきました。
尻を水底の岩に打ち付け、いってええ! なんて言えませんでした。
次の瞬間、僕は水の中にいたのです。
そんなに深くない川のはずでしたが、尻をうった瞬間、藻でつるりとすべり、
ちょうど、仰向けになって寝た状態のまま水に浸かっていたのです!
さらに、急な水の流れは、僕の体を下流に引きずり込んでいくのです。
得体の知れない圧倒的な力が、僕の足をひっぱるような感覚でした。
つるつる滑って岩もつかめません。
水の流れに逆らえず、大き目の岩に体のあちこちをぶつけ痛みを感じつつ、
ただ、流されるのみ、でした。
僕は、思いました。
こんな浅い川で溺れ死ぬなんて--!!
僕は幸運でした。
その水の流れは浅瀬へと流れ、僕は小石の川岸に流れ着いたのです。
流されていた時間は、そんなに立ってはいなかったのでしょう。
しかし、僕には異様に長く感じられたのです。
さらに、流されてきた上流を見ると…遠くに小さくミニサイズの滝が見えました。
数百メートルくらい流されていました。
もし、水流が浅瀬ではなく、深みに流れ込んでいたら?
子供心にゾッとしたのを覚えてます。
帰りの車で父に言われました。
「どうした、その足?」
「え?」
足首の少し上あたりに…手でつかまれたような跡が残っていました。