第1話|違和感
チャイムが鳴る。
教室に入る。
黒板の前に立つ。
出欠を取る。
名前を呼ぶ。
返事が返る。
全員いる。
*
板書を始める。
文字を書く。
区切る。
次の行に進む。
後ろで、椅子の脚が鳴る。
ノートを開く音が続く。
見ている。
写している。
それだけだ。
*
説明をする。
途中で区切る。
問いを置く。
反応はない。
以前なら、
ここで一人は手が上がった。
今日は、上がらない。
不自然ではない。
理解しているのかもしれない。
*
続ける。
図を書く。
線を引く。
誰かが小さく頷く。
だが、
こちらを見ていない。
ノートを見ている。
画面を見ている。
*
説明が終わる。
「質問はありますか」
間ができる。
長くはない。
待つには、十分だ。
手は上がらない。
「では、次へ」
進む。
*
途中で、
後ろの席から声がする。
小さい声だ。
隣同士の確認。
内容は、合っている。
自分に向けられた質問ではない。
*
授業が終わる。
チャイム。
生徒が立つ。
出ていく。
誰も、こちらに来ない。
以前は、
一人か二人、
何かを聞いていった。
今日は、ない。
*
次の時間も同じだ。
説明は通る。
進度も問題ない。
だが、
呼ばれない。
名前を呼ばれない。
肩書きも使われない。
*
休み時間。
廊下で、生徒が立ち止まる。
一瞬、こちらを見る。
そして、
別の方向へ進む。
回避ではない。
選択だ。
*
職員室に戻る。
書類を置く。
椅子に座る。
周囲の会話は、
予定と連絡の話だ。
自分の授業は、
話題に出ない。
困っていないからだ。
*
昼休み。
生徒が職員室に来る。
別の先生の机へ行く。
用件を伝える。
すぐに解決する。
こちらを見ない。
*
午後の授業。
板書は写される。
指示は通る。
だが、
間がない。
説明と次の説明の間に、
何も挟まらない。
挟まらないと、
授業は早い。
*
終業。
日誌を書く。
特記事項:なし。
それで、
正しい。
*
帰り際、
廊下の掲示を見る。
質問対応時間の表。
他の教科の欄に、
名前が書き込まれている。
自分の欄は、空いている。
空いているが、
困らない。
*
校門を出る。
生徒の声が聞こえる。
内容は、授業の話だ。
教科の話。
課題の話。
誰が教えたか、
という部分が抜けている。
*
家に帰る。
鞄を置く。
今日、
自分は何度呼ばれただろうか。
出欠のとき。
それだけだ。
それで、
授業は成立している。
成立しているなら、
問題はない。
問題がないなら、
確認は要らない。
確認されないものは、
次に進む。
チャイムは、
明日も同じ音で鳴る。




