流されたラッコ
ある海でラッコの群れが暮らしていた。
その中に一頭、めんどくさがりなラッコがいた。
ラッコは眠る時、流されないように海藻を体に巻き付けて寝る。
しかし、ある時そのラッコは、海藻を巻き付けずに眠ってしまった。
そのラッコが目を覚ますと、群れからだいぶ離された所まで流されてしまっていた。
最初は慌てたが、離れた所にいる群れを見てこう考えた。
「私が流されてしまった事には、その内みんな気付くだろう。待っていれば助けようとしてくれるさ」
そう判断したラッコは何もせず、静かに海に浮かんで助けが来るのを待っていた。
一方、群れのラッコ達も離れた所にラッコが一頭いる事に気付いた。
「おい、あんな所に仲間がいるぞ」
「寝ている間に流されたのか?」
「助けた方がいいんじゃないか?」
「でも、流されたのならもう少し慌てるんじゃないか?」
「確かに、戻って来ようとしている様子も助けを求めている感じもしないな」
「じゃあ遊んでいるだけなのかな?」
「きっとそうだよ。自力で戻って来られるさ」
皆そう考え、誰も助けに行こうとはしなかった。
そうとも知らず、流されたラッコは自分では何もしようとせずに、ただ黙って助けが来るのを待ち続け、どんどん流されてしまった。
慌て始めた時には既に潮の流れに逆らえなくなり、やがて仲間達の姿も見えなくなり、帰れなくなってしまった。
そして孤立してしまったラッコはシャチに食べられてしまったのだった。
助けて貰う側の人間も、助けて貰おうとする努力が必要である。
自分の問題を他力本願で解決しようとする人間が『助けてあげたい』と思われないのもそうだが、『助けて欲しい』と主張できない人間も助けては貰えない。
助けが必要なのかがハッキリしなければ、助ける側も迷ってしまうのである。




