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黄金色の小さなおまじない

卵を落とし泣く少年に、健太は特製の卵焼きを焼く。

好みの「甘いの」が形を成す魔法に、

絶望はワクワクへと変わり、黄金色の勇気が灯った。

二月の風が冷たい夕暮れ。健太は買い出しの

帰り道、道端で泣いている少年を見つけた。

足元には、無惨に割れた卵のパック。


「どうしたの!? 大丈夫?怪我はない?」

健太が屈んで聞くと、少年は声を詰まらせた。

「おばあちゃんに卵焼きを作ろうと思ったの。

元気がないから、僕が作ってあげたかったの」

少年の瞳は、自分への不甲斐なさに沈む『哀』


「よし、お兄ちゃんの店で、最高のを焼こう」

健太は少年の手を取り、自分の店へ招き入れた。


健太はボウルに新鮮な卵を割り、箸を構えた。

「おばあちゃん、どんな味が好きなのかな?」

シャカシャカと、小気味良い音が響きだす。

少年は身を乗り出し、食い入るように答えた。


「甘いの! おばあちゃん、甘いのが好きなの」

「了解。じゃあ、砂糖を多めに入れておこう」

健太は少年の願いを、卵の中に優しく混ぜた。


熱した鉄鍋に、黄金色の液がじゅわと広がった。

健太が箸を動かすたび、薄い層が重なっていく。

液が固まり、ぷっくりと厚みを増していく姿に

少年の目は、魔法を見るように輝く『楽』


「うわぁ、だんだん形になってきた! すごい!」

トントンと、軽やかなリズムで巻かれるたびに

湯気が立ち昇り、お月様のような色が顔を出す。

少年の頬は、焚き火に当たったように赤らんだ。


「おまちどうさま。特製のパワー卵焼きだよ」


健太はそれをタッパーに詰め、袋を手渡した。

「キミが運んだから、この味になったんだよ。

おばあちゃん、きっと一口で元気になるよ」


少年はハッとして、大事そうに袋を抱きしめた。

「ありがとう、お兄ちゃん! 僕、運ぶよ!」

少年の顔には、誇らしげな『喜』の灯が点った。

健太が笑うと、鉄鍋が幸せそうに鳴った。


少年は何度も振り返り、手を振って駆けていく。

「ありがとう! バイバイ! お兄ちゃん!」


健太は可笑しそうに目を細め、小さく呟いた。

「前を向いて歩けよ。また転んじゃうぞ」


夕闇の路地には、優しい出汁の香りが残った。


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