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明音|ぱかっとフェイズ
部活が終わると、体はまだ熱を持っているのに、
頭の中だけが先に疲れてしまう。
声を出して、走って、気を張って、
そのまま家に帰るには、今日は少し重たかった。
だから明音は、
帰り道をほんの少しだけ曲がって、水族館に入る。
閉館が近い時間。
人はほとんどいない。
足音も、展示の説明も、みんな小さくなっている。
ちんあなごの水槽の前に立つと、
いつものように、胸の奥がすっと静かになる。
ゆらゆら。
前に進まないのに、止まってもいない。
——いいな。
そう思った瞬間、
足先がわずかに引っかかって、体が前に流れた。
近づきすぎたガラス。
反射する自分の顔。
ぱん、ではなく、
こつ、でもなく、
ただ、手のひらが触れただけ。
そのときだった。
水の向こうで、
一本だけ、砂から顔を出している影がある。
口が、
ぱかっと、ひらいた。
音はない。
でも、明音はなぜか、呼ばれた気がした。
名前を知らないはずの存在に。




