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公爵令息は愛を手放す(前)

アルマンド視点です。


残酷なシーンがあります。

苦手な方はとばして下さい。

4/6 改稿しています。

 

 周りは嘘と建前、見栄、そんな虚飾ばかりだった。公爵家の三男として、私はその中で生き延びるため嘘をつき続けてきた。外見だけは良く生まれ、女たちは簡単に靡いた。


 ベアトリーチェ タンクレーディ。

 悲しいほどに嘘が苦手な君がどれほど眩しかったことか。


 ◆ ◆ ◆


 ガチャッ、ガチャッ


「やめて、許してお兄様!」

「私は公爵夫人よ、離しなさい!無礼者!離しなさいったら」 


 鎧の軋む音。引きずられる女たちの悲鳴。塔の廊下に響く罵声。騎士たちは罪人を最上階の部屋に放り込んだ。


粗末なベッドと机。微弱な魔導灯。窓は吹きさらしで、冬の寒気が部屋を満たしていた。


 腕に魔封じを嵌められている年嵩の女が髪を振り乱しヒステリックに叫ぶ。


「エドゥアルド!公爵夫人である私にこの仕打ち。旦那様が許すとお思い?」

「義母上。いや、義母などと口にするのも憚れる悪女が」

長兄エドゥアルドの声は氷のようだ。

「父上には隠居して頂いた。今は私がデサンティス公爵だ」


「なんですって! 勝手なことを」

「ハッ!父上を誑かしマリーアと共に散財し公爵家の財政を傾け借金まみれにしただけでは飽き足らず、タンクレーディ家の令嬢を使って女衒紛いの事をしようとは。恥を知れ!」


 長兄エドゥアルドが憤懣極まりない様子で叫ぶ。何もかも手遅れになったのだ。この悪女と義妹のせいで。


私は拳を握り締めた。今夜、彼女たちの企みが発覚しなければ――ベアトリーチェは媚薬を飲まされ、男たちに辱められるところだった。


 浮き足だっていて直前まで全く気がつかなかった。先んじて計画を知ったクラウディオ  タンクレーディに殴られて当然だ。


 なのに。この毒婦ときたらベアトリーチェを愛する者達の前で燃料を投下する。


「全てはデサンティス公爵家のためよ。あの女から薬草事業を奪うため…」


 クラウディオが嗤った。


「薬草事業をおまえ達の物にねえ。何もわかっていないのだな。」


「そのような浅知恵でモンテフェルト小公爵まで怒らせて何を言う愚か者が。お前達のおかげで我がデサンティス家はおしまいだ。これで満足か?」


 バシッ!エドゥアルドの拳がヴァネッサを吹き飛ばした。


「う……。そんな、そんな。モンテフェルト公爵子息に持ちかけた時は……」


 そこに応えがあった。


「随分私を見くびってくれたものだ。」

「あなた様が。どうして」


 黒髪に緑の目のアルベルト モンテフェルト小公爵。薄暗い部屋の中で金の光が混じった緑の目をギラギラと光らせる様は獲物を狙う狼のようだ。


「私は貴女方と違ってね。愛する女を一時買って満足する性質じゃないのだよ。私だけじゃなく他の貴族にも声をかけたそうだな。よくもベアトリーチェを汚そうとしてくれたな。お前達は万死に値する。」


「だって!」

マリーアが叫んだ。

「あの女がアルマンド兄様を奪おうとするんですもの!」


「気色悪い」

私は思わず顔を背けた。

「色んな男と遊んでおきながら、その執着は何だ」


「アルマンドお兄様。私、本当に貴方をお慕いしていたのよ…」 


 マリーアは傷ついた顔をした後に上目遣いで見上げておずおずと言った。


 (愛していたら何をしても良いと思っているのか?恋敵を貶めて汚すのは許されると信じているのだろうか?イカれている。それは愛ではない、欲望だ。こいつ等の色欲まみれの嘘にはうんざりする。)


