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跡継ぎの鉄鍋と、希望の五目おじや

健太が先代から受け継いだ「道具」にまつわる、少し不思議なエピソード。

『めし処・きどあいらく』の厨房で、健太が

最も大切にしているのは、祖父から譲り受け

た真っ黒な鉄鍋だ。

この鍋は不思議な性質を持っていて、火にか

けると、その時作る『感情』に合わせて音が

変わる。


「喜」のチャーハンを作る時は、パチパチと

弾けるような乾いた笑い声が聞こえる。

「哀」の肉じゃがをコトコト煮込めば、しと

しと降る雨音のような、静かな調べが響く。

健太はその音を聴きながら、調味料の加減を

微調整するのだ。


ある日の昼下がり、店に一人の青年が入って

きた。彼はメニューを一目見るなり、

「全部。喜怒哀楽、全部ください」と投げや

りな声で言った。

見れば、青年は疲れ果て、心にぽっかりと穴

が空いたような、空虚な目をしている。


健太は困惑したが、やがて黙って鉄鍋を火に

かけた。

四つの感情を一度に一人の客に出す。

それは先代も成し遂げたことのない、禁忌に

近い挑戦だった。


健太は、鉄鍋の中に『喜・怒・哀・楽』の

全ての食材を投入した。

すると、鍋からは嵐のような轟音が響き、

やがてそれらが一つに溶け合い、今まで聞いた

こともないような『懐かしい子守唄』のような

音に変わった。


出来上がったのは、黄金色に輝く『五目お

じや』だった。

一口食べた青年は、目を見開いた。


「……何だか子供の頃に戻ったみたいだ」


それは、どの感情にも分類できない、ただ

「生きている」という全肯定の味だった。

青年が店を出る時、その背中には少しだけ力が

戻っていた。


健太が鉄鍋を洗うと、鍋の底には祖父の筆跡で、

新しく『生』という一文字が刻まれていた。


跡継ぎの道は、まだまだ奥が深い。


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