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冬の夜のオムライス

裏切りに凍える冬の夜、一人の女性が来店。

健太が出した特製オムライスの隠れた辛味が、

彼女の芯を熱くし、新しい決意を灯す。

北風が吹き荒れる一月の深夜、路地裏に佇む

『喜怒哀楽』の暖簾を、一人の女性がくぐっ

た。

コートの襟を立て、肩をすくめた彼女の指先は、

寒さで白く震えている。その表情は、裏切りへ

の怒りと孤独な悲しみが混ざり合い、ひどく

複雑な色に濁っていた。


健太は黙って熱いお茶を差し出し、彼女の顔

をじっと見つめた。

感情が幾重にも重なり、どの札を掲げるべき

か迷う。


「……何にしましょう」

「何でもいいわ。でも、お腹の底まで冷え切っ

て、何も味がしそうにないの」


女性は、信じていた恋人に嘘をつかれ、凍て

つく街をあてもなく歩いてきたという。


健太は少し考え、厨房の奥から『哀』と『怒』

の札を同時に取り出した。

だが、それを掲げることはせず、代わりに

鉄鍋を強火にかけた。


「お待ちどうさま。特製のオムライスです」


運ばれてきたのは、真っ赤なケチャップが鮮

やかな、ごく普通のオムライスだった。

しかし、スプーンを入れると、中から出てき

たのは真っ白なバターライス。

そしてその中心にはトロリと溶け出す半熟の

卵と、ピリリと辛い青唐辛子が隠されていた。


「外側は情熱の赤、中は冷え切った白、そし

て芯には譲れない怒りの辛味。……あなたの

今の心そのものですよ」


女性は驚いたように目を見開き、一口、また

一口と運び始めた。甘いケチャップに癒やされ

優しいバターに包まれ、そして最後にやって

くる鋭い辛味に、ハッと我に返る。

完食する頃には、女性の頬に赤みが差し、

瞳には凛とした光が戻っていた。


「……ごちそうさま。何だか、身体の芯から

熱くなったわ」


女性が店を出る頃には、空には冬の澄んだ星

が輝いていた。

健太が皿を洗っていると、鉄鍋がチリンと、

澄んだ鐘のような音を立てた。


それは、凍りついた感情が溶け出し、新しい

『決意』に変わった合図だった。


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