並び替わる本棚
本棚の並びが勝手に変わる怪現象に怒る古本屋の主。
健太は「物語が会話している」と五目豆を出し、
彼の頑固な心を冒険心へと変えた。
二月の底冷えが残る、風の強い午後。暖簾を
くぐったのは、眉間に皺を寄せた老店主だった。
彼は古本屋の主で一冊の辞書を叩きつけた。
「本棚の並びが勝手に変わる日があるんだ。
ミステリーの横に図鑑が割り込んでくる!」
彼の瞳は、整理がつかない怒りに満ちた『怒』
だが、その奥には言葉の迷宮に潜む『哀』
健太は少し考え、厨房の奥から札を出した。
それは『怒』と『哀』。だが札は掲げず、
代わりに鉄鍋で大豆とひじきをふっくら煮た。
「おまちどうさま。二月の特製五目煮豆です」
運ばれたのは、一粒ずつ艶やかに光る豆の皿。
「豆の種類が混ざるから深みが出るんです。
本棚のズレも、物語が会話している証拠。
知らない世界が隣り合うのは冒険ですよ」
老人はハッとしてひと口ずつ噛みしめ食べた。
「本当だ。豆の個性が、喉で一つに溶ける」
食べるごとに、頑固な心の整理整頓が解け、
新しい知へのワクワクした『楽』が灯った。
完食する頃、彼の表情から皺が消えていた。
「明日、図鑑をミステリーと一緒に並べよう」
老人が呟くと、健太は温かい茶を差し出した。
「いいですね。きっと新しい物語が生まれます」
健太が笑うと、鉄鍋がパサリと音を立てた。
ページをめくるような、軽やかな風の音だ。
彼が店を出る時、暖簾の外は夕焼けだった。
健太が『福寿草』を見ると、黄色い花が、
彼の抱えた古い辞書を優しく照らし出した。
「ごちそうさま。また本が喧嘩したら来るよ」
黄昏の路地には、新しい物語の予感が漂った。




