01 将門の首塚――昼と夜の感覚
昔、東京の大手町近辺で仕事をしていた事がある。
日々の仕事をしている内に、仕事場の近くに「あの場所」がある事を知った。
「将門の首塚」である。
非常に申し訳ないのだが、「将門の首塚」という存在をあまり理解していなかった。
1.怖いところ
2.たたりをもらうところ
3.米軍の工事を中止させたところ
僕の頭の中では、羽田の赤鳥居と同じ「タタリスポット」であった。
その後、帝都物語を読んで--マンガだが カムイ版と夢幻紳士が出るやつ--
はじめて、平将門の偉大さ、場所、恐ろしい祟り神であると同時に関東の守護神である事などを知ったのである。
同時に、近くの三井物産の部長方が将門の首塚の方に足を向けて座るように席を配置したら、歩けなくなった、などのこわい逸話も。
僕は、近くにそんな場所がある、このチャンスを逃したくなかった。
昼休み。
僕はやって来た--将門の首塚に。
大手会社のオフィスビルの谷間に、緑多き異空間として、その場所はあった。
その通りの少し先は皇居である。奇妙な因縁だ。
僕は驚いた。
将門の首塚に足を踏み入れた時、そのあまりに澄んだ空気に。
ここは、三車線一方通行などという奇妙な大通りを絶え間なく車が行き来する都会の
ど真ん中であるのに、一息で肺が浄化されるような感覚をもったのだ。
雨の後で、湿気が多かったのかもしれないし、一箇所にまとまるように生い茂る植物達の
新鮮な酸素の効果だったのかもしれない。
ただ、僕には--将門公の霊力なのではないか、と思えた。
自然と手をあわせ、僕は会社へと戻った。
僕は--正直、調子に乗った。
後日、夜。
再び将門の首塚に来ていた。
会社の飲み会の後、オカルトに興味がある後輩をさそって、ほろ酔い気分で。
「いや~前に来たときはさ~すごかったんだよ~なんかさ~浄化されてるようなさ~」
よせばいいのに、自慢げに語りながら。
夜の将門の首塚は--違っていた。
ビルの谷間で光の当たらぬそこは、小規模ながら、闇の森林であったのだ。
一歩、首塚に足を踏み入れた時、背筋がギクンとした。
顎がひき、汗が出た。
息が詰まった。
歓迎されていない--僕は、今、この場所にいてはいけない。
足が前に進まない、周り闇が恐ろしい圧力で僕を包み込んでくるような感覚。
しかしーー後輩は無言のまま、首塚の敷地に入り、いろいろと見ている。
なんだ? 僕だけか? この異様なプレッシャーを感じているのは?
などとガンダムのニュータイプを気取った言葉を脳内で発した、なんて言えるのは、
数年たった今だからだ。
僕は後輩があきるまで、底知れぬ闇の底で突っ立ていた。
そして--僕は天罰をもらう事となった。
その夜、ひどい下痢になり、トイレとベットを往復する事となったのだ。
元々、腸が弱い僕であるが、天罰だと思う。
おもしろ半分にほろ酔い加減で行く所ではなかったのだ。