ぱかっと、ただいま。
チアは、肩を落として帰路についた。
楽しかった。
でも、最後は、少しだけさびしかった。
家のドアを開けると、母の声がした。
「おかえりなさい、明音。
パパが、あなたを待ってたわよ」
「……ふぁ?」
思わず、ちんあなごの癖が出る。
居間へ行くと、
そこには大きな箱が置かれていた。
布が、そっとかぶせられている。
父が、少し照れたように笑う。
「明音。
お前に、プレゼントだ」
布を取ると――
そこには、水槽があった。
透明な水。
やわらかい光。
そして。
砂の中から、ゆらゆらと揺れる影。
「……ふぁ……!」
チアは、一瞬でわかった。
(明音だ)
水槽の中のちんあなごも、
一度ゆらゆら揺れてから、ぴたりと止まり、
こちらを見た。
「……ちんあなごちゃん!!!
ここ、わたしの家だったの!」
明音は状況をようやく理解した。
父は、何も知らずに続ける。
「最近、ちんあなごに興味ありそうだっただろ。
知人の水族館の飼育員から譲ってもらったんだ。
……飼うの、大変だけど。大丈夫か?」
チアは、答えるより先に、
水槽へ駆け寄っていた。
「ふぁ!」
「ちんあなごちゃん!」
水槽の中でも、
明音が、ぱかっと口を開ける。
その瞬間――
ふぁっと、世界が揺れた。
水の感覚。
重さ。
呼吸。
次の瞬間。
明音は、人間に戻っていた。
チアは、ちんあなごに戻っていた。
明音は、水槽をぎゅっと抱きしめる。
「……うん」
声が、少し震れる。
「大事にする。
ずっと……欲しかったんだ」
涙が、ぽろりと落ちた。
水槽の中で、
チアは、ゆらゆらと体を揺らす。
ガラス越しに、
明音を見ている。
もう、不安はなかった。
ここは、
安心できる場所。
明音は、
自分の速さで生きられる。
チアは、
ゆらゆらのままで愛される。
二人は、もう入れ替わらない。
でも――
同じ場所で、
同じ時間を、生きていく。
青い光の中で、
ちんあなごは、静かに揺れていた。
ふぁっとちんあなご、これにて終わりです。
読んでくださってありがとうございました。
エピローグとかまた書くことがあったら書きます。




