第3話|代替
朝、教室に入ると、黒板に文字が残っていた。
自分の字ではない。
だが、内容は合っている。
今日扱う範囲。
要点。
消す理由がない。
*
生徒は、着席している。
端末が立ち上がっている。
画面は同じページを開いている。
配布していない資料だ。
誰かが共有したのだろう。
経路は分からない。
分からなくても、
問題はない。
*
授業を始める。
説明をする前に、
生徒の一人が言う。
「今日は、ここまでですよね」
確認だ。
自分は頷く。
「そうです」
それで済む。
*
板書をする。
だが、
写されない。
すでに画面にある。
ノートに書く必要がない。
*
問いを出す。
答えが返る。
速い。
正確だ。
補足を入れる前に、
次へ進んでいる。
*
自分の役割は、
確認だけになる。
進度が合っているか。
間違っていないか。
それだけだ。
*
チャイムが鳴る。
生徒は、静かに立つ。
誰もこちらを見ない。
見る必要がないからだ。
*
次の時間。
同じ教科。
別のクラス。
状況は同じだ。
板書は、
最初から想定されていない。
*
休み時間、
教室の外で声がする。
「動画の方が分かりやすいよね」
「倍速で見られるし」
「先生の説明と、内容一緒だし」
同意が返る。
比較はされていない。
置き換えられている。
*
職員室。
机の上に、
新しい書類が置かれている。
「授業補助教材の試験導入について」
自分の教科名がある。
担当欄は、
空白だ。
*
会議。
管理職が言う。
「この教材、評判いいみたいですね」
成績の推移が示される。
下がっていない。
むしろ、安定している。
「先生方の負担も減りますし」
減る負担に、
自分が含まれている。
*
質問される。
「使いづらい点は?」
考える。
使いづらくはない。
「特にありません」
それが正解だ。
*
午後の授業。
生徒は、
画面を見ながら進めている。
自分は、
教室の後ろに立つ。
全体を見渡す。
介入する場面は、ない。
*
誰かが手を挙げる。
一瞬、
こちらを見る。
だが、
画面に戻る。
自己解決だ。
*
授業後。
提出物を確認する。
理解は十分だ。
誤答は少ない。
自分の赤字は、
ほとんど要らない。
*
日誌を書く。
特記事項:なし。
それで、
帳尻は合う。
*
放課後。
質問対応の時間。
教室に行かない。
掲示を外す。
誰も気づかない。
*
廊下の掲示板に、
新しい案内が貼られている。
「学習支援コンテンツの活用について」
図がある。
生徒。
端末。
矢印。
人は、
描かれていない。
*
帰り際、
教室を振り返る。
黒板は、
使われていない。
だが、
授業は成立している。
*
自分は、
教室にいた。
だが、
そこにいる理由は、
もう説明されていない。
説明されないものは、
判断の外に置かれる。
判断の外にあるものは、
削減の対象にならない。
だが、
必要ともされない。
それで、
学校は回っている。




