明音|帰り道フェイズ
家に向かう途中、
角を曲がったところで、里香が立っていた。
「あ、里香」
「明音。どこいってたの?
LINEしても、全然返ってこないから」
少し、責めるみたいで、
でも、心配が先に立っている声。
「ごめん……水族館に、行ってたんだ」
「水族館?」
一拍、間があく。
「……正確にはさ。
水族館の、水槽の中に、ずっといたんだけど……」
明音は、
自分でも重たいと思うくらい、
ゆっくり、言葉を選んだ。
笑われるかもしれない。
信じてもらえないかもしれない。
それでも、
里香なら、と思った。
数日間のこと。
入れ替わったこと。
ちんあなごのチアのこと。
話し終わるころには、
夕方の風が、少し冷たくなっていた。
里香は、
すぐには何も言わず、
ただ、聞いていた。
それから、そっと口を開く。
「……そうだったんだ」
「やっぱり、おかしかった?」
「うん。
道理で、って思った」
明音の肩が、
少し、ゆるむ。
「今日さ、水泳大会あったでしょ」
「……うん」
「そこでさ.....」
里香は、
会場の空気のことを話す。
ざわめき。
記者。
連覇がかかっていたこと。
それを聞いた瞬間、
明音の胸の奥で、
なにかが、ふっと切れた。
「あはははは!」
声が、思ったより大きく出た。
「そうだったんだ!
わたし、ダメだったんだ!」
「ちょっと!
笑うことないでしょ」
里香は、眉をひそめる。
「心配したんだよ?
会場、どよめいてたし」
「あはは……ごめん、....ごめん」
明音は、目尻をぬぐう。
「でもさ、これで信じてくれるよね?」
「……信じるけど」
里香は、少し真剣な顔になる。
「今は、明音本人なんだよね?」
「うん。
さっき、戻ったんだ」
明音は、
水族館のほうを、ちらっと見る。
「ちんあなごちゃんには、
悪いこと、しちゃったかな」
「……辛そうだったよ」
「そっか……」
一瞬、沈黙。
それから、明音は、
小さく笑う。
「わたしはさ、
のんびりできて、楽しかったんだ」
「……」
「あの子にも、
人間の楽しさっていうのを、
知ってほしかったな」
夕焼けの中で、
里香の鞄のシマエナガが、
小さく揺れた。
ふたりは、
しばらく並んで、歩いた。
終わったはずなのに、
まだ、続いている気がする時間の中を。




