エピローグ
それはまだ、千年の時を生きると言われている竜達が自然の営みに調和と秩序を与えていた時代…竜王と人との間に産まれた娘と次の時代を担う竜との恋の物語…
「ならばジョセフ王よ!私の腹を切り裂き、臓物を引きずり出してその血肉を食らい御身の糧とされて下さい。」
ニルはそう叫ぶと手にしていた小刀の切っ先を己に向けて突き立てた。
真っ赤な血しぶきが辺り一面をその一色に染める。
「待て!ニル!止めろ!」
カイの叫びと身体は衛兵に取り囲まれていて、ニルの元には届かない。
「ニル!なんて事を…」
ピリカは慌てて娘に駆け寄ろうとするが、両腕を衛兵にガッシリ取り押さえられて身動きが取れない。
みるみるうちにニルの着ていた服は血に染まり、やがて彼女は力なくその場に倒れ伏す。
それを見たジョセフ王はニタリとほくそ笑み、数人の衛兵に指示を出す。
「あれを荷車に積み、急ぎ城へ持ち帰れ!なるべく血をこぼすな!少しでも新鮮なうちにソフィアに飲ませるのだ!わしも直ぐに戻る!臓物は煮て食す!肉は燻製にしろ!わしの許可なくして何人たりとも口を付けてはならぬぞ!背いたものは即刻首を跳ねる!」
そのあまりの言いようにピリカは、自身のこれまでを心の底から悔いる。
あの日、山の麓で出会った男と恋に落ちなければ、子を成さなければ…我が子のこんなにも惨たらしい姿を見ずに済んだものを…
直ぐ側には父の無残な骸が物言わず横たわっていた。