続・五目おじや:再出発の味
清掃会社に就職した秋山誠が店主の健太に感謝を伝え、
店の汚れを指摘して健太を苦笑いさせる。
店を出る刹那、大量の布団を抱えた瀬戸と衝突しかけ、
秋山はその無秩序な荷物に職業病をうずかせる。
あの夜、健太が出した「五目おじや」は、
凍えきった青年の心に灯をともした。
職を失い、絶望していた青年は今、小さな
清掃会社の作業着に身を包んでいる。
青年は昔から、汚れた場所が自分の手で
ピカピカになっていく過程に、何よりの
喜びを感じる性分だった。就職面接の際、
会社の汚れた窓ガラスを無意識に袖で磨
き始めた熱意が社長の目に留まり即採用
となったのだ。
青年は仕事の帰り道、心弾ませてあの
路地裏へ向かった。
暖簾を潜ると、鉄鍋が「ポクポク」と、
木魚のような安らぐ音を立てている。
「いらっしゃいませ。……ああ、先日の」
健太は、青年の明るくなった顔色を見て、
少しだけ口角を上げた。
「あの、先日は本当にありがとうござい
ました。僕、ビル清掃の会社に就職が決
まったんです。秋山 誠といいます。
これ、僕の初めての名刺です!」
差し出された名刺を健太は丁寧に受け取った。
「秋山さん、ですね。おめでとうございます。
好きなことを仕事にできたのなら何よりです」
健太は、彼の門出を祝う隠し味を加えた、
生姜たっぷりの豚汁定食を作った。
一口啜れば、身体の芯から活力が湧いてくるよ
うな、力強い「喜」の味がした。
レジ横の福寿草が黄金色の花弁を精一杯広げて
いる。
「ごちそうさまでした! あ……店主さん、
あそこの換気扇の隅、わずかに油の酸化した
跡が。今度ボランティアで徹底的に掃除させ
てください!」
「いや、仕事として頼みますから。……そん
なところまで見てるなんて、まいったな」
健太は、自分でも気づかなかった細かな汚れ
を一瞬で見抜かれ、プロの意地と気恥ずかし
さが混ざったような苦笑いを浮かべた。
「では、また来ます!」
秋山が満足げに店の引き戸を勢いよく開けた、
その瞬間だった。
「わわっ! す、すみませんっ!」
巨大な白い塊――「高級羽毛布団・10年分」
の山を抱えた瀬戸が鼻を真っ赤にして突っ込
んできた。秋山は間一髪で身をかわし、目を
丸くする。
「健太くーん! 助けて! 福引きでこれ当た
ったんだけど、重すぎてクシャミが止まらな
いよ! ま、いっか!」
「瀬戸くん……またか……」
嵐のように店内に雪崩れ込む瀬戸一馬を、
秋山は呆然と見送った。そして、瀬戸が引き
ずる布団の裾を見つめ、ポツリと呟いた。
「あの布団、素材ごとに圧縮袋で整理したい」




