05 霊戦――霊的アイアンクロー
さて、話は東京に住んでいた駅のすぐ近くにあった家での事。
この家はけっこう、不思議で奇妙でイヤな体験を多くしたが、
今日は、その中でもとびきり奇妙である。
ある夜。
寝床で目をつむっているのだが、ぜんぜん寝入る事ができない。
眠りたいのに、頭が妙にハッキリしていて、眠れないのだ。
体感的には目をつむって、もう30分はたっているようなかんじだった。
こういう状態はストレスが溜まる。
明日は会社で早いんだから、さっさと寝たいのに。
横を向いて寝たり、枕の位置を変えたりして…だんだんと意識が無くなり、
眠りに入ったころだった、と思う。
横に誰か立っている。
一人部屋で寂しい一人暮らしだ。
泥棒か!?
いや、戸締りは一応、しっかりかけたつもりだ。
だとすれば、なんだ? --霊?
霊なのか?
しかし、しかしだ。
眠りにつけずにイライラしていた僕は、やっと眠りかけていたのに、
妙な霊現象でまた眠れなかった事で、怒りが湧いてきたのである。ふつふつと。
だいたい、霊とはいえ、人の寝床に勝手に入ってきやがって、
なんの権利があるってのか。何様のつもりだ。霊様か。
とはいえ、目を開けるのは怖い。
目を開けたら、すぐ目の前に人の顔がドアップで笑っていたらちびってしまう。
そんなありがちな手に乗るものか。
無視。そう、無視する事にした。
するとどうだろう、横で立っていた人の気配は頭の方に移動し、そこに座って、
僕を見ているような感じと思えた。
謎の人の気配は、顔を僕の頭の右上あたりにおいて、見下ろしているようだ。
しゃがんでいるので、けっこう気配の顔が近くに感じられる。
正直、むかついた。
なんだ? 僕の寝顔をみつめておもしろいのか?
怒り。
そして、僕は、目をつぶったまま、右手をあげ--人の気配の頭をがっしりと
つかんだのだ。
おお? 産毛が生えてる。ちょうど手の平が頭をおおうような感触。
そんなに大きい頭じゃないな、子供か?
ええい! くらえ! アイアンクロー!
僕は手に力をこめて、気配の頭をつかむ手にギューーーーっと力をこめた。
はははっははっははっはっは 眠りの邪魔をするからだーー!
気がつくと、誰もいない、いつもの夜の僕の部屋。
夢だったのか? いや、妙にリアルな頭の感触が手に残っている。
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ぼ、僕がさっき、つかんだ頭って、いったい何?
産毛の感触が手のひらにハッキリ残っていたのだ。
その正体が霊だったとしても、実在した人間だったとしても、
どっちでも怖い体験でした。