表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/21

別れのフェイズ

チアは、疲れていた。

でもそれは、嫌な疲れじゃない。


たくさん歩いて、

たくさん見て、

たくさん笑ったあとの――

楽しかった疲れ。


思い出してたら、まぶたが自然に落ちてきた。


「……ふぁ……」


小さく声が漏れる。


里香はその様子を見て、やさしく笑った。


「ちんあなごちゃん、楽しんでくれたよ」


そっと、空を見上げて続ける。


「もう眠いみたいだから、今日は連れて帰るね。

明日、また来よう」


明音は水槽の中から、その言葉を聞いた。


(……よかった)


チアが、

人間の世界を、ちゃんと楽しめた。


それだけで、胸があたたかくなる。


二人の背中が遠ざかっていくのを見送りながら、

明音は、ゆらりと体を揺らした。




次の日。


水族館は、いつもと同じ静けさだった。


青い光。

水の音。

癒しの空気。


チアと里香は、並んで歩く。

自然と足は、あの場所へ向かっていた。


ちんあなごのコーナー。


……でも。


「……あれ?」


水槽の前で、二人は立ち止まった。


砂はある。

水も、光も、同じ。


でも――

ゆらゆら揺れる影が、ひとつもない。


代わりに、ガラスに貼られた小さな紙。


「ちんあなごたちは旅に出ました」


「……え?」


里香の声が、少し震える。


「いない……?」


チアの胸が、どくん、と鳴った。




二人は顔を見合わせて、

慌てて近くの飼育員に声をかけた。


「あの、ちんあなごたち……」


飼育員は、穏やかな顔で答えた。


「ああ、今日ね。

自然に返すことになったんです」


「……海、に?」


「ええ。

元気そうだったので」


その言葉を聞いた瞬間、

時間が、ふっと止まった気がした。


里香がチアの腕を引く。


「行こう!」


二人は、走った。



出口へ。


外へ。



でも――

外の空気は、もう静かだった。


トラックの音も、

人の気配もない。


青い海は、

遠くで、きらきら光っているだけ。


「……遅かった」


里香が、ぽつりと言った。


チアは、何も言えなかった。


胸の奥に、

波のような感情が押し寄せる。



悲しいのか、

寂しいのか、

それとも――


わからない。


ただ一つ、はっきりしているのは。


もう、

水槽の中には戻れない、ということ。


「ふぁー!!」


チアは大声で泣いた。

「ちんあなごちゃん...」


「ふぁー...!」

「大丈夫?ごめんね、ごめんね」



チアは里香とともに立ち尽くしていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