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【常世の君の物語】No.14:異朱  作者: 百字八重のブログ


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第5話:訃報

「任務失敗、歌丸が殺された――」

その一報が忍の里にもたらされたのは、それから間もなくのことだった。

その知らせは翌日、洞耶経由で異朱にも伝えられた。

「うそだっ!」

異朱は思わずそう叫んでいた。

「嘘ではない。任務は失敗した。歌丸は殺された。それが事実だ」

歌丸の父である洞耶の顔を、異朱はまじまじと見つめた。

その表情はいつもと変わらないように見えたし、いつも以上に厳しくも見えた。

忍は表情をみだりに変えてはいけない。

歌丸が教えてくれた忍の心得だった。

涙ひとつ流さない洞耶に、異朱は身勝手ないらだちを覚えていた。

「歌丸は――、歌丸の死体はどこにあるの」

異朱の口からそんな言葉がこぼれた。

「一緒に任務にあたっていた者によると、歌丸の死体は村はずれの池に沈められたそうだ」

異朱の目がかっと見開く。

「そこまで分かっていて、なんで取り返しに行かないの」

洞耶の静かなまなざしが異朱をとらえる。

「任務に失敗した忍の死体はそのままにする決まりだ。取りに行った者が二重三重の失敗を重ねる危険を防ぐためにな」

「そんな――」

歌丸が、殺された――。

にわかには信じがたいその事実を、異朱はまだ、受け入れられないでいた。

そんな異朱に、洞耶は「もう忍のことは忘れろ」とだけ言い置いて、音もなく姿を消した。

一人林の中に残された異朱は、歌丸との修行で傷ついた大木を前に、ひとり呆然と立ち尽くしているのだった。


一方その頃、貴世とテンの元にも、「村はずれの池で子供の死体があがった」という噂が飛び込んできていた。

「閑古鳥の鳴く店の番も飽きたし、どれ、見に行ってみるか」

既に相当の人が池の方へと足を運んでいるのを見て、貴世とテンは店の者に後を任せ、二人並んで村はずれの池の方へと歩いて行った。

空からは、やはり白いものがちらちらと不規則な筋を描いて舞い降りていたが、積もるほどではなく、ただ凍てつく空気が人々の足元から這い上がりそこここで白い吐息に変わっていた。

大通りを抜け、村はずれに続く細道を人の波にまぎれて進んでいくと、なるほど、小さな池があり、そのまわりに黒山の人だかりができていた。

貴世とテンはそれを押しのけ前の方へと進み出る。

すると人々の中央に、一人の子供が、ござの上にあおむけになって寝かされていた。

当然、その息はない。

肌はすでにどす黒く沈んでいた。

貴世は子供の顔をまじまじと見つめた。

どのような死に方をしたのか、子供の顔は苦痛に歪んでいる。

しかしどうやら自分はその顔に見覚えがあることに貴世は気が付いた。

「テン、この子、先日店の前で元太に殴られた子の連れだよ」

貴世は視線を子供の死体に置いたまま、テンに語りかけた。

「ああ、よく覚えている。おとなしい感じの子だったね。そんな子に何が起こったというんだ」

「あんなに元気だったのに。店の器を大事そうに抱えて感じ入っていたのにね」

少しばかりの沈黙が、二人の上におりる。

「貴世、気づいたかい?この子、首を絞められて殺されているよ。泥で見えないけれど、間違いない」

貴世はテンを見返した。

「妖の勘?」

「純然たる事実だよ」

そう言うと、テンは子供の死体を検分している役人らしき男に近づいていった。

「もし、この子はこれからどうするんです?」

問われた男はテンに向き直り、「身元が分からなきゃあ無縁仏として寺で弔うよ」とぶっきらぼうに答えると、そのまま手を合わせ南無阿弥陀仏と唱えだした。

テンも貴世もそれを受けて両手を合わせ、軽く南無阿弥陀仏を唱えると、静かに人込みを抜けてその場を後にした。

見るものを見終えた人々と同じように、二人はとぼとぼと来た道を帰ってゆくのだった。


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