 もう我慢をしてまともに相手をする必要はないのだ。


「あ?お前、私にも言い寄っておきながら、拒まれた腹いせにリーチェを貶める噂をばらまきやがって。証拠は上がってるんだ。許さんぞ。」


 とやはり狂犬と化したクラウディオ タンクレーディが追い打ちをかける。


「あ、クラウディオ様。違うの、違うのよ、これは。お母様が言ったのよ、ベアトリーチェの悪い噂をばら蒔いてからアルマンドお兄様との縁談を持ちかけて恩に着せようって!」

「マリーア、黙って!」

「何よ、何よ!お義父様だって賛成していたじゃない。ブルラエルベの薬草事業をベアトリーチェから取り上げようって。一生飼い殺しにしようって。ベアトリーチェを貴族に売れば二重に金になるしデサンティス公爵家は安泰だって!お母様と話していたじゃない!」


 ずんっと空気が重くなった。


「どうやら元公爵にもさらに聞き出す事が増えたな。」


 喚きたてるマリーアを無視してクラウディオが吟遊詩人エンリコ マリーノに命じた。


「エンリコ、枷を。」

「かしこまりました。」


 銀髪の吟遊詩人が静かに指を鳴らすと、鎖が女性たちの足首を縛った。テーブルには二つの杯が置かれる


 アルマンドは目を瞠った。無詠唱での魔力行使に伝説級と言われる収納魔法。苦も無く使うあたり、ただの吟遊詩人ではない。何者なんだ?


 

「選べ」

エドゥアルドが宣告した。

「毒か、餓死か」


「嫌よ、死にたくない!」


 エンリコが土魔法で窓を塞ぎながら呟いた。


「モルガナに似た姫を辱めようとは…流石に腹が立ちますね」 

「エンリコ、事なかれ主義のお前が珍しいな」

「貴方方は私達の子孫ですからね。」


 エドゥアルドが吐き捨てる様に言った。


「直接手を下すのすら悍ましい。」


 一方。子孫? と不思議そうな顔をするアルマンドにクラウディオは説明した。


「エンリコ マリーノは魔法使いで私達の祖先、高祖父にあたるんだ。高祖母も魔女でね。おかげでタンクレーディ家は魔力が強く複数属性の魔法を使いこなせる。」


 アルマンドも魔力が強い者は長命になるとは知っている。魔力を持つ者が徐々に減り始めている現在に今も生き長らえている伝説級の大魔使いがタンクレーディ家にいたとは。ヴァネッサ達は絶対に喧嘩を売ってはいけない相手を怒らせたのだ。


「クラウディオ様、魔力ごり押しでやたら戦闘狂なのはタンクレーディの血ですよ。まったくエミーリアは趣味が悪い。」

「お前の孫娘だろう。」


 女たちは毒杯を選んだ。悲鳴が上がる。髪は抜け落ち、肌は黒く爛れていく。


「痛い!顔が...!」

「髪が...何の毒だというの!」


「簡単に死ぬと思ったか?」

クラウディオが嘲笑った。

「心根通りの醜い姿で苦しめ」


エンリコが壁を鏡に変える。ヴァネッサとマリーアは自分の変わり果てた姿に絶叫した。


「ごめんなさい、ごめんなさい、もうしないから許して、お願い、元に戻して。」


 己の醜い姿を見たくないと床に伏せ蹲る二人にエドゥアルドが唸るように叫んだ。


「そう言われてお前等は助けたのか、シジスモンドを!」


エドゥアルドの声が震えた。


「16歳の弟を辱め、死に追いやった!」


――あの日、次兄シジスモンドはまだあどけない年頃のマリーアに誘われたお茶の席で媚薬を飲まされた。父に見せつけられ、ヴァネッサに「乱暴された」と偽られ…自ら命を絶った。シジスモンドが遺した手紙で全てがわかったのだ。


 扉を封印し、塔を降りると、エドゥアルドは崩折れた。


「シジスモンドっ、敵は取ったぞ!」

「兄上。」


 アルマンドが号泣する兄の背中に手を当てる中、影の様に控えていたアルベルト・モンテフェルトが最後に静かに告げた。


「返してもらうよ」


唇を噛むアルマンドに、言葉はなかった。


次話に続きます。


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