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第2話|回避


 チャイムが鳴る前に、教室に入る。

 生徒は、もう座っている。

 机の上に、ノートと端末。

 準備は整っている。


     *


 授業を始める。

 前回の続き。

 区切りの良いところから。

 「ここまでは、分かりますか」

 頷きが返る。

 声はない。

 理解しているかどうかは、

 分からない。

 だが、

 止める理由もない。


     *


 説明を続ける。

 途中で、生徒の一人が端末を見る。

 画面を隣に寄せる。

 小声で何かを伝える。

 式が出る。

 結論が出る。

 正しい。

 自分の説明より、

 少し早い。


     *


 黒板に書いた内容と、

 同じ答えが出ている。

 経路が違うだけだ。

 間違いではない。

 注意する必要もない。


     *


 「質問はありますか」

 一拍置く。

 生徒同士が目を合わせる。

 小さく首を振る。

 こちらを見る前に、

 解決している。


     *


 授業が終わる。

 チャイム。

 生徒が出ていく。

 廊下で、声がする。

 「あとで、あれ見とく?」

 「もうまとめてある」

 どこで、

 という部分が抜けている。


     *


 次の時間。

 別のクラス。

 状況は同じだ。

 説明は通る。

 だが、補足が要らない。

 補足が要らない授業は、

 静かだ。


     *


 板書を写す速度が、

 以前より速い。

 写す前提で、

 理解しようとしていない。

 理解は、

 別の場所で済ませる。


     *


 休み時間。

 廊下で、生徒が声をかけてくる。

 一瞬、こちらを見る。

 だが、

 質問ではない。

 「このあと、別の先生のところ行くので」

 報告だ。

 許可も、

 判断も要らない。


     *


 職員室。

 他の先生が、生徒に囲まれている。

 質問。

 確認。

 再説明。

 自分の机の前は、

 空いている。

 空いているが、

 誰も困っていない。


     *


 管理職が声をかけてくる。

 「最近、授業どう?」

 「問題ありません」

 それが事実だ。

 成績も、

 進度も。

 問題は起きていない。


     *


 午後の授業。

 課題を出す。

 生徒は、

 すぐに取りかかる。

 途中で、誰も止まらない。

 止まらないということは、

 詰まっていないということだ。


     *


 だが、

 終わったあとに気づく。

 提出されたノートに、

 自分の言葉が残っていない。

 板書は写されている。

 指示も守られている。

 だが、

 説明の痕跡がない。


     *


 放課後。

 質問対応の時間。

 教室に行く。

 誰もいない。

 掲示は出してある。

 時間も共有されている。

 だが、

 来ない。


     *


 廊下を歩く。

 別の教室から、声が聞こえる。

 説明の声だ。

 自分の教え方とは、

 少し違う。

 だが、

 結果は同じになる。


     *


 職員室に戻る。

 机の上に、

 提出物が積まれている。

 採点は、

 淡々と進む。

 理解度は高い。

 自分の関与が、

 少ないだけだ。


     *


 日誌を書く。

 特記事項:なし。

 以前と同じだ。

 違うのは、

 その一行が、

 実態に合っていること。


     *


 帰り道、

 校門の外で生徒の声がする。

 「先生に聞かなくても、だいたい分かるよね」

 同意の声が返る。

 自分の名前は、

 出ない。


     *


 家に帰る。

 鞄を下ろす。

 今日は、

 何人に質問されたか。

 数える必要がない。

 ゼロは、

 最初から数ではない。

 回避されているわけではない。

 ただ、

 別の道が完成している。

 完成しているものは、

 戻されない。

 チャイムは、

 明日も同じように鳴る。

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