ある画家が語る
ある画家が、一つのキャンパスを一人の人に見せながら言った。
「このキャンパスには、まだ何も描かれていない真っ白なままだ。そうだな?」
そう言われて、見せられたその人は「はい」と答える。
返事を聞いた画家は黒い絵の具を使い、キャンパス全体を大雑把に塗りつぶしていく。
「今はこのキャンパスはどうなっている?」
「黒くなっています」
「黒くなっている。君は今そう言ったな?だが私は大雑把に塗っただけだ。まだ所々白い部分は残っている」
キャンパスを指しながら画家は続ける。
「このキャンパスはついさっきまで完全に真っ白だった。だが大部分が黒く染められたため、君は『黒くなった』と認識した。まだ白い部分が残っているにも関わらずだ。同様に人間は状況が大きく変わると、まだ変わっていない部分があるにも関わらず、全てが変わってしまったかの様に認識してしまう事がある。まだ味方がいるのに全てが敵になったと思ったり、残っている物があるのに全てを失ったと思ってしまったりだ」
「はい」
「だから本当に『全て』なのかを冷静に確認しなさい。それから、その様な人に会った時は『全て』ではない事を教えてあげなさい」
「はい!」