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繋ぐ味、二月の生姜焼き

形見の包丁を継いだ健太。

二月の冷気に祖父を思う切なさと高揚が混じる。

鉄鍋で焼く生姜焼きを頬張り、繋がる味にニッコリ笑う。


二月の夜は、刃物のように鋭く冷える。

健太は、台所の柔らかな灯りの下で、一振りの

包丁を静かに見つめていた。先代である祖父か

ら譲り受けた、重厚な鋼の牛刀。


目を閉じれば、研ぎ石の独特な匂いと、出汁の

湯気に包まれた祖父の背中が浮かぶ。

「健太、道具はな、自分の指の延長だと思え。

心を込めれば、道具が応えてくれる」

そう言って笑う祖父の手は、冬の寒さを忘れさ

せるほど分厚くて温かかった。

あんなに強かった祖父がもういない。そう思う

とキーンと冷えた空気とともに、胸の奥にツン

としたセンチメンタルな痛みが走る。


けれど、包丁を握り直すと、不思議と指先から

熱が伝わってきた。

使い込まれて少し細くなった刃身、手に馴染む

ように削られた柄。

祖父が何十年もかけて育て、自分に託してくれ

たこの「相棒」の重みが、今は何よりの心強さ

だった。

「じいちゃん、見ててくれよ」

寂しさを振り払うように呟くと、言いようのな

いワクワク感が胸を突き上げた。


健太は、使い込まれた鉄鍋を火にかけた。

作るのは、寒さが厳しい時期に祖父がよく作っ

てくれた、究極にシンプルな「厚切り豚の生姜

焼き」だ。


包丁を肉に当てると、驚くほど滑らかに刃が吸

い込まれていく。まるで包丁自体が意思を持っ

て、肉の繊維を優しく解いていくかのようだ。


ジューッ!と、鉄鍋の上で脂が弾ける快活な

音が響く。醤油の香ばしい匂いと、生姜の爽

やかな香りが、冷え切った台所を一気に「春」

のような温もりで満たしていく。


余計な副菜はいらない。

炊きたての白い飯と、鉄鍋から直接皿に盛った、

湯気の立ち上る厚切り肉。


「いただきます」


一口頬張ると、閉じ込められていた肉の旨味が

じゅわっと溢れ出し、体の芯まで熱が溶け出し

ていく。

祖父が守り抜いた道具の切れ味と、自分がこれ

から刻んでいく未来。その両方が混ざり合った、

世界で一番深い味がした。


「……うまい。最高にうまいや」


健太は、熱い肉をハフハフと転がしながら、

思わず独り言をもらしてニッコリと笑った。


「じいちゃんの包丁、やっぱり世界一の

味がしたよ」


その表情は、かつて美味しいものを食べた時に

見せてくれた、大好きな祖父の笑顔にそっくり

だった。


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