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婚約破棄ですか?大丈夫ですよ、私は幸せです。

作者: 猫崎ルナ
掲載日:2026/05/26




「レーティアナ、君との婚約を破棄させてもらう」


「あらあら、いきなりどうしたんですか?」


唐突にヴォルが婚約破棄をしてきました。


あらあらあら、どうしたのかしら?



「私は…真実の愛に目覚めたんだ!」


「あらあら、真実の愛ですか?」


ヴォルは真実の愛に目覚めたと言います。


最近何か思い悩んでると思ったら、このことですのね



「なので、レーティアナはこれから好きに生きるがいい」


「あらあら、では…このままいっしょに生きましょうね?」



もう…ヴォルは昔から本当に不器用で、優しい人。



私があなたから離れるなんてあるわけないじゃないの



「私は、君のことを愛していない、好きに生きろ」


「あら?そうなのですか?それは悲しいわね?」


私がそう言うとヴォルの表情が曇り、今にも泣き出しそうな顔になる。



「…私は、レーティアナとの思い出なんてもう覚えていないんだ」


「ヴォル、わたくしはちゃんと覚えておりますわ。大丈夫ですよ」


ヴォルの左の瞳から一粒の涙が流れる。



「忘れたくなくても、この涙のように流れてしまうんだ」


「流れた記憶はわたくしが話して聞かせてあげますわ」



ヴォルはゆっくりとこちらに顔をむけて、じっと私を見つめる。





「君は…誰かな?」


「あらあら、わたくしはあなたの妻ですわ」



泣いていたことすら忘れてしまった様子でキョトンとした顔をして私をみるヴォル。



「なんだかお腹が空いたんだが…今は何時だ?」


「今は1時ですわ。もうすこししたらお菓子でも食べましょうか」


つい先ほど食事をしていたのに、それも忘れてしまったヴォル。



「…私の妻はレーティアナだ。君はレーティアナの母親だろう?」


「ふふ、そうですわね、私はレーティアナの母ですわ。」


「そうか、レティはお茶会にでも行ってるのだろうか…」


随分とシワが増えた私の顔を見て、私だと気づかないヴォル。



「なんだか背中が痛い。」


「あらあら、すこし体の向きを変えましょうね」



随分と軽くなってしまったシワだらけの体の向きを変える。



「あぁ、レティに会いたい。愛してるんだレティを…」


「ふふ、レーティアナも愛してるといつも言ってますよ」





最近は一日一回ほどしか私のことを私と認識してくれなくなったヴォル。








「母上、父上の介護は使用人にさせたほうが良いのではないのでしょうか?」


「あら、ダメよ?ヴォルの体に触っていいのは妻のわたくしだけですのよ?」


「母上は父上を愛してらっしゃるのですね」


「ふふ…。そうよ?わたくしの永遠ですもの」


「本当に、父上は男冥利に尽きるな」


「あなたも愛されてるじゃないの。ふふ、わたくしこの間見ましたよ」


「母上…!この歳になってそんなことを言われると恥ずかしいです」




あなたが私を忘れてしまっても、私はあなたのことを忘れませんわ。




「レティ。愛してる」


「わたくしも愛してますわ、ヴォル」


「君にプロポーズをした桜の木の下で、今年も君に愛してると言うよ」




婚姻して60年目の春がそろそろ始まりそうですよ。


今年もあなたからの愛の言葉を待っています。




終わり



2年前に書いた短編です

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